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義腕の召喚術師

「オレはジーノ。レイルを返してもらいに来た」

「レイル……? ああ、お前さんもあの嬢ちゃんが狙いかい」


 お前「も」という言い回しに、ほんのわずかな引っ掛かりを覚えたが、今のジーノにとってそれは些細な違和感だった。


 今のジーノの頭の中は、山賊団の頭であるサーヴァを降伏させ、レイルを解放させることで一杯だった。

「……悪ぃが、そいつはできねぇ相談だ。あの嬢ちゃんを、お前さんに渡すことはできん。……どうしてもってんなら、わしを倒してみるんだな」

「言われなくても、そのつもりだ!」

 ジーノはそう叫び、剣を構えた。


「《瞬雷刃(しゅんらいじん)》!」


 雷の力を剣に纏わせ、ジーノは一気にサーヴァとの距離を詰めた。その勢いのまま、鋭い突きを繰り出した。

 しかし、サーヴァはそれを義腕で難なく受け止めた。


「えっ!?」

「ほう……若いもんにしちゃあ、随分いい腕してんじゃねぇか」


 にやりと笑うサーヴァの義腕は、剣から放たれた雷を吸収した。

 ジーノが慌てて距離を取ると、サーヴァの左肩に小人が乗っていた。

 先ほどジーノを襲った集団とは違い、白い髭を生やした茶色の服の小人は、その手につるはしを持っていた。小人が握りこぶしをサーヴァに向けると、人間同士が拳をぶつけるように、サーヴァも自分の右の人差指をこつりと合わせた。


「助かったぜ、ブラウニー。あとで美味いミルクをごちそうしてやっかんな」


 サーヴァがそう言うと、ブラウニーと呼ばれた小人は笑って、そのまま光の粒子となって消えた。


「い、今のは……魔術……?」

「おう? お前さん、見たことねぇのか? さっきのは『ブラウニー』つう精霊さ」

「せ、精霊!?」

 

 こともなげに告げられた事実に、ジーノは思わず素っ頓狂な声を上げた。


「何驚いてんだ? 精霊は、この世界の全てを司ってる生命体。わしらのすぐ傍にいつもいるダチだろう?」

「た、確かに精霊はあらゆるところに棲んでる……でも、人前に現れるなんてことはそうそうないし、精霊に力を貸してもらう魔術なんて聞いたことが無い!!」


 ジーノが驚くのも無理は無かった。精霊とは、この世界の森羅万象全ての自然現象を司る、神の御使いとも呼ばれる存在。しかも普段は実体を持たないため、人間の目で捉えることすら難しいのだ。

 そんな精霊の力を借りるなど、それこそジーノの持つエレメントが、精霊から賜ったという伝説が残されていた程度だ。


「……まあ、な。わしの使う『召喚術』は、滅多に扱うやつがおらんからな」


 どこか寂し気な表情を一瞬だけ見せ、サーヴァは左の義手を強く握りしめた。


「まあ、んなこたぁどうでもいいな。わしはこの山賊団の頭として、アジトをここまで荒らしたお前さんを許すわけにはいかん。わしらが灸をすえてやる!」

「……負けない。負けるわけにはいかないんだ!!」


 ジーノは自分に言い聞かせるようにそう叫んだ。

 機械の獣といい、精霊を使役する不思議な技といい、ただの山賊ではない。だが、それがどうしたというのだろうか。ジーノがすべきことは変わらないのだから。


「なるほどな……なら、わしらも相手するとしようか!」


 未知の力を前にしても臆さぬジーノの姿に、サーヴァは力強く笑った。そして左腕を前に突き出した。


「来たれや鬼火! 《ジャック・オ・ランタン》!!」


 サーヴァの言霊に反応し、精霊がその姿を現した。

 黒いマントを身に纏い、顔の形にくりぬかれたかぼちゃの頭をした男の姿。それはケタケタと笑い声を上げると、手に持っていたランタンを掲げた。

 それから炎が飛び出し、サーヴァの義腕を中心に渦巻いた。その出来に満足したのか、ジャック・オ・ランタンはサーヴァの頭上で二・三回くるくると回ると、そのまま炎となって消滅した。


「炎が……そうか、さっきもこうやって、精霊の力を義手に宿して……!」

「その通り。今のは、火の精霊ジャック・オ・ランタン。いたずら好きの困ったやつだが、こいつの炎は絶対に消えねぇ」


 そう告げると、サーヴァはその義腕を大きく振りかぶった。


「おらぁっ!!」


 振り下ろされた義腕を、ジーノは飛び退いて躱す。鍛え上げられた巨体から放たれる拳の威力で、義腕に宿った精霊の炎が渦となり、周囲に高熱をまき散らした。


「はあっ!」


 着地したジーノが、すぐさま反撃に転じる。しかし振るった剣は、サーヴァの義腕に受け止められる。


「やるじゃねぇか、坊主。……なら、これでどうだ!?」


 サーヴァはジーノの剣を振り払うと、その拳に意識を集中させた。キィィンという音を立て、掌に炎が集まっていく。

 どんどん、どんどん大きくなり、サーヴァの姿が見えないくらい巨大になっていく。


「《フレア・スィード》!!」


 サーヴァがそう叫ぶと、その火球が弾け、炎の奔流となってジーノに襲い掛かった。


(この大きさだと避けきれない……だったら!)


 一瞬の判断。ジーノは地面に剣を突き刺した。


「《烈衝陣(れっしょうじん)》!!」


 機械獣にしたように魔力を地面に注ぎ込み、そのまま剣を地面ごと振り上げた。魔力の衝撃波が岩盤を砕き、火炎に向かって地を走っていく。

 ジーノの衝撃波と、サーヴァの炎がぶつかり合う。生じた激しい爆風に、その場にいた全員の視界が遮られる。


「……そこだ!!」


 その中をジーノは駆けた。跳躍し、サーヴァに向けて剣を振り下ろす。


「ぐぅッ!!」


 間一髪でサーヴァは己の義腕で剣を受け止める。が、その攻撃で、義腕に付けられていた装甲にヒビが入った。


「うおぅっ!?」

「はああっっ!! 《電泡扇でんほうせん》!!」


 本来遠距離広範囲を攻撃する雷撃。それ故力が低い技も、至近距離から放つことで、威力が一気に跳ね上がる。ダメージを受けた義腕が悲鳴を上げ、バキリと装甲が砕けた。


「ちぃ……!」


 装甲と共に、内部のケーブルが何本か切れたようで、バチバチと火花が散っていた。ジャック・オ・ランタンの炎も消えた義腕を、サーヴァが右手で押さえる。


「ああっ!! お、お頭の腕が……!!」

「ま、まだだ! お頭が負けるわけねえんだ!!」


 物陰から二人の戦いを見守っていた山賊達が悲痛な声を上げた。さすがのサーヴァもうつむいたまま動かなかった。


「……はははッ! ハッハッハッハッッ!!」


 すると、どうしたことだろうか。突然サーヴァが声を上げて笑い出した。山賊達も、ジーノも、サーヴァが何故笑うのか理解できずに、目を丸くして硬直した。


「……ったく、すげえなお前さん。わしの義腕が砕かれたのは、わしが頭になってから初めてだぜ」


 笑いかけるサーヴァには、先ほどまでの戦意が消えていた。その姿に、ジーノも剣を振るうことを躊躇してしまう。


「……悪かったな。だが、お前さんは『敵』じゃねえんだな」

「えっ……?」

「じ、ジーノ!?」


 サーヴァの言葉に疑問を覚え、ジーノが聞き返す。その時、耳によく馴染んた少女の声が、自分の名を呼んだ。

 声をした方に振り向けば、隠し通路への入り口だったのだろう、岩壁にぽっかりと空いた穴の中に、レイルがしゃがみこんでいた。


「じょ、嬢ちゃん! まだ隠れてないとダメだって!」


 山賊達の制止の声には耳を貸さず、レイルは横穴からひらりと飛び出した。そのまま、突然の探し人の登場に思考が追いついていないジーノの元に駆け寄った。


「レ、イル……?」

「やっぱりジーノだ! ……て、おっさん腕取れてない!?」

「なあに、ちょいっと装甲が外れただけだ。こんぐらい、メシの片手間で直せるさ」


 呆然とするジーノをしり目に、レイルは彼の手を握る。そして、サーヴァの壊れた義腕を見て大声を上げるレイルに、サーヴァは何ともないと笑い返した。


「レ、レイル!? なんで山賊の心配を……!? この人達は、レイルを誘拐した犯人だろ!?」


 誘拐犯と被害者にしてはあまりにも打ち解けすぎている二人の様子に、ジーノは思わず声を荒げてレイルに問いただした。するとレイルはきょとんとした後、信じられないと言わんばかりに目を見開いた。


「……はぁ!? 何言ってんのよジーノ!? アタシ、サーヴァのおっさん達に匿ってもらってたの!」

「か、匿って……!?」


 その言葉に、ジーノはレイルとサーヴァの顔を交互に見た。


「……まあ、勘違いってやつだな。詳しく話してやっから、一緒にメシにでもしようや」


 明らかに動揺を隠せていないジーノに、サーヴァは苦笑してそう提案した。


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