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暗雲

「エルド大尉が、エレメントの継承者を捕まえたそうだね」


 制圧し、司令部のひとつとした城内を歩く黒衣に、白銀の鎧の人物が声をかけた。


「……そうですが、何か問題が?」

「何、目下の危険分子が、解放軍と共に無力化できたことに、少し安心してね。君は違うのかい、アマルティア大佐?」


 すげなく返された言葉にも笑顔で返し、彼はハウトに問いかけた。ハウトは何も答えず、再び足を動かした。


「……しかし、驚いたよ。報告では君と同じくらいの少年少女に、年端もいかない女の子までいたとか。君といい、ヴィンツェンツィオ少佐やエルド大尉といい、最近の若者は腕が立つようだね」

「……世間話をしたいだけなら、それこそヴィンツェンツィオ大佐でも捕まえればいいでしょう」

「ふふっ。相変わらず、君は不愛想だな」


 からかうようにそう言われ、ハウトは仮面越しに鎧の男を睨みつけた。しかし、長い付き合いゆえなのだろうか、並の兵なら腰を抜かしてしまうだろう威圧感にも、男はただにこにこと微笑んでいるだけだった。


「……まだ、制圧は完了していません。エレメントが全て掌握できたといえ、北のセダル王国の侵攻は難航している……それは、あなたも理解しているんでしょう?」

「……そうだな。だからこそ、ちょっと聞きたくてね」


 そういうと、男は笑みを消して、ハウトに問いかけた。


「……彼らを、どうするつもりだ?」

「……どう、とは?」

「エルド大尉のように戦力に加えられるなら好ましいが、流石にそうはいかないだろう。だが、ドゥルケンハイトを復興させられたのならば、もう一度リヒトと友好関係を結んでもいいと思っている。その時、彼らのような力のある青年達が力になってくれると……」

「そんな提案は無用です」


 そう一蹴すると、ハウトはくるりと男に背を向けた。


「……彼らは、解放軍共々、処刑します。……本国の防衛についていたあなたは知らないだろうが、これはもう軍議で決定しました」

「……ッ……」


 感情の無い言葉に、鎧の男が息を呑んだ。それには気づかず、或いは気づいていないふりをしているのか、ハウトは淡々と続けた。


「彼ら解放軍は、再三にわたって我々を妨害してきた。そして、エレメントの継承者達も同様。不穏分子の排除は当然でしょう」

「……しかし、何も全員を処刑せずとも……」

「エレメントは魔力で継承者と深く繋がっています。継承者を殺害しない限り、奴らから引きはがすこともできません」


 ハウトの発言になお反論の言葉を探す男に、「それとも」とハウトが問いかけた。


「あなたは、敵に情けをかけ、我らが祖国を滅亡の危機をもたらしても構わないと。そう言いたいんですか?」

「……そういうつもりは、毛頭ない」

「……ならば、軍の決定に逆らわないことです」


 そう釘を刺し、ハウトはその場を立ち去った。


「……このドゥルケンハイトを守る……か……」


 残された男は、ぽつりと呟いた。

 フードと仮面で覆い隠された瞳。しかし、男には見えていた。感じていた。



 その瞳に、憂国と言うにはあまりに刺がある、どす黒い感情が込められていたことを。


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