9.何か
頭が真っ白になった。
目の前にいる女の子は、間違いなくリベラだ。かつての、私だ。
「…メイリアさん?」
「メイリアっていうのね!どうしてここに居るの?」
「メイリアさんは本日から侍女として旦那様と奥様、そしてお嬢様にお仕えするのですよ」
「リラといっしょってこと?」
「そうなりますね」
「ねぇねぇ、メイリアっていくつなの?」
「な、なさいです」
「私も!私も7さいなの!」
一緒だね!とはしゃぐリベラを前にどうしたら良いか分からなくなり、無意識にリラの方を見つめてしまう。
「お嬢様、メイリアさんはお着替えしなくてはならないのですよ。自己紹介はまた後にしてくださいな」
「え〜リラのケチ」
「本日のティータイムのお菓子は半分ですね」
「何で何で!もーリラきらい!」
はいはい、とリラに背中を押され部屋の中に入る。扉の外からはまだリベラの声が聞こえてくる。
「今のお方がリベラ様でございます。滅多に外へ出ることもありませんから、メイリアさんが同い年で嬉しかったのでしょう…服はクローゼットの中に用意してありますので、お着替えが終わり次第先程の歩廊へいらして下さい」
「はい…ありがとうございます」
「いえ。では」
リラの後ろ姿を見送り、簡素なベッドに腰掛ける。
(どういうことなの…?)
私はリベラだ。
リベラ・コールドローズとしての記憶は、確かに16歳までハッキリと覚えている。
でもさっきの女の子はリベラで、私ではない。
(意味が、わからない)
まるで自分が2人居るようじゃないか。でも、今の私はメイリアで、あの子はリベラで。
それなら私が偽物ということになるのだろうか。リベラとしての私は、偽物?
そもそも私のリベラとしての記憶が、嘘なのだろうか。
(頭が割れそうだわ…)
覚束ない足取りでクローゼットへ向かい、侍女服を取り出す。
(…これが私の、メイリアの服)
あの女の子の、リベラの服とは似ても似つかない程質素だ。
袖に手を通し、襟を整える。
お腹の奥から、悔しさなのか怒りなのか、悲しみなのか絶望なのか、形容し難い何かが這い上がってくる。
それらを喉の奥に無理矢理押し込み、私はリラの元へ向かった。