55話 眼鏡だ!!笑えるよ?
55話目!!おっひさ~
「あ~、疲れた」
「この会議は後二日続くよ?その二日は今日のような報告じゃなくて、陛下から魔物の被害とかを聞いて討伐の予定を立てたり、魔族の疑いがある場所は必ず二人で向かう事になってるけど」
レオンは会議が終わり、アブルを誘って自分の部屋に帰ると開口一番にそんな言葉を呟く。
……その間にブレンダがクッキーや紅茶などを用意しているのは見慣れた光景であった。
「……二人で?」
(ミリアムに二人も必要だとは思えなかったけどな)
「うん。前のミリ……なんだっけ?……魔狐の女性みたいに人を操る能力を持っていたりする可能性もあるし、戦力は貴重だからね」
アブルは興味の無い事はすぐに忘れる性格らしい。
「というかイナグの街や、パウラスを見ていると魔族の被害なんて感じられないが?」
「それはつい最近魔族が行動を始めたから。本来なら僕たちが魔族に二人も付くなんて事はないけど皆魔族に慣れていないから。それに魔族は今、この大陸に何ヵ所も集落を造っている最中なんだ。だから魔族の被害も少ない訳……会議が終わったんだから仕事の話はやめようよ」
どこか拗ねた顔で文句をアブル。それは昔を思い出させるもので少し言葉に詰まる。
「……そ、そうだな。取り敢えず俺はサンを起こしてくるよ」
「僕にも触らせて。可愛いからね」
「サンが拒否をしなければな。……アブルはテイムしている魔物いないのか?」
「中々高ランクの魔物に縁が無いからね。低ランクの魔物の場合は僕に着いて来れなくなってすぐ死ぬことになると思うから」
「ふ~ん」
今度機会があった場合にアブルとテイムする魔物を探しに遊びに行くか、と思いながらレオンは今いる居間からサンの寝ている寝室まで歩いていく。
「サン良い子に――」
「キュキュッ!?キュ~」
そこで見たのはベッドの上で脱皮、をしたのだろうか?自分の鱗を戸惑いの目で見るサンであった。そしてレオンを見た瞬間レオンの胸へ飛び込んでくる。
「脱皮……か?サンも少し大きくなったみたいだし脱皮だな。だけど……」
「キュキュ♪」
脱皮をしたサンの大きさは二十センチ程になっていた。それはレオンにとって非常に喜ばしいこと……なのだが、脱皮をした鱗以外の皮のようなものはサンが戸惑って暴れてしまったため、大きいものはあるが、それでさえも八センチ程、他は粉々にレオンのベッドの上に散らばっていた。
「ブレンダにはすまない事をしたな。掃除は……面倒くさいから頼むか。アブルには龍はどこまで大きくなる――」
「レオン、どうし――」
この後の事を考えていたレオンとレオンの帰りが遅くなり寝室まで来たアブル。
その二人はそれぞれの持っている物――者――に驚く。
「アブルお前眼鏡なのか?」
「そうだよ。それとそれってサンだよね?」
「脱皮したみたいだがな。一応サンだ」
レオンへと質問をしながら流れるような動作で眼鏡をかけるアブル。だが、レオンは眼鏡をつけたアブルを見て笑いだす。
「ん?何で笑ったの?」
「いや、昔の事を思い出しただけだ。あまり気にしなくて良い」
昔の事とはもちろん地球にいた時の事である。
だが、また自分に言い聞かせる。此処は違う、と。
「そうだ。一緒に摸擬戦をしないか?」
「無理無理。僕はレオンに勝てないから」
「イーゼを誘う?」
「それでも勝てないと思う」
「オルガも誘う?」
「負けたら僕たちが折れる。主に精神的な意味で」
「セフィスは?」
「流石に……勝てると思う」
「じゃあ決定だ。それとサンは参加させないから置いておくぞ。三人を誘いに行くか」
「キュ!?……キュ~」
サンはレオンの言葉にショックを受けたように声をだし、またベッドへ戻り寝始めた。
「勝ったらどうする?」
「じゃあ負けた方は勝った方のいう事を一つだけ聞くっていうのは?」
「良いな」
こうして突発的で圧倒的に不利な摸擬戦が決定された。
(本気を出すか。全力戦闘を維持するのは無理だが)
アブル、イーゼ、オルガ、セフィスと向き合いながらレオンは心の中で呟く。その本気とはアブルに宣言したようなものではなく、無理のない範囲での本気だ。
だからこそレオンは四人に気付かれないように体内で魔力の動きを活性化させ、魔法陣を刻み込む。
「レオン、僕たちで相談して先制はそっちに譲るよ。ただし、勝ち負けは降伏か気絶ね」
「何が『ただし』なのかは理解出来ないが分かった。じゃ、本気出すぞ?」
レオンが口元に浮かべた笑みは獰猛な肉食獣のような笑みでもあった。その威圧は並みの人間ならば腰が抜け、失神をし、下手したら壊れていたかもしれない。
(そういえば俺って一般人のステータスは視たこと無いな。いつか適当に視てみるか)
だが、今ここにいるのは並みの人間ではなく、数々の功績を上げている者たちだ。
『思考加速』
この魔法によってレオンの思考は普段の数倍、数十倍、数百倍以上にもあげられる。これもガイアによる指導の結果であった。
そして魔法を使ったためアブル、オルガが散開し、イーゼ、セフィスは狙いを付けられぬよう位置取りを開始した。
「設置型魔法陣複数展開」
だが、思考加速されたレオンにとって、それはコマ送りのように見えた。だからこそレオンは魔法陣を展開する。その数は百をも軽く超える。
それに危険を感じた二人は仲間へ注意をする。……のだが――
それを気にもせずレオンは魔法を唱えた。
『幻想世界』
それはレオンにとって都合の良い空間を創る魔法。
それに飲み込まれたアブルたちは地獄を見る事になるのは確定した。
「これは……幻覚……ですか?」
「待って!?魔法が使えないわよ!?」
「あれ?レオンは?オルガ、幻惑の世界には過度の刺激を与えると壊れず筈だから雷を放って!?」
「今イーゼが魔法を使えないと言ったでしょ」
レオンはそれを上空から見下ろしている。
「この魔法は使えるが、『思考加速』をしないと演算能力が追い付けないのが問題だな」
レオンがこの魔法を維持できるのはどんなに頑張っても三十分ほど。それに今回は魔法陣の維持、複数の人間を飲み込んだため十分が限界であった。
それは十分耐えきればアブルたちが勝てるという事なのだが、それは知る由もない事なのだ。だからこそレオンは一切の慈悲を与える余裕もなく、魔法を発動出来ない空間で、事前に発動していた魔法陣で魔法を発動させる。
『刻の羅針盤』
この魔法を唱えるとレオンの周りには幾万もの時計が出現する。それは複写の魔法。
レオンの創った空間外に置いて今、この時使われた魔法を行使するのだ。だからこそ空間を区切りレオンの力で新たな空間を創った。
「行け」
それぞれの時計が回り出すと同時にレオンの周囲に現れたのは無数の魔法。それは現在進行形で増え続けていた。
それは『炎球』であったり、『圧空』であったり、様々な属性、様々な魔法があった。
レオンはその魔法たちを加速した思考の中、必要なものと必要でないものを分けていく。
それは規模の大きすぎる魔法、発動した対象に恩恵を与える魔法、唱えるのが危険とされている呪術、禁忌である禁術などだ。
(というか今この瞬間呪術と禁忌の禁術が使われているって事は相当ヤバイな。摸擬戦所じゃ無い)
さらりと流したが禁術は禁忌であるからこそ禁術とされているのだ。
それを『刻の羅針盤』が複写したという事は現在使用されている事。そしてレオンが見つけた禁術は『召喚:悪魔』だ。
これは相当危険な禁術で人間の命五十人分を生贄として悪魔を召喚する。
(召喚された個体が幼体ならば良いが、成体の場合だと国が一つ潰れる可能性が有る、らしいからな。魔族が召喚しているのならもっとヤバイが、幸いそこまで高度な召喚の仕方じゃ無いから人間だ……一応マーティンに相談しに行くか)
「解除。摸擬戦は中止だ」
そう呟くとレオンの周りに存在していた魔法の数々は消える。それはただ単純に『刻の羅針盤』を『幻想世界』の管制化で無いレオンの今の力では発動出来ないからだ。だからこそ『幻想世界』を消した瞬間、『刻の羅針盤』は消え去った。
「レオン……どうしたの?」
地上へ降り立ち魔法を解除したレオンへ声を掛けてきたのはイーゼだった。その表情が恐る恐るといった所はレオンの深刻な表情をしたレオンを見たからだろう。
「何処かで国が亡ぶ可能性があるから、マーティンの所に行く」
「冗談だよね」とは誰も言わなかった。
それは深刻な表情をしたレオンを誰も見たことがないためだ。そうなるとレオンの普段の表情が気になるだろう。
レオンの普段の表情は、喜怒哀楽は表現するが、いつも不真面目で軽い、となる。
身近な表現をするとしたら交友関係の浅い人が浮かべる表情である。誰にでも、とは言わないが、この世界でレオンが年相応の表情を見せるのは少し先になる。
「分かったわ。今回の摸擬戦は中止ね……あのまま続けていたら負けていたし」
「最後に何を言ったのかは聞き取れなかったが……すまないな」
代表して応答したオルガの声を聴き届けるとレオンはすぐにマーティンのいる場所、すなわち執務室に転移した。
「マーティン。悪魔召喚が行われている」
レオンは転移して時間も惜しいとばかりにマーティンに大声で話し掛ける。
だが、その宣言に答えたのは別の人物であった。
「……悪魔……召喚ですか。その根拠は?」
「誰だ?お前?俺を見ても驚かないんだったら俺の存在を知っていると思うが」
「ええ。知っていますよ。偉大なる魔術師の水の席に座るレオン様でしょう?……それで、根拠は?」
180センチ程の身長に筋肉が程よく着いた体。顔は金色の髪が目立つのだがレオンを見る灰色の鋭い目が怖い印象を与えるだろう。
そんな彼をレオンは鑑定眼で視る。
種族名 人間
名前 ジェイド・ルト・ブレイク
職業 宰相
状態 健康
魔法適正 治療
称号 恐怖の宰相
「いや、俺の魔法に『刻の羅針盤』というものがあるんだがその魔法は自分の創った空間の外にある魔法を複写するんだ。それをしていたら禁術が複写されてな、それが『召喚:悪魔』だ。それに呪術も発動されていた。魔法の名前は『ドレイン』生命力を吸い取る魔法だ」
「……場所は分かりますか?」
「いや、俺の外にある魔法を複写しただけだから方角しか分からない。だが、その方向にある国は暗黒大陸と連合国家位しか無いぞ?」
「暗黒大陸と連合国家ですか……普通は暗黒大陸で悪魔召喚されたのが普通と片付けるのでは?」
「いや、魔族だったらもっと高度な、それも俺が複写出来ないほどの悪魔召喚をすると思うからだ。俺が複写した魔法陣は乱雑で片付けられるものでは無かった。それに込められた魔力量も人間数人分だと思う」
「確定ですね。普通魔族が行うのであれば数百人分の魔力が込められる筈です」
レオンの言葉に納得したようにジェイドは頷く。
「あれ?ジェイド、マーティンは?」
「マーティン様は先ほどまでいらっしゃったのですが、今度の祭りの打ち合わせに」
「祭り?」
「はい。名目は秋へ豊作を願っての向けての祭りなのですが、ぶっちゃけ楽しみたいだけです」
「取り敢えず報告はしたからな」
「はい。ありがとうございます」
レオンは来た時とは違い、マーティンの執務室の扉からしっかりと出るのだった。
「あれ?私、名前を言いましたっけ?鑑定眼とやらでしょうかね」
ジェイドは何処までレオンの情報を知っているのか。それはマーティンでさえも知らない。
まおうさまww




