11.出発
自室に戻って、リラが起こしに来るまでの時間でこの先のことを考える。
もしリベラがクレイグ様と出会うとしたら、来年の冬だ。
(…クレイグ様との婚約を、止めるべき?)
そもそもクレイグ様と婚約を結ばなければ、リベラは傷付かなくて済むかもしれない。
しかし私の幸せは。私という存在は、クレイグ様あってのものだった。
(どうしたら…)
時に任せ、あの場面が来たら私がどうにか──
(いや、最悪間に合わなくなってしまう)
全ての根底であるクレイグ様を、リベラから取り除くことが出来れば。
(試す価値は、ありそうね)
今は春、勝負は来年の冬だ。
来たるべき時の為、今は侍女として勤め上げなければ。
「リラ…さん!私は何処のお掃除をすれば良いのでしょうか」
「まぁ…申し訳ございません。もうお聞きになっているものだと」
「え?」
「メイリアさんは、リベラ様のお付きの侍女として迎えられたのですよ」
「お付きの侍女、ですか?」
「はい。リベラ様のお側で、リベラ様のお世話をしていただきます」
「…私はまだ、来て2日目です。もう少しお仕事に慣れてから、お付きの侍女となることは出来ませんか?」
(リベラの側に居られるのは有難い。けれど、私は侍女としてはまだ未熟だわ。失態を犯して屋敷から出されてしまっては元も子もない)
「本当にしっかりされているのですね、メイリアさんは…それでも勿論大丈夫です。メイリアさんが納得の行くまで、私がみっちりと、侍女として恥ずかしくない様にして差し上げます」
「えっあ、そういうことじゃ、いやそういうことかもしれないけれど」
「さぁ行きますよメイリアさん!先ずは挨拶からです」
(リラが教育熱心なのをすっかり忘れていたわ…)
ずるずると廊下を引きずられながら、マナーや立ち振る舞いに於いてはリアが一番厳しく、そして私を成長させてくれたということを思い出していた。
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それから2ヶ月後、いっぱしの侍女としてお屋敷に勤められるようになった私は、晴れてリベラのお付きの侍女となった。
侍女修行をしている2ヶ月間はとても忙しく、リベラと話すことすらままならなかったが、満月の夜には決まって2人で庭園へ行きお花を眺めながら喋り明かした。
翌日には寝不足になりリラにこっ酷く叱られたが、それもまた楽しかった。
「お嬢様、本日よりお側に使えさせて頂きます。メイリアと申します」
「もー、メイリーってば!いつもみたいにリベラって呼んでよ」
「それはなりませんお嬢様。私は侍女でございます」
「リラみたいなこと言わないでよ!ねぇメイリー、私たち今日からお昼も一緒居られるってこと?」
「そうなります…ね」
「やったぁ!!」
「お昼も…?」
「お昼に、ですよね!お嬢様!」
「そう!お昼に!言い間違えちゃった!リラ、今日のおやつはクッキーがいいなぁ!」
「はぁ…」
危うかったが、不思議そうな顔をしているリラを見ると、勘付かれてはいないみたいだ。良かった。
改めて。
私はメイリア・オルコット。メイリアとして生まれる前は、コールドローズ家の一人娘リベラとして、クレイグ様の婚約者として生きていた。
しかし紆余曲折あり、本日より7歳の私、リベラのお付きの侍女となった。
数年後、リベラが私のように破滅しない為に。
私はリベラの側で、メイリアとして。一侍女として、仕える。