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オブジェが喋ったのである。

「ウチの待遇は破格だぜ?特に兄ちゃんみたいなカッコいいデキる触手にゃあ、ぜえっっったいにこれ以上の場所は他にねぇ。

 まぁなんだよ、ウチの最高のメシ出すからさ、ちょっと話し聞くだけでもいいからさ、寄ってってくれよ。頼むぜ?」


 なんて言われて誘われたわけであるのだが、それでほいほい着いていくあたり僕はちょろいのであるなぁ。


 そして自分を『えび』と名乗ったこの魚は、軽いというか怪しいというか……。毛なしの言葉を使うなら、『チャラい』であろうかな?


 言動やら言葉に付いてくる身振り手振りやらがどうしようもなく信の置けなさを助長してるのである。


 端的に言えば存在がいかがわしい。


 まぁ、存在そのものがいかがわしさの塊である触手に言われたらお終いであるかもしれないが。


 そのいかがわしいくまぎらわしい『えび』という魚に着いていく気になったのは、なんとも言えない匂いが気になったからである。


 御神木の兄さんが出す実とも、トメさんの肥料とも違う、不思議な美味しそうな匂い。


 そんな変な匂いを身体から出している魚の毛なし。もしかしたら元が猫だからそう感じただけなのかも知れないのであるが……はてさて。


 と、チャラエビさんに着いて行った先は、あまり店には見えない建物であった。


 微妙に色の違う赤い長い四角い石を積み上げて作ったような建物。

 これは煉瓦レンガというものであるな。


 そして入口は両開きの大きな扉になっている。

 それはいい。どこか倉庫のような風体ではあるが、そういう店もあるであろう。

 ただその……扉の隣に小さな入口らしい物がいくつもあるのはなんなのか?

 小さなドアノブの付いた物から、ただ押せば開きそうな扉やら作りも大きさもみんな違う。

 これは……。


「お?気付いたの?さすがだねぇ。それ、触手とか動物用の出入り口だよ。仕事頼んでるのいっぱいいるからさぁ。いつでも自由に出入り出来るようにしてあるんだよね」


 と、チャラエビさんがポケットから取り出した何かでドアをカチャカチャさせながら言っている。


 これ、やっぱりネジ屋さんで見たチラシのところなのであるな。


 ……。


 逃げるなら今であるかな?


 観察対象とか、空想の餌食とか意味の読めない不穏な文言の並んだ仕事というのは……やはりちょっと遠慮したいのであるなぁ。


 ガチャリと戸を開けたチャラエビさんが僕に向かって親指を立てて振った。


「さぁ入んなっ!今までに食ったことのない物を食わせてやるぜっ!」


 開いた扉からは、誰も見えないのであるなぁ。触手も動物も居ないようである。


 妄想の餌食……であるかぁ。


「どうしたよ?別に取って食いやしねぇって」


 取って食われそうだからためらってると気付いて欲しいのであるな。

 いや、気付いているからこその言葉であろうか?


 むむむ。


 む?


 扉の奥に見える台に寄りかかった枯れ木のようなオブジェと目が合った。

 いや、オブジェと目は合わないのであるよな。


枯れ草みたいな色の布を何枚も重ねてる様な服に、不思議に曲がりくねった丸みを帯びた木が人の顔の様に見えるのである。

ほらみたいに窪んだ目元が、なんとも毛なしっぽい感じなのである。


 その他にも何かまた変わった匂いもするのであるな。

 チャラエビさんの匂いに似てるけど、それとはまた違う美味しそうな匂い。


 別の誰かがいる?


「なんじゃいエビ、また何か連れてきたのか?」


 おぅ⁉︎

 オブジェが喋った‼︎


 木のほらが響いているような声を出して枯れ木のオブジェが動いてるのである⁉︎


「あっ、オーナー。いたんスね」


「居るも何もここから動いてもおらんが」


 オーナー?毛なし……であるのかな?

 頭に毛がない本当の毛なしであるのか?陰ってて見えづらいけれども確かに目があるようであるし、口も動いているのであるが、何とも擬態しているようにしか見えないのである。


「いやぁ、オーナーは黙ってると風景と同化しちゃうんですからちょっと動いてくださいよぅ。ほら、よくテレビで見るよくいる老人みたいにカタカタ震えて、ついでにそんな渋枯れ系の服もやめてもちっと明るい服着てりゃすぐ……」


「えびぃ……」


 おおぅ、ほらの声が更に低く響いているのであるな。触手にびりびりと響くのである。


「うひっ」


 チャラエビさん、何か楽しそうであるのな。


「わかめの薬湯が足りなくなったから出してこい」


 出す?


「えっ?今日は俺の日じゃなかったっスか?」


「おめぇのはまだあるが、わかめのはもう切れる。出してこい」


「へぇ〜い」


 チャラエビさんが戸を開けたまま気怠げに奥へと歩いて行った。


 そして、戸の外に残された僕はどうしたらいいのであろうかね?


 枯れ木さんの言う、『出す』って言葉も気になるのではあるが……。


「おめぇは……また変わった触手だな」


 グラスの半透明に赤茶けた、トロっとした液体を飲みながらも枯れ木さんは僕から目を逸らさない。


「まぁこっち来な。アレがどんな話をしたか知らねぇが、メシは約束したんだろ?食わしてやる」


 枯れ木さんがゆっくりとした動きで、けどどこか機敏に歩き、お店の奥へと入って行った。


 なんかもう断れる雰囲気がなくなっているのであるな。

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