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弱い子を守ってあげるのが猫の勤めなのである。

 ふぅ。

 日向ぼっこが気持ちいいのである。


 猫の時であれば、この時分、暑くて木陰に避難している頃合いなのだが、いつまでも日向が気持ちいい。


 生温い風がなお心地良い。


 しかし、今の時期であるなら心地よくすごせるであろうが、雪が降る頃にはどうなっているのであろうか?


 猫なれば冬毛に変わるのであろうが、蔓は蔓、触手は触手に違いない。

 それとも触手に冬毛が生えるのだろうか?


 いや……、あまり考えたくはないのであるな。


 雪の上を颯爽と走る毛むくじゃらの触手は、さぞ気持ち悪いに違いない。


 ……。


 まぁ、今はまだ夏だ。のんびりと日向を楽しむ事としよう。


 パッ


 おや、花が咲いた。


 触手図鑑に植物系触手は喜ぶと花を咲かせると書いてあったが、本当であるようだ。


 紫色をした、ツンツンとした丸い可愛いお花である。


 花単体としては可愛いと思うのだが、咲かせているのがいかんせん、にょろにょろとした触手である。


 双方合わせて見ると、毒がありそうな花にしか見えないのはご愛嬌であろうか?


 ……。


 気にしないでおこう。


 さて、そろそろであるかな?


 女の子が学校から帰ってくるのが、確かこの位の時間であったと思うのだが、いかんせん、猫の頃に時間を気にして動いた事がない。


 暑くなれば涼しい所に、寒くなればあたたかい所に、腹が減れば餌を探しに。


 我ながらダラダラと生きていたと思うが、猫とはそういうものであろう。


 そう、あの時も木陰で休んでいたら腹が減り、ふと女の子を思い出して……。


 そうしたなら虫を手にした悪たれ坊主が……。


 そうだ!思い出した‼︎


 あの時に、


「嫌だァ!」


 そう、こんな女の子の声を聞い……て?


 枝の上から身体を起こし、女の子を探した。


 居た!


 女の子が後ろを気にしながら、必死に走っている。


 その後ろには……猿?


 いや、一応は毛なしの一種か。

 ケラケラと笑いながら女の子を追いかけている。その手には黒いうねうねとした物が……。


 虫?


 アレはクワガタ虫であるな。


 アイツはあの悪たれ坊主か。この世界でも女の子に嫌がらせしておるのだな。


 許せん。


 スルリと枝から降り、女の子の元へと走った。


 ズザザザザザザザザザッ


 真っ直ぐに女の子の後ろへと回り込み、女の子の服にクワガタを付けようとしている悪たれ猿の顔に向けて飛んだ。


 バチッ


 っと悪たれ猿の顔に張り付いて耳をこそこそとまさぐってやる。


「う、うわぁぁぁぁぁぁ‼︎」


 にゃっはっは。

 怯えろ怯えろ。

 おっかなびっくり顔に付いた僕を剥がそうとするが、そうはいかん。

 顔から後ろ頭に回って背中に回り込み、そこからまた顔に張り付く。


「い、いやっいやだぁぁぁ!」


 にゃはは。


「う、うわ!うわぁぁぁぁ!」


 にゃーはっはっはっはっはっは。


 ま、今日の所はこの辺にしておいてやろう。


 また女の子に悪さをするのであるなら、こんなものでは済まさぬぞ。


 ポンッ


 と作り出した実を悪たれ猿の口に放り込み、ついでに未だ手に持っていたクワガタを取り上げて、近くにある木の枝に飛び移った。


 お前も災難だったであるな。

 もうあんな猿に捕まるでないぞ。


 そっとクワガタを幹に置いた。


 悪たれ猿は泣きながら逃げていったようだ。


 女の子は……と、呆けたように僕を見ていた。


「触手さん?助けてくれたの?」


 木の枝からぶら下がり、一本の触手を女の子の前に差し出した。


 もう大丈夫である。気を付けて帰るがよい。


 ポンッ


 実を女の子の前に差し出した。


 女の子は恐る恐ると実を取ると、口に含んだ。


 ……。


 食べてくれたのである。


 こんな陰鬱な触手の実を食べてくれると思わなかったのである。


「触手さん、ありがとう。あ、あのね・・・」


 お礼を言われたのである。照れるであるな。


 女の子は背負った赤い箱からゴソゴソと何か見覚えのある袋を取り出した。


「に、煮干しだけど……食べる?」


 袋から取り出したニボシを手に乗せて出した。


 今も持っていたのであるか。

 ありがたく、頂戴するのである。


 ニボシを受け取って枝に戻り、木の中に隠れた。


 なんとも気恥ずかしい気がした。


 ボリボリ


 僕の根っこさんは本当になんでも食べられるのであるな。

 なんとなく、懐かしい味がする気がするのである。


 パッ


 ふふっお花が咲いたであるな。照れるである。


 女の子は僕が隠れて行った方に手を振り、お家に帰って行った。


 やれやれ、である。


 今度は助けてあげられた。


 僕は思い出した。

 僕の転生する前の最後を。


 悪たれ坊主に虫を付けられ、混乱してしまった女の子を助けようと飛び出し、車に轢かれたのを。


 車が甲高い音を出した所までは覚えているが、その後の事は覚えていないのである。


 多分、女の子も轢かれてしまったのであるな。だから一緒にこの世界に来たのであろう。

 まぁそれは今更言った所で詮無き事、それはいい。


 ただ……一つだけ気になるのである。


 横の髪をちょこんと結わえた女の子の黒い髪が、時折、緑に見えるのである。


 母親と同じ、緑色である。


 なんとなく不安を覚えるのであるが、女の子は今日も元気であった。


 多分、今はそれでいいのだと思う。

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