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ふよふよするのは気持ちいいのである。

 さんさんと輝く太陽の光を一身に浴び、風がそよぐに身を任せ、水の上をたゆたう。


 優雅である。


 猫であった時、よく来ていた広い公園である。

 周囲が流れない川で囲ってあり、よく橋の上から魚などを眺めていたりしていたのだが……。


 水に浮かんで日向ぼっこが出来るようになるとは思いもしなかった。


 実際、触手という生物は楽な生き物である。


 腹が減ったら土でも石でもなんでも食えばいいし、眠くなれば道路以外ならどこで寝てもいい。


 腹を減らして鼠を追う事も、雨露に逃げ惑う事も、猫付き合いに奔走する必要すらもない。


 触手とは猫よりなお自由である。


 だが、解放されてみると、それはそれで寂しいのだな、と気が付いた。


 僕は、わずらわしいと思いながらも、なんやかやと楽しかったのかもしれない。


 今は触手である。


 なれば今、猫付き合いから解放されたなら、次は触手付き合いが待っているのであろうか?


 そう考えると、やはり面倒だな。なんて思うのは僕はどこまでいってもやはり僕なのだという証明であろう。


 猫であっても、触手であっても、僕は僕。


 ふむ。


 これは毛なし達の言う、真理、とか、悟り、とかいうものなのであろうか。


 全く毛なしとは不可解な生き物だ。


 こんな当たり前の事に大仰な名前を付けたがるのだから始末に負えない。


 ……。


 また書斎に御本を拝借しに行かねばならぬ。

 全くもって毛なしとは油断ならぬ生き物である。


(あの金魚め……)


 おや?


(どうしてくれるか)


 これは御神木さんの実を食べた時に似た声であるな。あの時は音と絵が一緒であったが・・・これは声だけである。


(こっちへくるな……)


 という事は僕の根っこさんが何か食べているのかな?


 水の中を見てみれば小さい粒がふよふよとしている。

 これかな?


(金魚め……)


 これであるな。


 どうやら、この水の中に植物系の触手がいるらしい。


 しかし、何か怨念めいたものを感じるのである。


 誰であろう?


 水の中は水草であり、藻であり、魚でありと色々といる。


 もちろん多くはないが、触手の姿も見える。


(君は誰?)


 おや?

 これは僕の事であるかな?という事は近くにいる?


 見えている近くの触手を眺めていると、プツリ、プツリと触手の先を切り離している藻に似た触手を見つけた。


(君は移動型なのか、羨ましい)


(僕も水の外を見て見たいが、金魚が邪魔をする)


(今日は水の中の穏やかな日だ)


(こんな日はいい事が起こる)


 おしゃべりな子である。


 しかし、金魚とは?

 たまに毛なしが飼っている赤い小さな魚の事であったと思うが……、さほど凶悪な生き物でもなかったと思うのだが、はてさて。


 とりあえず、何か答えてみる事としよう。


 さて、何から話すかな?


 僕は名もないただの触手である。

 触手の端に言葉を乗せて話しかけてくるのは君なのかな?


 ポンッ


 水中で実を作り、それと思しき水草に似た触手の前に持っていく。


 その触手がスルリと実を掴み、根元へと持っていった。


 ぷるりと身を震わせた触手がその一本をこちらに伸ばしてきた。


 何であるかな?


 その触手を僕の触手で掴むと、結構な長さでプツリと切れた。


 根っこさんで食べた。


(会話の出来る触手さんに会えて嬉しいよ。この辺の知性ある触手はみんな金魚に食べられてしまった。私も色々と頑張っているが、もう出来る事も少ない。こんな時でなければもっとお話ししたいのに、残念だ)


 なにやら切実なようである。

 しかし……金魚?


 もしよければ僕が退治してみようか?


 ポンッ


 あの小さい赤い魚なら群れで来ても大丈夫だと思う。

 出来るなら助けてあげたい所である。


 実を渡すと、また触手が伸びてきた。


(いけない。金魚は知能は低いが悪食で見境がない。今は私の端が嫌な気分を振りまいているのであまり近付いて来ないけど、それも大分効果が薄くなってしまった。悪い事は言わない。君もここから早く逃げた方がいい)


 あの沢山あったつぶつぶにはそんな意味があったのであるな。


 僕も知らなかったとはいえ、危ない所であったのかもしれぬなぁ。


 逃げる、か。


 動ける僕が逃げるのは簡単ではあるが、またふよふよと出来なくなるのは寂しい。


 思案している所に、慌てた様に水草の触手が伸びて来た。


(いけない、金魚が来た。早く逃げて……)


 そうは言われても、僕は水の上ではそんなに早く動けないのである。


 とりあえず、言われた金魚の姿を探してみる。


 果たしていかなる大群であるか。


 そう探していて気が付いた。


 とても大きな魚が近付いて来る。


 僕よりもはるかに大きい、それこそ、大人の毛なし程の大きさもある。


 その魚が近付いて来て、ようやく気が付いた。


 金色である。


 金色の魚。

 なるほど、まさしく金魚である。


 その金魚が僕に気付いたのか、真っ直ぐに向かって来た。


 僕は慌てて移動しようとしてみるが、前に進まない。


 むしろ後ろに下がる。


 あわわ。


 そうしている間に近付いて来た金魚がその大きな口を開け……、その口から何本もの触手を伸ばして来た。


 貴様も触手か‼︎


 あっという間に捕まった。


 水の中に引きずり込まれそうになるのを、必死に触手を伸ばして、川の上に垂れ下がった木の枝に捕まる。


 おぉおぉ、な、中々やるであるな。

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