13.婚約
近頃のリベラは、意中のクレイグ様のことで頭がいっぱいだ。
「ねぇメイリー、この髪型、クレイグ様可愛いって思ってくれるかな?」
「ねぇメイリー、このリボンクレイグ様の色よ!」
「ねぇメイリー、クレイグ様、次はいつ来てくれるのかなぁ」
恋する女の子、というやつだ。
(そのクレイグ様は酷い人なのよ、なんて口が裂けても言えないわ…)
クレイグ様が来てから、リベラは見違えるほど大人しくなった。言う事を良く聞いてくれるようになったし、物分かりもよくなった気がする。
試しに、「今日はお屋敷中を駆け回らないのですか?」と聞いてみると「そんな所クレイグ様に見られでもしたらどうするの!」と恥ずかしそうに言っていた。
(私もこんな感じ…だったかしら?)
小さい頃の私がどうだったかは、本人にはわからないものだ。
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クレイグ様が訪れた時から3週間経ち、クレイグ様がお父上を連れてまたやって来た。
(ど、どうしよう、婚約が決まってしまう…!)
どうにか婚約を結ばせないようにしようと固く決意したが、どうできる訳もなくその日が来てしまった。
内心焦りまくりであるが、皇室の方々の手前ちょこまかと動き回ることもできない。
「お、お嬢様、ほ本当にクレイグ様と婚約を結ばれるおつもりですか?」
「ん?うん」
「やはり婚約というものは、そう安々と決めてしまってはいけません、クレイグ様がどのような人かを、その、ゆっくりと判断して…」
「どうしてそんなこと言うの?メイリー、クレイグ様は素敵な人だって言ってくれたじゃない」
(ここ最近、リベラによるクレイグ様賞賛の言葉の嵐に適当に相槌を打っていたツケが、こんなところで!)
うるうると涙を浮かべながら「どうして喜んでくれないの」と言うリベラを前にして、それ以上クレイグ様を下げるようなことは言えなかった
「ではハロルド皇子、今後とも宜しくお願い致しますよ」
「ははは、皇子だなんて堅苦しい。これからは父親同士、仲良くしましょう」
(あぁ、婚約が、決まってしまった)
クレイグ様一行を玄関で見届け、その場で項垂れる。
「こらメイリアさん。コールドローズ家の侍女ともあろう者が、なんて顔をしているの」
「リラさん…」
「…顔色が悪いわ」
「大丈夫です…少し辛いことがあって」
「あまり思い詰めてはいけませんよ。体調が優れないと感じたら、直ぐにお部屋に戻って休んでくださいね」
「ありがとうございます…」
リラの優しい言葉に感動したが、それ以上にどうしよう、という焦りの方が大きい。
翌日には正式な文書を通して、クレイグ様とリベラの婚約が決まった。
昨日からずっと顔色の悪い私を見かねたリラやリベラが、どうにか私を休ませようとしたり、何か悩みがあるのかをしきりに聞いてきたが、何でもないと誤魔化すしか無かった。