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方々にご迷惑をお掛けしているのである。

 ギーゴーギーゴー、ジリリリリリリリと蝉が鳴き声が響き渡っている。


 蝉というものは暑くなってくると何かと騒ぎ立ててくるやかましい虫であるのだが、これも数年という長い時間を土の中で黙々と準備に費やし、外に出ていられるたった一ヶ月程度という限られた時間で必死にアピールしているかと思えば、このギッチャギッチャとしたうるさい音も……。


 いや、この耳の奥に突き刺さるようなやかましさは、どうにも変わらないのであるな。


 毛なし達はこれを風雅と言うのであるから、何とも変わった感性の生き物である。


 しかしこの鳴いている蝉のうち、どのくらいが触手なのであろうか?


 いや、蝉は蝉であって触手はまた別なのであるのか。


 この世界は謎がいっぱいなのであるなぁ。


 気が向いたら一度調べてみたい気もするのである。


 神社の境内にある手水舎の中で水盤に根を刺し、ぼんやりと辺りを見回しながら蝉の鳴き声に身を任せているが……。


 なんとも……焦れったいのであるな。


 建物のすぐ近くにあるはずの大きな御神木の所に、立て札が所在無げに突っ立っている。


 そこにはあいも変わらぬ達筆で“お出かけ中”と書かれていた。


 前は違う文面だったと思うのであるが……、こんな所にバリエーションをもたせる辺り、御神木の兄さんらしいと言えなくもない。


 しかし朝から待っているのだが、陽が高くなったというに未だ帰ってこない。


 本当なら探しに行きたい所なのであるが、神出鬼没な御神木の兄さんを探したところで見つけられる気がしないのであるな。


 その上、街には未だ僕を探しているらしいやからが、まだウロウロしているときている。


 焦ったところで仕方のない事は分かっているのであるから、こうして神社で待っているのであるが……。

 焦れったいものは焦れったい。どうにもならないものであるなぁ。


 あぁ、いつにも増して蝉がうるさいのである。


 ……。


 こうしてただ待っているのも何であるし、蝉でも捕まえてみるであるかな。


 水盤から根っこさんを引き抜き、手水舎を降りて手近な木にシュルリと登った。


 これだけうるさいのであるから蝉の一匹や二匹、その辺に……。


 あ、いた。


 御神木の兄さんである。


 丁度神社に続く石段の前の道を歩いているのであるが……、一緒に歩いている毛なしが二人。


 アレは僕を探している輩?


 御神木の兄さんが石段を登るのと一緒に毛なしもついてきている。


 何かお話しているのであるな。


 木の枝を渡り、兄さんと毛なし二人の上に陣取って聞き耳を立てる。


「ねぇ教えて下さいよぉ。本当はどこにいるか知ってるんじゃ無いんですか?」


「そう言われましても知らないものは知らないと言っているでしょう?教えようがないですよ」


 毛なし二人に目もくれずに話しながら、御神木の兄さんが石段を上がっている。

 それに毛なし二人が必死に食い下がっているようであるが……。


「いや、あんたが見慣れない触手を肩に乗せて歩いてたのはわかってんですよ。アレが何なのか知ってんでしょ?」


「いつの頃の何の話をしているのか知りませんが、私も最近は触手さん達と遊んでいませんし、それに私の知る触手さんはとても賢い子達です。それこそ無闇に他の生き物を襲うなんて絶対にしない。

 私の知る触手の子達と、あなた方の探している触手は違うと思いますよ」


「いや、でも何か知っているでしょう?この街であなたほど触手に詳しい人も居ない」


「買いかぶりです」


「なら、あんただったら触手を使役して触手を探させる事くらいお手の物だろ?俺らはこの街の為に働いてんだ。ちょっと手を貸してくれても」


 御神木の兄さんが立ち止まり、振り返った。

 その動きに兄さんの後ろで喋っていた毛なしが口を噤んだ。


「お引き取り、願いましょうか」


 いつもの落ち着いた兄さんの声であるが、どこか怒りを孕んだその声に、二人の毛なしが動きを止めた。


「あんた、そんな態度で」


 毛なしの一人が喋り出した毛なしの肩を抑えた。


「分かりました。今日はこれで失礼します」


「先輩!」


「行くぞ」


 一人がさっさと来た道を戻り、もう一人が渋々とついて行った。


 先輩と呼ばれた毛なしは、どこか兄さんに怯えた風であったなぁ。


 御神木の兄さんが怒った姿というのは初めて見たのであるが……、何に怒ったのであろうか?

 やはり、使役という言葉であるのかな?


 それにしても空気の読めない奴というのはどこにでもいるものである。

 猫の世界であるならスパッと死んでるであろうな。

 まぁ、そういうのに限って良い飼い主に拾われるのであるがな。


 兄さんは毛なし二人が石段を降り、道路に出たのを見届けると、また階段を登り出した。


 石段を登りきり、鳥居をくぐって手水舎に差し掛かった辺りで足を止め、ジッと水盤を見ていたかと思うと周囲を見回した。


「猫さん居ます?」


 何故ばれたのであるか。


 木の上を渡って手水舎の屋根に降り、そこから兄さんの目の前の水盤のヘリに降りた。


「本当に居ましたか。これは恥ずかしい所を見られてしまいましたね」


 何故分かったのであるか?


 ポンッ


 と実を出して兄さんに差し出した。

 御神木の兄さんとこのやり取りをするのが、何か随分と久しぶりな気がして、不思議な気分になるのであるなぁ。


「ほら、そこの水盤のヘリに触手の外皮が落ちているでしょう?」


 外皮?

 さっき座っていたヘリの部分をよく見てみるとカサカサとした枯れて砕けた枯葉の様な物が少しあった。


「水盤のヘリから水を飲む植物触手なんて猫さんくらいしか居ませんからね。もしかしたら、まだ近くに居るかと思ったんですよ」


 手の方の触手を見てみると所々がささくれていた。

 触ってみるとはらりと取れて落ちた。これであるか。


 なるほど、であるが、よくこんな細かいの見つけたのであるなぁ。


「それで、猫さんはどうしてここに?」


 それがであるな……。

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