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トメさんはトリップすると帰ってこないのである。

「一本だけに変化が出るってもの不思議だね。お前さんこの触手だけ違う使い方をしたとかあるかい?」


 触手の毛をモフモフしながらトメさんが言う。

 何か尻尾を触られている用で妙に落ち着かないのである。


 しかし、どれか決まった触手で何かをしている覚えが……。


 そういえば、実を出している触手もビリッとさせていた触手も、何か触る時も決まってこの触手だった気がするのである。


 ポンッ


「なるほど、これはお前さんの利き触手なんだね。だから他の触手より発達していた為に変化したと……。なるほど、興味深いね。

 ところで、ビリッてなんだい?」


 そういえば僕はしーぴーゆーの事を調べたくて歩いていたのであったな。


 トメさんなら機械系触手の事も詳しそうである。

 丁度いいのであるな。


 電柱の上で機械系触手の方達がカクカク、しーぴーゆーがヒューズでしかじか。

 これこれこういう訳なのであるよ。


 ポンッ


「あぁ、あの電柱で盗電してる連中ね。仕方のない奴らだね。あいつらは電力会社から害触手認定されてるから、あまり関わり合いにならない方がいいんだけど……。

 っいうかお前さん、機械系触手と会話できるのかい‼︎」


 おわっ⁉︎

 急に何‼︎


「本来絶縁体である植物触手なのに電気を通した上に意思疎通まで出来る⁉︎そんな事が……。

 構成上は有り得ない筈、けど可能だっていうなら……。

 やはり食べた物が体質に関係するという私の仮説は……。

 いや、そもそも」


 トメさんがぶつぶつと呟きなから店内を歩き回ったかと思うと、カウンターの端に置いてあった『ブログ』と大きく書いてあるノートを手に取り、カリカリと書き始めた。


 何か鬼気迫るものがあるのであるな。


 ブログとはなんであろうか?


 ところで、しーぴーゆーとヒューズについて詳しく聞きたいのであるが……。


 ポンッ


 ……。


 実を差し出すが一向に気付く気配がない。


 凄い勢いで書いていたブログノートの手も止まり、ぼんやりとしている。


 もしもーし?


 カランカラン


 おや、誰か?


「やってますかー?」


 と、入って来たのは注連縄を首に掛けた……御神木の兄さん?


「そこにいる触手さんは、猫さんですか?お久しぶりですね。トメさんに捕獲されたんですか?」


 あぁ、やっぱり触手をかどわかす常習犯なのであるな。


「トメさんは……」


 と見回していた御神木の兄さんはすぐにカウンターの奥で動かなくなっているトメさんを見つけた。


「あぁ、入っちゃったんですね」


 入る?


「はいはい、ちょっと失礼しますよー」


 と、御神木の兄さんは動かなくなったトメさんを抱き上げ、店の奥へと連れて行った。


 後を付いて歩いて行くと御神木の兄さんは店の奥のこじんまりとした畳の部屋に連れて行き、一際大きな座布団の上にトメさんを座らせていた。


「トメさんは時折、深く自分の世界に入って戻らなくなる事があるんですよ。そういう時はああしてあの部屋の座布団の上に座らせてあげるんです」


 戻りがけに僕を抱きかかえた御神木の兄さんが、そのまま店を出て戸口にかかっている札に手をかけた。


 openと書かれた札がひっくり返され、closeになった。


「正気に戻ればまた店を開けに出てきますから、こうして閉めておくまでが常連の仕事なのですよ」


 お店というものに入るのは初めてなのであるが、お店とは色々なルールがあるものなのであるなぁ。


「トメさんが入って帰ってこなくなってしまう要因はいくつかありましてね、触手の事とか誠さんの事とかあるのですが……何かありました?」


 それはですね、カクカクしかじかのこれこれこういう事が……。


 ポンッ


「へぇなるほど、それは興味深い。猫さんはただの植物系触手ではないと思ってましたが、そんな事が……」


 御神木の兄さんも尻尾のようになった毛触手をわさわさしている。

 何か猫だった頃を思い出すのであるな。


「後で私もトメさんのブログを覗いて見る事にしましょう」


 ところで、誠さんとは?


 ポンッ


「あぁ、そうですね、それも説明しておきましょう。

 このお店の名前にもなってますが、誠さんとはトメさんの旦那さんの事でしてね」


 ふむふむ。


「もう亡くなっている方なのですが、色々と思い出があるようでしてね。誠さんの話を振ると高確率で入ってしまうんですよ。

 ですから、常連の間ではトメさんの店で誠さんの話は禁句になっているのです」


 お店の名前が禁句なのであるか……。

 お店ルールとはなんとも複雑なのであるな。


「待っていれば照れながらお店を開けに出てきますが……、待ちますか?」


 それは遠慮させてもらうのである。


 ポンッ


「それもそうですね」


 ところで兄さん、機械触手の欲しがるしーぴーゆーとヒューズについて教えて欲しいのである。


 ポンッ


「あぁ、機械触手ですか……、僕も元は植物なものですから、機械系はあまり詳しくないのですよ。

 ですから代わりにその方面に詳しい人を紹介しましょうか?」


 ふむ。

 御神木の兄さんの紹介であるなら、信用出来ると思うのであるが……。


 その方はトメさんと比べて、その……個性的な方でありますか?


 ポンッ


 実を食べた御神木の兄さんの眉と眉の間に、キュッと皺が寄った。

 それはどういう表情であるか?


「トメさんは……その、猫さんと同じ転生してきた方というのもあって、かなり特殊ではあります。

 その人は転生してきた方ではないんですが……、個性的、というなら同じくらい……でしょうか?」


 兄さんが歯切れが悪い説明の仕方をすると、僕は恐怖を覚えるのであるよ?

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