猫になるのは難しいのである。
僕は昔、猫であった。
今は触手である。
たとえ今は触手なってしまっているとしても、僕は猫だった頃を忘れた事はないし、その姿さえあれば、いつでも猫に戻れると思っている。
のであるのだが……。
いかに猫皮に肉球を付けられても、足を長く出来ても、ピンとした尻尾を再現出来ても、猫とは似ても似つかぬ気持ち悪い生き物にしかなれなかった。
走るどころか、歩き姿どころか、立っている姿すら、猫に見えない。
……。
何故なのか。
という訳で、以前から知っている猫集会の場所を眺める為に電柱の上に立って、猫が集まるのをまっているのであった。
そろそろ集まり始める頃であると思うのであるが……。
この電柱の下の、庭の広い平屋のお家の毛なしは、夕暮れ頃になると庭の真ん中に猫餌を置き、それを食べに来る猫を眺めるのを日課にしていた筈である。
筈である。というのは、そういう場所だと聞いた事はあっても行った事はないからである。
その場の猫には、その場の猫のルールがある。
毛なしの猫の好き好きの関係ない、その場の猫のルールである。
素知らぬ振りをして餌場に足を踏み入れるのは簡単であるし、猫好きの毛なしは新しい猫が一匹増えた所で気にも留めないだろう。
だが誰の紹介もなく入ってきた上に自由に餌場を荒らす新参猫は、古参の猫達に闇夜に乗じて流儀を、文字通り叩き込まれるのが猫社会の通例である。
あなおそろしや。
そんな訳で上への流儀を通すのも、猫社会に面通しするのも面倒にしていた僕には縁のない場所だったのである。
さてとしていると、ちらほらと猫の姿が見えてきた。
こっちの世界でもこの家の毛なしは猫好きなのであるなぁ。
……。
ふむ。
猫であった時には、気にしていなかったのであるが……猫って複雑な動きをするのであるなぁ。
僕はもう少し優美な動きをしていたと思うのであるが……、何が違うのだ?
うーん。
あのジャンプする時のシュバッて感じも分かる。あの歩く時のシュタッシュタッっとした感じもよく分かる。あの寝そべった時の……。
全部分かるのであるが、出来る気がしない。
……。
アレか?骨か。
触手で筋肉の動きを真似てるつもりはあっても、骨の可動域とかは考えていなかったのであるな。
つまりは骨格を真似る事が出来たなら、猫になれる?
うーん。
見てもよく分からないのであるなぁ。
見て分からないのであるなら、触れば分かるかな?
腰と、後ろ足と、背骨、肩と前足、そして首と頭。ついでに顎、であるな。
これだけ確認してみるか。
オスで、僕と大きさの近そうな猫で、無防備なヤツは……っと。
僕のいる電柱から程近い藪に寝そべってる猫が丁度良さげであるな。
やるか!
……いや、やめよう。
流石に上空からの強襲は優しくない。
ここは後ろからこっそり近付いて、優しく巻き付くのが上策であるな。
では。
と、音を立てずに電柱から降り、塀から草むらに身を潜め、こっそりと猫に近付いた。
まだ僕に気付いている様子はない。
今であるな。
ほいっ。
「ギニャー!」
これこれ、そんな大きな声を出すものではないのである。周りの猫さん達がびっくりしてるのであるよ。
すぐ済むからすぐ済むから。
「フギャッフシャー‼︎」
こらこらそんなに暴れるものではないのであるよ。
でも、可動域がより分かりやすくていいかも?
「フギャッフギャギャシャギャー‼︎」
腰がこうで、脚がこう、背骨と、肩と前足と……ふむふむ。
あと顎。
「こら!お前っ何してるかぁ‼︎」
あ、家主さんであるな。
って、箒を持って振りかぶってる毛の薄い毛なしが⁉︎
「このっ!離れろ‼︎」
大きな声を出して振り下ろすそぶりをしてるのであるが……。あれ?もしかして怒られてるのは僕であるかな?
……。
いや、もしかしなくても僕が猫を襲っているようにしか見えない⁉︎
もしかして、これは不味い状況であるか‼︎
さっと触手から猫を離して、藪の中に滑り込み、塀を乗り越えて逃げた。
猫の骨格、動き方、大体覚えれたであるかな。
けど、そうであるよなぁ。
急に取り付いたらびっくりするのであるし、猫に触手が絡まってたら、襲われてるように見えるのであるよな。
あの猫にはちょっと悪い事をしたのである。
ちょっとしたトラウマものであるよな。
次はもう少し猫と親しくなって……なれるであろうか?
触手姿で猫と仲良くなるのは難しいような……。
いや、そういえばマタタビあったのであるな。
御神木さんの神社の森の隅に、マタタビが生えていたのを思い出したのである。
アレがあれば……いける?




