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雷の宝玉


 カッ!!



「何……!?」


 突然、まばゆい光が空間を埋め尽くした。

 その光を浴びていると、不思議とジーノの全身から痛みが引いていった。

 ここに祀られていた宝玉が、男の手を離れて宙に浮かぶ。それはジーノのすぐ目の前へと滑るように飛んでいき、何かを待つようにふわりと静止した。


「これ……は……?」

『……ちから……力を、欲するか……?』


 呆気にとられるジーノの脳内に、男の声が響いた。


『勇気ある者よ……朋を想う者よ……汝、力を欲するか……?』


 理解できないことばかりが、立て続けに起きていた。だが、ジーノの心には、恐れも疑念も無かった。


「……欲しい。オレは……皆を守りたい……!」


 ジーノは手を伸ばし、宝玉に触れた。



『……契約は、交わされた』



 その言葉が届くや否や、宝玉が光となって弾けた。

 それはジーノの右耳に集まり、その形を変えていく。パチンッと光が再び弾けると、それは蜂蜜色の宝玉がはめ込まれた、銀と金で形作られた稲妻型のイヤリングに変わった。


「まさか……『エレメント』に選ばれたというのか……?」


 男の声音が、驚愕の色を宿した。立ち尽くす男の前で、ジーノはゆっくりと起き上がる。


(力が、湧き上がってくる……。これが宝玉の……精霊の力なのか?)


 ジーノは剣を拾い上げ、立ち上がる。自分の中に、今まで無かった力が渦巻いているのを感じていた。

 剣を構え、大きく深呼吸をする。意識を研ぎ澄ませ、自分の中の力を、剣に集中させる。


「……《雷閃牙(らいせんが)》!!」


 今の自分の全てをかけた一閃。真一文字に薙いだジーノの剣撃から、轟く雷電が迸った。


「ちっ……、《バリア》!」


 男はすぐさま防御の魔術を発動させた。紫の魔法陣が、男の前で障壁となる。


「はああああっっ!!」


 ジーノは声を上げ、剣先を突き出した。雷撃が一直線に、男へ向かって空を裂いた。

 面から点の攻撃となり、威力が集中した黄金の雷が、障壁にヒビを刻んだ。


「な、に……!?」


 息を呑む男の前で、障壁がパリィンと音を立てて砕け散った。咄嗟に男が身を捩るが、鋭い刃となった雷撃が、男の露出している左の頬を掠めた。


「……く……」


 それを見届けた後、ジーノはその場にがくりと膝をついた。

 全身を襲う脱力感。まだ扱い慣れていない力を使った弊害かと、少しぼんやりする思考でジーノはそう感じた。


「……まさか……目覚めるとはな……」


 男は攻撃を受けた左頬ににじむ血を手の甲で拭い、ぽつりと呟いた。


「……貴様、名を聞いておこうか」

「……ジーノ=ラルディクス……」

「ラルディクス、か……覚えておこう」


 男はそうとだけ答え、くるりと背を向けた。

 ぼうっと、黒々とした靄が、男の前に広がる。男は躊躇うことなく、その闇に足を踏み入れていく。


「……貴様とエレメントに免じて、この場は引くとしよう。あの女も、どうやらこの場にはいないようだしな……所有者が現れた以上、エレメントを奪うこともできん」


 黒い空間に溶け込んでいく男はそう言って、首だけを動かしてジーノを見た。


「……貴様がそれを持っている以上、再び相見えるだろう。せいぜい、それの所有者に恥じぬ力をつけるんだな」


 その言葉を残して、男は暗闇の中に吸い込まれて行った。ぽっかりと開いた闇が小さくなり、初めから存在しなかったかのように霧散した。


「……助かった、のか……」


 ジーノは確かめるように呟き、はぁ……と息を吐いた。そのままずるずると、その場に座り込む。

 左耳に手を当てる。つい数分前には無かった、冷たく硬質な感触。しかし、そこからじんわりと魔力が流れ込み、自分を包んで巡っているのをはっきりと感じた。


「……『エレメント』……これは、一体……?」


 解消されなかった疑問を、思わず口にした、その時だった。



『……たすけて……』



「……こ、この声……!」


 突然、今朝夢の中で聞いたものと同じ声が呼びかけてきた。

 気がつくと、ジーノの前に一人の少女が立っていた。

 腰まで届く白銀の髪。透き通るような白磁の肌。宝玉を掲げる女像とよく似た服を身に纏った少女は、彼女自身がぼんやりとした白い光を纏っていた。


「き、君は……?」

『……たすけて……あの人を、助けて……』


 少女はひどく悲しそうな声で、そう繰り返した。


『あなたなら……助けられる……雷のエレメントに選ばれた、あなたなら……』

「雷のエレメント……このイヤリングのことなのか?」


 ジーノが問うと、少女はこくりと頷いた。

 その姿は蜃気楼のようにゆらゆらと頼りなく揺れて、今にもかき消えてしまいそうだ。


『……お……ねが、い……東へ……そこに……あなたの……さがす、人が……』

「レイルのことか!? レイルが東に……!? 一体どうして!?」


 ジーノの疑問に、少女はただ悲し気な表情を見せるだけだった。

 そして、不安定な少女の像が、ジーノの目の前でどんどんぼやけていく。


「待ってくれ! もっと詳しく……!」

『……ごめん……なさい……でも、どうか……』


 その言葉を最後に、少女の姿は光の粒子となって消えてしまった。


「……一体、何が起きているんだ……?」


 取り残されたジーノは、誰にともなくそう問うことしかできなかった。




 突然町を襲った、見たこともない魔物。

 行方をくらませたレイル。

 ジーノのイヤリングに変わった宝玉・エレメント。

 そのエレメントとレイルを狙う、黒衣の男。

 そして、謎の銀髪の少女の幻影。


 ジーノはまだ気づいていなかった。

 自分が、大きな運命の渦の中心に投げ込まれていたことを。


 これから己が、想像を絶する戦いの、台風の目となる存在となることを……


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