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にょろにょろである。

 身体が重い。


 昨日は何があったであろうか。


 色々と考えるが特に思い当たる節はない。

 というか、いつ寝たのか、それまで何をしていたのか。全く記憶にない。


 まぁ、何かあったのならその内に思い出すであろう。


 ゆっくりと目を開けると、目の前ににょろにょろとした何かがあった。


 緑色をした何か。


 つる


 はて、こんな物は見た事がない。


 何とは無しに、ぼんやりと眺める。


 にょろにょろ


 風かな?とも思ったが風が吹いている様子もない。


 パシッ


 無意識に手が出た。


 にゃ?


 つるだ。


 叩いたにょろにょろもまた蔓である。


 なんか違う。


 ズザザザザザザザッ


 暗い茂みから外に出た。


 身体が軽い。


 凄い速さで動けるが、不思議と走ってる感じがしない。


 ズザザッズザザッ


 体調が悪いという事はない。

 むしろ調子が良い。


 まぁいい。

 お腹が空いた。ご飯にしよう。


 見渡せばいつも昼寝に使っている公園である。


 近くに寝床を借りている女の子の家がある。


 女の子は虫が嫌いだ。

 女の子に寄る虫を追っ払ってやるだけでニボシをくれる。


 時にはジャーキーもくれる。


 別にジャーキーが欲しくて追っ払ってる訳ではない。


 僕よりも大きい癖に、虫を怖がり泣く女の子が可愛そうだから助けているだけなのだ。


 他意はない。


 その報酬にニボシをくれるというのだから正当な対価である。


 あの女の子、また泣いていたりはしまいか。

 太陽の傾きを見ればそろそろ女の子が現れる時分であるか。

 様子を見にいってやるか。


 ズザザザザザザザッ


 何か違うにゃー。


 公園から角を二つ曲がれば女の子の家である。


 するりと塀を乗り越え、縁側から中を覗く。


 女の子の母親の姿が見えた。


 母親……か?


 緑色の長い髪から生える長い耳。

 猫にも似たスラリと細い身体にピンとした背筋。


 何処と無く女の子に似ている気はするが、何がが違う気がする。


 はて?何が違うのであろう?


 はたと悩んでいるとトタタとした足音が聞こえた。


 この足音は女の子である。


 スルリと玄関に先回りし、腹を見せるに裏返ってみせた。


 僕は今日、すこぶる落ち着かない気分である。特別に許可与える。


 さぁ、撫ぜるが良い!


「や、ヤダ!」


 ぅぐるふぁぁ‼︎


 側に置かれていたほうきで掃かれた。

 壁にしたたかに打ち付けた背中が痛い。


 な、何故だ⁉︎


 いつもは喜んで撫ぜるに・・・ヤダと言われてしまった。


 僕は何が悪い事でもしたであろうか。


 今日はお腹の気分ではなかったとか?顎の下が良かったのか?

 それにしても箒で掃くとは酷い仕打ちである。


 ……。

 そういう日もあろうか。


 出直すか。


 チラリと女の子の背を捜してみれば戸がわずかにと開いているのが見えた。


 ……。


 勝手知ったる女の子の家。


 招かれたのは一度や二度ではない。


 ちと、女の子の様子を見てからでも遅くはあるまい。


 にゅるりと戸をまたぎ中へと入る。

 女の子の部屋は突き当りの左である。


 女の子の部屋の戸もまた、チラリと開いている。覗けば女の子が寝床に伏せていた。


 やはり何があったのであろうか。


 音を立てず枕元に座り、ポンポンと頭を撫でた。


 さぁ、僕の肉球に解きほぐされ、毛皮を枕に泣くがいい。特別に許してやろうではないか。


 ペシペシ


 何か違う。


 物凄い勢いで女の子が顔を上げた。


 女の子と目が合った。


 物凄い顔である。

 今まで生きてきた中で、これ程の顔は見た事が……ある。


 これは……女の子が、虫を見た時の顔。

 いや、そこまでではないが、それに近い物を感じる。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」


 おぐるふぁ‼︎


 がむしゃらに振るった腕に弾き飛ばされ、戸の隙間を縫うように部屋の外へと出された。


 いかん。


 今の悲鳴を聞いて母親が飛んでくるに違いない。身体は痛いが、部屋の外に弾き出されたのは僥倖というべきであろう。


 女の子の母親は僕に少々手厳しいのだ。


 一度外へ……いかん。戸が閉まっている。なればと手近な開いている戸の中へと滑り込んだ。


 パタパタと走る足音。


 その後に母親と女の子が話す声がほそほそと聞こえた。


 間一髪であったようだ。


 さりとて、ここもいつまで安全かは分からない。

 一先ず隠れる場所を探すべきであろう。


 これでも隠れるのは得意である。


 手近な台の上へと登り……固まった。


 そこには得体の知れないモノが居た。


 それは緑と黒の蔓が絡まりあったような、にょろにょろと動くモノ。

 と、言い表したらいいであろうか。


 ……。


 思い出した。


 これは目を覚ました時に見たにょろにょろである。


 無害な物なのか?


 そっと触れようと動くと、にょろにょろも動いた。


 ビクッと震えた所まで一緒である。


 ……。


 これは、もしかして鏡であるか?


 全くもう、驚かさないで欲しい。


 こんなにょろにょろが自分だなんてそんな……。


 にゃ⁉︎


 僕がにょろにょろ⁉︎


 僕の美しい毛並みは?シュッとした尻尾は?美しさと気高さを併せ持った右前足はどこへ行った⁉︎?


 おおぉぉぉぉぉ。


 何故こうなった。


 僕はこれから・・・。


 何を食べていけばいいのだ⁉︎

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