54話 次あったら殴ってやる、だ!!すぐだったなww
54話目!あけましておめでとうございます!
レオンが魔法を解き、『燃える星闇』から出てきたオルガは悲鳴を上げていた。
だが、今では顔を赤くしながらも負けを認めている。
「まさかレオンがオルガに勝つとはね」
「そうよね。私は魔法を当てたことすらないのに」
その周りでは様々な会話が行われていた。
「俺はそもそもオルガ姉ちゃんに挑んだことがないな」
「お兄ちゃん、多分僕たち二人で『決闘』しても勝てないよ?」
この会話をしているのはアゼルとアレックスだ。
決闘とは『偉大なる魔術師』の中の下剋上とでも言うもの。
これは自分よりも序列が上位のものに決闘を申込み、王が認めた立会人がいる中で戦う。これで勝つことが出来ると序列は上がる。
序列が上がる利益と言えばあまり無いものだが、給料などは上がる。しかし、挑む者はすでにお金は腐るほど持っているため名誉のために挑んでいるのだ。
「私、挑む意味は無いのだけれども挑んでみようかしら?」
「それなら俺も挑んでみようかな?っと」
「私の獲物よ?」
「お前が負けたら俺も挑むことにしよう……俺は三位なのにな」
レオンは並々ならぬ気配を感じた矢筒を背負った男性とシミターを背負った女性を鑑定眼で視る。
種族名 天翼族
名前 バート・シェル・パーレイ
職業 付与師(物質弱体・異常強化・魔法増大・魔力消費増大)・魔導師(魔力消費削減)・風術士(速度上昇)・弓術士(鷹眼・架空連矢)
状態 健康
魔法適正 付与・風
称号 偉大なる魔術師・弓の声を聴く・狙撃手
ユニーク魔法 狙撃者
→魔力を消費することによって遠距離攻撃の正確性や隠密力を上昇する。また、風の魔法に補正が入る。
種族名 猫獣族
名前 フラン・シェル・グレンフェル
職業 剣術士(十字一閃・一貫両断・キルティング・刺断突・三日月斬・瞬歩)・土術師(土流壁・土千本・浮遊岩・大地活斬・剛地剣)
状態 健康
魔法適正 土
称号 剣聖・偉大なる魔術師
一目見ればフランは剣士なのだろう。
しかし、剣術との融合により偉大なる魔術師の立場を得ているのだ。その実力は剣も魔法も文句無しのレベルの強さであり、レオンでも戦い方によっては負けると思われる。
(バートが四位、フランは三位か。この強さでまだ三位という事を考えると一、二は別格なんだろうな)
「で、結果はどうなんだ?マーティン」
「オルガに勝った事で六位にはなるが……まぁ、心配はいらないだろう」
なにかを心配しながらマーティンはレオンの勝利を認める。
そこへオルガが話し掛けてくる。
「今回は私が負けたけど次は私が勝つわよ?」
だが、レオンは露骨に眉を顰める。
(また挑まれるのか?面倒だな)
レオンの根本的な考えは此処に在るのだ。
面倒くさい。
ただそれだけだ。
「な、何嫌そうな顔をしているのよ!」
「いや、面倒だから逃げようかなと思った。それに好意を持たれるようなことをした記憶が無いから更に面倒くさいな、と」
「なっ!何で私があなたに好意を持たないといけないのよ!?」
オルガはそう言うが周りから見れば一目瞭然であった。
顔は赤らめ、レオンに言われた瞬間更に赤らめ、涙目になり、レオンはやっぱり面倒くさいと思う。
(というよりこいつ戦いで負けて惚れるとかマゾなのか?)
「はい、はい。自覚する前に俺以外にその好意を向けろ。お前結構美人だし、強くても嫁の貰い所位あるだろ」
「人の事まで気にしなくていいわよ!次会った時は殴ってやる!」
オルガは顔を真っ赤にしながら去っていく。
だが、レオンはある事に気付く。
「ん?じゃあすぐに殴られることになるのか?」
その呟きは誰の耳にも入らずに終わる。
「殴らないのか?」
「うるっさいわね!だいたい――」
「会議が始まるから黙れ」
「くっ!……」
オルガが急に頼んだ『決戦』が終わった後だが、オルガは今偉大なる魔術師の会議中だという事を忘れていたのだ。
そしてレオンはオルガに勝ち六位となり、オルガはレオンに負けたため七位となる。それは必然的にレオンとオルガが隣にいるという事となり、オルガはさきほどレオンに殴ると宣言している。
その結果、恥ずかしい状態という訳だ。
「全員揃ったため、会議を始めることにする。今回も時間が無いため各自報告は書類にまとめるだけでいい。そして今月から入団したのがレオンだ。使える属性は火・光・水・風・空間・雷・闇・治療・無となっていて、ステータスには(並)と表示されていたため今言った属性に得手不得手は存在しない。特異魔法は古代や錬金などが使えるらしい。レオンが座る席は水となっており、アブルとの戦いや、オルガとの戦いで六位になっている」
そこでフランが質問をする。
「で、ぶっちゃけレオン君を偉大なる魔術師に入れた理由は?」
「理由?それは強いからじゃないのか?」
レオンはフランの質問に疑問を持つ。
それはマーティンに聞かされていた事は上位魔法が使えるからと言われているためだ。
「いや、本来ならこんなにすんなり入ることはないよ。例え思考が読めるアブルが推薦したからってアブルの魔法では人の心理深層、要するに心の奥底で願っていることなんて分からない。だから推薦されたとしても魔術士、魔法剣士が入っている魔術団に入団させて暫く様子見をする。それと調べさせて貰ったけど君は家族もいない、出生も不明、イナグの街には三日もいないんでしょう?性格も面倒くさいをモットーにしているように見えるけど間者だったとしたらそれ位はお手の物だ」
事実フランの言う通りレオンは身内も信頼も信用の“し”の文字も無い身元不明者だ。
だからレオンも疑いながらもマーティンの顔を見る。
その時に視界の端にアブルとイーゼが狼狽えている顔が見える。
(もしかして二人は俺の事をマーティンに……言う訳が無いか。契約をしているから話すという行為が出来ないし)
可能性を出してみてもレオンには何故マーティンが言い出さないのか見当もつかなかった。
「まぁ、勘だ」
「勘ね。納得したわ」
「俺もだな」
勘というものは長年の経験から導きだされるものであり、それはレオン自身もアドルフからメッセージの一つに勘は重要だという事を知っていたため納得し、周りで聞いていた者もそれを聞き納得する。
「で、レオン君にして貰いたい用件は何なの?」
「それは、担当直入に言うと勇者の育成になる」
「は?勇者の育成?それって絵本、お釈迦に出てくる悪い奴が出てきて都合良く勇者も出てきて倒されましたっていうのか?」
勇者。それはこの世界には現実にいるものであり、その出現は様々である。
庶民の中から偶に出てくることもあれば、勇者では無かったものの人々から言われて勇者となった者など様々で、彼ら、彼女らは魔王や、大規模な氾濫、極悪な龍など人間の存続が危うくなった時に出てくるのだ。これを言ってしまえば勇者と人に言われてなった者は勇者モドキとも言えるだろう。
「ああ、それだ。勇者は今現在ではこの世界には確認されていないのだが、先日に巫女が一回限りの魔法陣を神から教えて貰ったと報告してきた。出来ればすぐに行いたいが、運悪くぼう……魔族の女に封印されってしまって今は迷宮の奥底だ。それを捜索するために1、2は出席していない」
(ん?魔族の女が封印した迷宮……あっ!!『魔封迷宮』のことか?)
マーティンの言葉に思い当る節があったレオンは確認のために聞いてみることにする。
「それって『魔封迷宮』のことか?城の地下のような場所にある……」
「何故それを知っているのだ?というか何故あそこに辿りつける?」
「え?普通に城を歩いていたら迷い込んで……中には一階層目で『吸血鬼:幼体』とか、『ガルベイス』という黒い虫がありえないほどいたぞ?しかも全四階層で、『双頭牛:ゴズ・メズ』に『獄炎鳥』、『吸血鬼:成体』に『分離獣』と『合成獣』が階層ボスでいるらしい。ホント鬼畜だよな?」
レオンの愚痴のような一言に会議室は静寂に包まれる。
「あれ?何か――」
「レオン、それ誰から聞いた?」
静寂を打ち破ったのはアブルだった。
「いや、誰も何も視て知っていただけだ……誰に聞いたのだろうね?」
レオンは自分の失敗を悔やむが、誤魔化しは効かないほどまで喋ってしまっていた。
「レオンは『魔眼』持ちなんだね?じゃ、話そうか?」
「え……と――」
会議室を包む雰囲気は先ほどまでのように――オルガとレオンの言い争い――柔らかいものではなく、全員がレオンの口から『魔眼』の話を聞くまで逃がさないと語っているような雰囲気であった。
「――はぁ……仕方ないな。隠し事をして面倒くさいことにはなりたくなしな。俺の『魔眼』……なのか?どちらでもいいか。『魔眼』は『鑑定眼』と言われるもので人のステータスや、人の行動のパターン、武器などの効果に『鑑定石』の上位版とでも思ってくれればいい。それで俺は基本的に人の名前や使える職技、物の効果などが全てわかる」
「それで、ね。とうことは私の職技も――」
オルガの言葉を乗っ取るようにレオンは言葉を続ける。
「分かっている。職業は雷術師、狩人、魔導師で、使える職技は雷術師が『雷の天罰』、『流紫殲』、『ライトニングスパーク』で狩人が『鷹の眼』、魔導師が『魔力消費削減』ということもだ」
「道理で私の攻撃が完全に抑えられていると思ったわ」
「それは『魔法の眼』による強化が大部分だからあまり関係は無いぞ?」
レオンの『鑑定眼』が『偉大なる魔術師』全員が知る事になったこの会議。
この会話の後は給料の関することや、次の月の行動予定、魔物の亜種や希少種の確認、魔族の行動など様々な事を数時間に渡って彼らは話した。
だが、レオンは重要な事を聞き忘れていたのだ。勇者に関する事。
それを聞いていればあのような事にはならなかったのかもしれない。




