僕に出来る事もあるのである。
あの時、女の子は服に付けられた虫を必死に払ってて……。
僕は道路に飛び出した女の子を追って……。
そこから先の事は、僕は覚えていないのであるが、女の子はどうなのであろうか?
そんな怖い事なんて覚えていない方がいいに決まっているのであるが……。
「ねぇ、猫さん」
なんであるか?
「ここ……どこ?」
女の子が僕を抱きかかえたまま、部屋を見回していた。
ふわっと窓から風が入り、カーテンが大きく揺れている。
それをじっと見ていた女の子の目から涙が溢れた。
「ここはまだ夢の中、なんだね」
おぉ……ちょっ、ちょっと、ギュッとあまり強く締められると、口から触手が漏れそうになるのである。
抗議の視線を送ろうと女の子の顔を見上げて、目があった。
途端に女の子の顔から血の気が失せ、
「ひぃっ」
僕を突き飛ばした。
シュッと身体を捻って足から壁に当たり、シュタッと床に降りた。
まるで猫である。
けど、床に降りた瞬間、僕は猫から触手に返った気がした。
「猫さん……猫さんは車に、轢かれてた?」
猫の中身が触手だとバレたから、突き放したのではないのであるか?
「私、動かなくなった猫さんを見てた。手を伸ばして、触ったけど……動かなかったよ?」
おぉ……僕が死んでる所を見てしまったのであるか……、それは申し訳ない事をしたのである。
「猫さんは……本当に猫さんなの?」
思い出してしまったのであるのか。
両手で顔を抑えて、目を見開いて僕を見ている女の子。
僕は、触手の姿を見せてもいいのであろうか?
「私は……、どうなったの?私、ぼうっとしてて……なんか身体が重くって……それで私、病院にいたんだ」
その病院とは、もしや……。
「私、いっぱい管に繋がれてて、隣に変な機械があって……」
あぁ……。
「私は夢を見てるの?猫さんが車に轢かれたのが夢?それとも、人じゃない人がいるこの世界が夢?私の今は……どこにあるの?」
涙を流して話す女の子に、僕は何をしてあげられるのであろうか。
あっ。
女の子の髪が緑に変わったのである。
また女の子の姿がブレて、黒とも緑とも見えない色になった。
そして、そのままパタンと倒れた。
何が……、起こったのであろうか?
猫皮を仕舞って触手に戻り、ベッドの上に戻った。
女の子は額に汗を浮かべて、苦しそうに息をしている。
はだけた布団をかけ直してやり、額の汗を触手で拭ってやった。
管のいっぱい繋がった、変な機械がベッドの横に置いてある部屋を僕はさっき見かけたのである。
女の子はそれになってたと言った。
つまりは、わかめさんが言っていたように、女の子はあっちの世界でまだ生きているって事なんだと、思うのである。
そして僕は、やっぱり轢かれて死んだのであるなぁ。
まぁそれは分かっていた事なので特に言うこともないのであるが……。
やっぱり、わかめさんの言った通り、僕には何も出来ないのであるのかな。
このまま、見ているしかないのであるのかな。
苦しんでいる女の子を見ているのが忍びなくて、でも、そのままにして出て行く気にもなれなくて、ただなんとなく、汗を拭いた。
「何してんだ?」
ひょわっ⁉︎
誰⁉︎
声のした方に振り向くと、青い服を着た枯れ木のオブジェが⁇
「やっぱりおめぇ、えびの連れてきた触手か。こんなトコで何してやがんだ?」
やはり枯れ木さんであるのか。そういえばチャラエビさんに殺されかけて入院しているのであったか。
それを差し引いても何故ここに?
歩いている感じでもなくこっちに近付いてくる枯れ木さんが、見ているともよく分からない目で女の子をジロリと見た。
この枯れ木さんは妖怪か何かなのであるかな?動き方が不気味すぎるのである。
「この娘っ子も転生か。なんか変な気配がすると思ったぜ」
……。
分かるのであるか⁉︎
枯れ木さんも転生して来た人なのであるか!
ポンッ
枯れ木さんは僕の出した実を無造作に掴んで口に放り込んだ。
途端、枯れ木さんの眉間に皺が寄った。
……何故に?
「かれき……」
えっ?なんて⁇
「俺は転生じゃねぇけどよ、俺にも見えてるぜ。この娘っ子の魂がケンカしてんのがな」
なんと⁉︎枯れ木さんにも見えて?
枯れ木さんはベッドの横に立つと女の子の額をそっと撫でた。
「こりゃ同じ魂なのに、器が残ったまま魂だけ飛ばされて来ちまったせいで、上手く混ざれなれなくなっちまったんだな。可哀想に」
そんな簡単に分かるのであるか⁉︎
でも枯れ木さん、転生の事ならチャラエビわかめさんの方が詳しいと言ってなかったであるか⁉︎
ポンッ
「俺ぁ転生じゃねぇからな。転生した奴がどうやって過ごしてるのかまでは知らねぇよ」
なるほど。
「けど、これで何でおめぇが変な触手に転生してんのかわかった気がするな」
何がであるか?
ポンッ
「おめぇが猫なのに猫じゃなくなってる理由だよ。大方、この娘っ子の不完全な転生に巻き込まれたんだろ。まぁ、そうでなきゃおめぇが猫になってねぇ理由がねぇってだけだけどな」
なる……ほど。
「それで?おめぇはこの娘っ子を助けてぇのか?」
助けられるのであるか⁉︎
ポンッ
「ん?いや、知らん」
てめぇこの、口に蝉ぃ突っ込むぞこの野郎!
「けど、どうにか出来る奴を知ってるかもしらん奴は知ってる」
知ってる奴を知ってる?
誰であるか⁉︎
ポンッ
「御神木、奴なら知ってるかもしれねぇぞ」
……。
何か引っかかる喋り方であるな。
知ってる奴を、知ってるのが御神木さんだというのはいいのであるが、枯れ木さんはその、知ってる奴に心当たりが?
っていうか、気配が変だって言ってここに来るし、普通の人は見えないっていう女の子の姿が見えてるみたいであるし、女の子の状態まで分かっているっぽいのであるし……。
「じゃ俺ぁ行くぜ、がんばれよ」
ありがとう、なのである。
ポンッ
枯れ木さんは実を食べると、ふんっと笑い、音もなく部屋を出て行った。
やはり妖怪の類であるのかな?




