ピリッとしてピッとしてバリッとしたのである。
探せば触手というものはどこにでもいるものである。
草むら、川、池、木の上、はては雨に濡れてちょっとべちゃっとした所から居酒屋さんの水槽の中まで。
その中でもお話し出来るくらい賢い触手さんはそんなに多くない。
そして、どうお話ししていいか分からない触手さんもまたいるのである。
何気なく登った電柱の上、今日は電線の上で日向ぼっこでもしようかと、電線に乗ろうとした所で何かヒモの様な物を見つけた。
はたと見れば電線の一部の様にも見えなくもないが、何となく違う。何かの勢いで絡まったのかとも思ったが、それにしては綺麗に巻きついている。
よく見れば電気のコードにも見えなくもない。
触手かな?触手であるかな?
ジッと見ていたら電気コードの端の方が電線から解けて持ち上がった。
やはり触手であったか。
機械系触手のコード型さんであるな。
触手図鑑には、機械系触手さんは何の機械を食べたかによって頭の良さが違うと書いてあったと思うであるが……。
それは見て分かるものなのであろうか?
そもそも、意思疎通の仕方がよく分からないのである。
機械系触手さんも実を食べられるのであろうか?
そんな事を考えていたらコードさんは再び電線に絡まってしまった。
ふむぅ。
よく分からないがお邪魔をした様である。
他の電柱に移動しようかな?
そう思って振り返ると……何か凄いわしゃわしゃといた。
さっき見たコードがもっと何本も絡まりあったモノ、銀色に輝く丸いカクカクしたものから蜘蛛みたいにカチャカチャした足が生えたモノ、色とりどりの四角い箱がいくつも繋がったモノ、などなど。
これみんな機械系の触手なのであろうか?
というか、何故ここに?
その中の一つ、蜘蛛みたいなカシャカシャが僕の触手をつんつんしはじめた。
ピリッ ピリッ
な、なんかこそばゆいである。
ピリッ ピリッ
何か言いたげにこちらを見ているが・・・はて?
そういえば、ピリピリしてたのは手の方の触手であるな。
根っこさんなら・・・、いや、流石にピリピリは食べられないと思うのであるが、念の為。
根っこさんを蜘蛛カシャカシャさんに差し出して見た。
ピリッ
(お前はここで何をしている?)
⁉︎
ピリッ
(何をしに来たんだ?)
なんと⁉︎
意思疎通の方法ではないかとは思ったが・・・、まさか本当に根っこさんで聞こえるとは。
僕の根っこさん、本当に凄いであるな。
とはいえ、返答の仕方が分からないのである。
実は……食べられるのかな?
日向ぼっこをしに来ただけであるよ。
ポンッ
実をつけた触手を差し出してみたが、ふるふると揺れるだけだった。
ふむ。
機械系さんはピリピリでしか、会話出来ないのであるな。
どうしたものか。
手の触手さんでピリッと出せないものか。
とりあえず、ものは試しと実を引っ込めて手の触手さんでつんっとしてみる。
ピリッとしろー。
バリッ
わひょわ‼︎
い、痛いのである。
電線を掴んでいた触手からビリビリッと電気が走ったのである。
ピリッ
(なんだって?)
おや?
これは通じそうなのかな?
僕は日向ぼっこしに来ただけなのである。
バリッ
あひゃ!
か、加減が難しいのである。
ピリッ
(お前、植物系のクセに電気飛ばしてくるとか、面白い奴だな)
ピリッ
(そのくせ、言う事が日向ぼっことはな。まぁ今回は許してやるが、ここは俺たちのナワバリだ。 あまりウロチョロするんじゃねぇぞ)
ナワバリであるか。
何か懐かしいものを感じるのである。
確かにここは彼らの餌場であり、僕の様な植物系の触手には用のない場所である。
いたずらに他の領分を犯してはいけない。
それは猫の時に学んだ教訓である。
触手になって、忘れてしまっていたであるな。
電柱は諦める事としよう。
そそくさと降りようとした所で、またピリッっとされた。
(ちょっと待て)
ピリッ
(お前、本当に植物系か?)
本当かと言われても困るであるが、お返事するのは痛いので少しだけ勘弁して欲しいのである。
ピリッ
(お前、植物装飾されたコード・・・ではさすがにないか。でも何故ビリッ出来る?もしかしてCPUとか食ったのか?)
しーぴーゆー?
何の事であろうか。
えーっと、バリッとしないように、ちょっとだけ電線に触って・・・。
僕はただの植物系触手であるよ。
ビリッとしてるのは頑張ってるだけである。
それより、しーぴーゆー?とは何であるか?
ビッ
ひぅっ
ちょっとだけ上手に出来たのである。
ピリッ
(頑張っても普通は出来ねぇと思うんだが・・・、まぁいい。CPUってのはニンゲンの作った機械の考える所らしくてな。簡単に言やぁ、俺らの頭が良くなる食い物だ)
ほほぅ。
機械系にも色々とあるのであるな。
食べた物に、というのにはそんな理由が。
ピリッ
(そうだ、お前よ、鉄屑山に行ってCPUとか、アレ、拾って来ちゃくれねぇか?)
鉄屑山?
蜘蛛カチャさんがわちゃわちゃしてるコード触手さんをちょいちょいと指差した。
そこには赤い長四角い板あり、10と数字が書いてあった。
これは?
ビッ
ピリッ
(ヒューズというものだ。定格以上の電気が流れると切れる基盤の保護に使う物なのだ。これが欲しい)
よく分からないのだが……機械系触手特有の何か、なのであろうな。
鉄屑山とは?
ピッ
ちょっとコツをつかめたのである。
ピリッ
(鉄屑山を知らねぇのか)
バリッ
おわっ
ちょっと痛いのであるが、映像が流れてきた。
取って付けたような屋根の下に色んなガラクタが山とは積まれている場所と、そこまでの道のりの映像である。
ちょっと遠いであるな。
ピリッ
(それが鉄屑山だ。本当は俺らが自分で行けばいいんだが・・・、俺らは入れねぇ様になっててな。行けねぇんだ)
興味はあるが、ちと面倒であるな。
ピリッ
(もちろん、タダでとは言わねぇ。良いのを持ってきてくれたらとっておきの情報を教えてやる)
ほぅ。
ちょっとだけ気になるのであるな。
ピリッ
(植物系なら邪険にされねぇだろうし、頼むぜ)
ふむぅ。
まぁ、遊びがてら見てきてもいいかな?
期待されても困るであるが、ちょっと見てくるくらいならいいであるよ。
バチッ
にゃぁ‼︎
失敗したである。
ピリッ
(あぁ、構わねぇ。恩にきるぜ)
しかし、行くのは構わないであるが、基礎知識が無いことには判断に困る気がするのである。
女の子の家の書斎にそういった本はなかったはずであるし・・・、どこかにそういった本がないだろうか?
それとも、僕もしーぴーゆーを食べたら分かるようになるのであろうか?