20話
20話目!!
10話に引き続き、10毎の話は文字数多めにしますよ!!
……と言いたいところですが、無理にくっつけると違和感が出てしまうので、2話に分けて約1万文字ほど投稿させていただきます。
(どういう事なのだ。文字化けが十四個中の九つは無術師系だと予想できるがそれ以外に五つもあるのだろう?……となると面倒だが『高貴なる診職のオーブ』を使わないとだめか)
マーティンはこの王国の国宝にもなっている魔道具『高貴なる診職のオーブ』を使う事を決める。そのため自分の使っている魔法は少しオリジナルを混ぜているため解除するのに意識を集中させる。
それを見ていたレオンはそれに気づき、首を傾げた。
(急に魔力を集中させ始めたけどどうしたのやら。まあ、暫くはマーティンの言う事は聞くけど……)
レオンがこんな風にマーティンを見ながら思っていると魔法を解除させるため一言、二言と呟く。するとレオン達を囲っていた壁は消えたのだが……
「なっ!?」
レオンの声が広間に響く。
それを見てマーティンは意地の悪い笑みを浮かべる。
その理由はマーティンが『空固の契約』を使った時と外の時間が過ぎていないように思えたからだ。
例を出すならばレオンを睨んでいた貴族はまだ全く同じ態勢のまま睨んでいて、国王の近衛と思わしき者達は国王が魔法を使おうとし、それを止めるため駈け出そうとした態勢のままスタートしたのだ。
まるで空間の中だけ時間が流れていたかのように……
「どういう事ですか?」
「敬……」
マーティンに言われた通り公の場では敬語を使うレオン。
それに対し恐らくマーティンは敬語を使わなくても良いと言おうとしたのだろうが、座る席が決まっていないため会話を続けるようだ。
「グリックス侯爵、この広間に『高貴なる診職のオーブ』を持ってきてくれ。お前が管理しているのだろう?」
王のお願い……ではなく、命令に「仰せのままに」と答えたグリックス公爵が近くにいる部下に命令して取りに行かせた。その際に鍵みたいな物を渡していたのは流石国宝と言ったところだろうか。
その後、マーティンはレオンと約束した通り一度全ての者を広間から出した。
その際に近衛の者や爵位の高い者から注意されていたのを見るとこの光景は日常茶飯事らしい。最終的には国王が自分のユニーク魔法で大丈夫だと言い『偉大なる十属性の魔術師』の一人――光属性の席に座っている者――を傍に居させる事で了承が出たのだった。
その頃アブルとイーゼは二人共通の主――マーティン――に言われた通りダンジョンが氾濫を起こした場所に向かっていた。
なお、何故転移したのにその場所に直接行かないかと言うとアブルがあまり魔力を消費したくないため城から出た後は二人で走って向かっているのだ。
「うん。うん。分かった。で、今回氾濫起こしたのは……『灰鋼の迷宮』ね。出てきた魔物は……『ゴーレム』に『スチールゴーレム』、『ゴーレムメタル』が代表的で、ゴーレム版の『獄㷔鳥』が一匹。戦況は……『無』と『闇』が『獄㷔鳥』の相手をしていて『光』が雑魚の魔物の掃討か。ありがとな。………こんな感じみたいだよ?イーゼ。『この後は二人の判断で行動してください』って『治療』が言ってるけどどうする?」
【ゴーレム】
魔力を多量に浴び魔物となった岩。その強さは素材となった岩により変わり厄介だが、魔石の場所はどの個体も同じで、魔石を壊せば魔力を浴びた岩が手に入るので一定以上の強さを持つ冒険者に人気。
【スチールゴーレム】
スチールという魔法鉱石がゴーレムとなった岩。その体は魔法に強い耐性を持つが体が普通のゴーレムよりも柔らかい。しかし初歩的な魔法を使ってくるので厄介な魔物。
【ゴーレムメタル】
鉄や金などが魔力を多量に浴び魔物となった岩。その体は非常に硬くスピードも速いため注意が必要。普段は土の中に眠っているため滅多に出会う事は無いが自分の体を採掘されるといつまでも追ってくる。別名『追跡の極者』
アブルが走りながら杖を掲げて『追跡弾道炎球』を空の敵に撃っているイーゼに言う。
その杖の見た目は低ランク冒険者が持つような杖だが違うのをアブルは知っている。
杖の名前は『炎玉の宝杖』。素材となっているのは数千年の時を生きた木の魔物『エルダートレント』別名『古代樹』の木で魔法の威力増強効果があり、さらに杖の魔法を発動する部分には世界神樹の枝が使われている。そして、安物に見える杖の中で唯一高そうに見える中央に埋め込まれた大きな鉱石は『炎王石』と言い、炎に高い親和性を持つ。
この杖は大きな国でも国宝とするだろう。しかしこれを作ったのは仮妖精王マルク。『妖精の森』に存在する物だけでこれは作られたのだ。イーゼ一個人のために。
「じゃあ、空の魔物だけ片付けましょう。地上は『偉大なる十属性の魔術師』二人いるだけで過剰戦力だから」
アブルに言われた事を一瞬で整理し、戦況を遠くからも把握するのは流石と言うべきであろう。
言われた事に「はい、はい」と頷いたアブルはイーゼのように敵を倒すため、イーゼとは別方向に向かって走っていく。
それを見届けたイーゼは魔法を使うため意識を集中させる。
『此処に宿りし炎は鉄でさえも蒸発させる炎。我が意志のままに空を舞い、炎の爆発を巻き起こせ』
イーゼの杖に炎が球状に集まりそれが『炎玉の宝杖』の効果で熱く、大きくなっていく。そしていつからかそれは一つ、二つと増えていき最終的には三十個程で直径二メートルの炎球が出来上がる。
『業火の爆裂弾』
イーゼの詠唱が終わったと同時に発射された球は戦場の空へと飛んでいき『スチールワイバーン』の群れを囲んでいく。
いきなり現れた炎球に驚きながら『スチールワイバーン』は炎球が発射された場所、すなわちイーゼに向かって飛んでいく。
それを見ていたイーゼが軽く指を鳴らした瞬間……
ドーン!!
と音を上げ『スチールワイバーン』の群れを囲んでいた炎球が爆発の嵐を巻き起こす。
「次はあの『メタルコカリトス』の群れにしましょうか」
イーゼは空を見上げ新たな敵に狙いを定め、笑みを深くした。
「本当に氾濫多くない?凄い面倒臭いし。今月だけでこれ何回目だろう」
イーゼと別れたアブルはそんな愚痴を溢しながら屋根の上を移動しながら走っていた。
「んっ?あれは……『スチールワイバーン』の群れ……?」
そんな中、視界の端で『スチールワイバーン』らしき群れを見つけたアブル。そのため急いで群れのいるスラム街に行く。
数分後アブルはスラム街を歩いていた。
「あれ?おかしいな?さっきまでここら辺に魔物がいた筈なんだけどな?」
歩いている理由は群れを見つけたためこの場所に来たのだが近づくに連れてその群れが見えづらくなっていき、一瞬、ほんの一瞬目瞬きをすると群れがいなくなっていたのだ。
「やっぱりあれは幻術?でも幻術を使うのは『魔狐』だけなのに?」
アブルはふと疑問に思う。灰鋼の迷宮には魔狐はいない。しかも、街の中に易々と入れる訳がない。「なら何故?」と。
しかしその答えはすぐに分かった。
「それはアタイの幻術の効果だからよ。にしても王国の魔術師ももうちょっと警戒心持たないの?ま、簡単にこの街に入れたからよしとするけどね。それに、人化を解いて魔狐に戻って冒険者を騙すっつーのもやんなくてよかったわね。あんな辺鄙な森に子供が来た事も予想外だけど」
突然聞こえた声にすぐ後ろを振り返るアブル。
そこには魔族の特徴と獣人、その中でも狐の特徴を抑えた女性がいた。その風貌は人を騙すためか、非常に薄い服を着ていて女らしい体つきをしている。
「誰だっ!」
空間の魔法に長ける自分になんの違和感を覚えさせずに近づいて来た女に警戒心を持つアブル。それに……
(見た目は魔族……だな。それも禍々しい魔力。魔王に強制的に魔族にさせられた魔狐か。でも、様子を見ている限り嬉々としてなっているな。それに、人を騙そうとした事があるのか。という事はこいつはてっ!)
「ほいっ!あれ?当たっていないのね。次は躱せるかな」
一瞬思考に入っただけで目の前に接近してくる素早さ。それは流石魔狐と言った所だろうか。しかし今回は相手が悪かった。
「ほいっ!と?」
自分の主――魔王――から貰った短剣で追撃を仕掛けて敵を斬り付けたのだが感触が無かったため疑問に思う魔族の女。
「あれ~?どこに行ったのかな?じゃ、ちょっと幻術をっ!?」
「『圧空』!!」
魔族の女が魔法を使おうとした直後、背筋に冷たいモノが走ったため後ろに跳び退る。
そして次の瞬間、魔族の女がいた場所の空気が圧縮され空気中に漂っていた魔力が結晶化された。
その攻撃……魔法の名前は『圧空』。効果はひどく単純で、読んで字の如く空間を圧縮するのだ。しかしこの魔法には欠点がある。それは空間を圧縮するにはその空間を魔力で覆わなければいけないためタイムラグがあるというものだ。
生まれて間もない魔族の女――魔族からしてみれば、であり人族からすると五十年程だ――がこの攻撃を避けられたのはアブルが牽制をするためにこの魔法を使ったからだろう。本来ならば『異間の支配者』の名に恥じないようなスピードで空間を圧縮するのだから。
「なっ!何時から其処に居たのよ!」
魔族の女が魔力の残留――魔力で空間を覆うため、魔力の残留が空気中に残る――を辿るとその先にあったのは十メートル程のボロ倉庫の屋根の上だ。
魔族の疑問に答えるとすれば、斬られる瞬間に転移魔法でそこに移動したのだが女がそんな事を知っている訳がない。
それに自分の手の内を明かすような真似をする筈が無く、アブルは「教える訳ないでしょ、バーカ」と言って魔狐を挑発する。
「じゃ、次は僕の番ね?あ、次も、か。捕虜にしたいから出来るだけ死なないでね?」
アブルが魔法発動体兼大太刀となっている<空異の跳剣>を魔族の女に向ける。
だが女は時間稼ぎをしたいのか、余程自身満々なのかアブルに会話を吹っかけてきた。
「ねぇねぇ。お兄さん。名前を教えてよ。私の名前も教えるから」
そう言われて「今から死ぬ奴の名前を覚える気はない」と思いながらもアブルは質問に答える。
「アブルだよ。君は?」
「ミリアムよ。にしてもそこまで簡単に答えてくれるなんて馬鹿ね。さっきよりも深い幻術に落ちな!」
気が付くとミリアムと名乗った女はアブルの近くに来ていた。
しかしアブルはすぐに考えを訂正する。
(違う。一瞬で来たんじゃなくて、幻術で下に自分の幻を見せていたんだ)
「私がここに来るまでの時間稼ぎ自分から乗ってくれるなんて、ちょっと残念だわ」
耳元でそう言われなんとも言えぬ不快感を感じたアブルは、大太刀を横に振る。
しかしそこにはミリアムはおらず、反対側の耳からミリアムの声が聞こえた。
『幻術』
「これで私の勝ちね」
この声を聞いたアブルはだんだんと目の光を失っていき……
「そうね。まずは……跪きなさい?」
ミリアムに跪いた。
では1時間後に次話を更新するのでお楽しみに!!




