魔薬のような液肥なのである。
触手達に霧吹きし終えたトメさんがこちらに向き直り、首を傾げた。
なんであるかな?
「おや、匂いに過敏な子かと思いきや普通にしてるね?この匂いは嫌いかね?」
??
いや?とても芳しい、食欲をそそるいい匂いであるよ?
ポンッ
と、実をつけて差し出した。
「ふむ、普通のツルツタ系触手達はこの匂いを嗅ぐと我を忘れて飛びついてくるんだよ。お前さんは蔓と根の混成タイプだから好みが違うかとも思ったんだけれども……、お前さんも食べてみるかい?」
とても興味のあるお話なのであるが……。
それは一体、なんであるのかな?
ポンッ
「これはだね、ババァ特製の防虫効果付き葉面液肥さね。これをババァお手製の静電ノズルから吹き出すとあら不思議、どんなしなびた触手も一発で元気になるって代物さね。
一部の植物系触手からはトメバァの魔薬肥料なんて呼ばれているらしいがね」
そう言ってトメさんがひゃっひゃっひゃっと大笑いした。
魔薬肥料であるか。
そう言って笑っていると猟奇的なババァにしか見えないのである。
「食べるかね?」
是非、いただこう。
ポンッ
「いいね、気に入ったよ。こっちおいで」
トメさんの持つ板の上に、他の触手達がそうしていたように鎮座する。
ふむ、板は普通のプラスチックの板のようであるな。
「いくよ」
と、トメさんが手に持った霧吹きをシュッシュッとかけた。
吹きかけられた霧が纏わりつくように身体の周りを踊り、少しずつくっ付いてくる。
おぉっ。
なんたる甘美か。
全身から蕩けるように甘く、心地よく、美味いとしか形容し得ない芳醇な味わい。
このような美味しい物がこの世に……。
違う。
確かに美味しい。
こんな物があるならまた食べたくなる気持ちは良く分かる。
これは魔薬的と言っていい美味しさだ。
ここで働いている触手達の気持ちもよく分かる。
けど、僕はこれよりも美味しい物を知ってしまっている。
美味しいが故に、思い出してしまった。
あの、御神木の兄さんの赤い実。
あれこそ極上であった。
トメさんに向かって触手を一本伸ばす。
大変美味しかったのである。ありがとう。
ポンッ
僕の差し出した実を食べたトメさんは少しだけ渋い顔をした。
「その想いに偽りはないんだろうけどさ、本当に美味しかったのかい?まぁ私が作ったものさ。美味いに決まってる。けど、お前さんを見てるとそうは見えないんだよねぇ」
分かるのであるか⁉︎
顔という顔のない触手の表情を読み取れるとは、このシワ毛なしは本当に何者なのであろうか?
まぁ、バレているのであればごまかしは不要であるか。
美味しかったのは事実、ただ、それよりも美味しい物を思い出してしまっただけなのである。
ポンッ
「ほぅ、私の液肥より美味しい物とは……ねぇ。それはそれはどんな物なんだい?」
答えるのは簡単である。ただ、それを言っても良いのだろうか?
御神木が人の姿をして歩いているなどと……。
信じてもらえるか?という話でもあるが、そもそも話てもいいものなのか判断に迷う。
ごまかせるならごまかしてしまえばいいという気もしなくもないのだが……。
目を爛々と怪しく輝かせて見つめてる、半分妖怪じみたトメさんをごまかしきれる自信がない。
まぁ……顔だけならいいかな?
ポンッ
と御神木の兄さんの顔を思い浮かべて実を渡した。
その実を食べたトメさんが……。
ガッカリした?
「なんじゃ御神木かい。アレが出した実なら太刀打ちできんわぇ」
知り合い!?
ポンッ
「知り合いも何もここの常連じゃ、しかし御神木の実を食った触手なぞ珍しい。私も一度しか……」
霧吹きを片付けていた手がはたと止まり、僕をジィッと見つめてきた。
な、何かな?
「お前さん……、もしかしてここじゃない、どこか違う世界から来たのじゃないのかね?」
なんと⁉︎
「なるほどな、そうであるなら納得じゃ。そうでもなけりゃあの御神木がそうそう実などやらんわいの」
おトメさん僕の触手から表情読み過ぎですよ?
っていうか、どこから判断しているのですか⁇
「なんで分かるのかって顔をしとるのう?」
ひゃっひゃっひゃっと笑いながらトメさんが謎の箱を持ってきた。
今度は何か?
と思っていたら中身は黒い砂のようだった。
それを小さいスコップでもってかき混ぜ、ペンチのような金型でギッギッと固めて丸い玉を次々と作っていく。
その玉を、今度は機械系触手達に渡していった。
それは機械系触手達のバイト代なのであるな。
「実をいうとな、私もこの世界ではない別の異世界から来たのよ」
にゃんと⁉︎
「俗に言う、転生て奴よな」
僕と女の子以外にもいたのであるか‼︎




