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神社の水は美味しい水なのである。

 背の高い木の横に伸びた枝の上で日向ぼっこをしながらぼんやりと下を眺める。


 この世界は僕が住んでいた世界と、とてもよく似ている。


 道、川、公園、ゴミ捨て場、屋根の上、路地裏から見える曲がった煙突の角度に至るまで、僕の知る、住んでいた場所と同じである。


 ただ、住んでいる者に違うモノが混じっている。


 僕の知る毛なしと似ているようで、違うモノ。


 女の子の母親もそうだ。


 女の子の母親は髪の形こそ同じではあるが、緑ではなく黒髪であった筈である。

 耳も女の子に似た形であって、尖ってなどいなかった。


 木の下の道を歩く毛なし達の中には、尖り耳か獣耳に獣の尻尾をぶら下げたのが半数ほどいる。


 また異様に背が低く、ずんぐりとした異相の者も混じっている。


 こうなると両親と似ていない、元の世界でよく知るままの姿である女の子が心配である。


 なのだが……。


 トタタと駆けて行く女の子の姿が見えた。


「こんにちわー」


 昨日見た落ち込んだ姿はなく、元気に獣耳の太まし女に挨拶している。


 気にしすぎであろうか?


 問題ないのであれば、それで良いが……。また夕刻にでも様子を見に来るとしよう。


 ……。


 いつかまた、僕を撫ぜてくれる時が来るのであろうか?出来るなら猫に戻りたのであるが……。


 それに僕はまだまだ知らない事が多い。

 今はそれを一つづつ解明してゆく事としよう。


 先ずは……、喉が乾いたのであるな。


 遠くなる女の子の背中を見やり、僕はスルリと木から降りた。


 すぐ下に小さな川が流れているが、この水はあまり美味しくない。


 道の脇の草むらを走り、女の子の家から回るように坂を登った先に神社がある。


 神社は草木が多く、鳥や虫が沢山いる。猫の時に度々遊びに来ていたお気に入りのお昼寝スポットの一つである。


 ここに来たならばまず最初に手水舎の水を頂くのが僕の習慣であった。


 鳥居の脇をすり抜け、境内に入った。


 風に揺れる木の葉の音も、地に突き刺さる木漏れ日もあい変わらずであるな。


 心地よい。


 真っ直ぐに手水舎に登り、水盤から根を差し込んだ。


 ……。


 潤ってる。

 確かに何か美味しいのだが……。


 酷い寂寥せきりょう感に襲われる。


 飲んでいるという感覚がなく、爽快感もまた無い。


 慣れねばならんとは思う。いずれは慣れてしまうのだろう。だが、こればかりは慣れたくはない。


 水に浸した根をにょろにょろと動かしながら周囲を見回す。木も建物も何一つ変わらないように見えるのだが……、何かが足りない気がする。


 なんであろうか?


 そうして見回していると、一つ見慣れぬ物に気付いた。


 立て札?高札?


 建物に近い石畳の道の横に、一際存在感のある立て札が地面から生えている。


 むしろ何故に今まで気付かなかったのか。


 水盤から降り、立て札に近付くとなんと書いてあるのか見えた。


 “留守にしています”


 誰が⁉︎


 悪戯にしても趣味が悪い。

 字が達筆なだけに妙に勘にさわる。


 立て札を引き抜いて捨ててしまいたい気分なのだが、何故か近付けない。


 どうも目の前に何かあるような……、ないような?

 不思議な感覚に陥る。


「おや、君、もしかしてあの立て札が見えるのかい?」


 話しかけられた⁉︎


 声に振り返ると毛なしがいた。


 普通の毛なしだ。耳が普通で尻尾もない、背丈も肉付きも普通の毛なしだ。


 ただこの毛なし、立派っぽい服を着てはいるがヨレヨレしていてだらしなく、黒い髪はボサボサである。


 だがそれよりも何よりも目を引くのが、首に巻かれた注連縄しめなわである。ご丁寧に白いヒラヒラまで付いている。


 そんなのが境内にいるのだから、なんとも罰当たりな気しかしない。


 しかしこの毛なし、変な事を言っていたな。


 立て札が見える?とかなんとか。

 立て札とは見せるものなのであるから、それは見えるに決まっている。


 いや、もしかして植物の触手は目が見えないとでも言うのか?


 ……。


 そういえば僕の目はどこにあるのだろうか?


「おや、変わった子だね。立て札が見えるばかりか、ぼくの言葉をちゃんと理解しているようだね」


 なんだと⁉︎

 耳もないのか!

 触手とは誠に不便な生き物だな。


「まるで動物の様な動きだ。君は……もしかして転生してきた子かな?元はなんだったんだい?」


 なん……だと?

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