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新たなる仲間


「さてと……きっつい一撃もらっちまったからなあ……ちゃんとお返ししねえと……」



「……いい加減にしやがれ」


 テオドアの言葉を遮ったその声は、静かでありながらもその場に響き渡った。

 それを発したのは、仲間の山賊達を看ていたために戦いに参加していなかったサーヴァだった。サーヴァはぐったりとしたまま目を開かない副頭の頭をそっと撫でてから立ち上がり、口を開いた。


「……こいつらは……わしにとって、家族同然だ。ここは、わしにとっての家で……頭であるわしが守らにゃいけねえ、こいつらの居場所なんだよ。それを、てめえは……」


 静かな怒り。熱を持たない鋼の腕を握りしめ、サーヴァは震えていた。自分を頭と呼び慕ってくれる者達の、痛ましい姿に震えていた。


「……異世界との戦争なんざ知ったこっちゃねえ。だが、こいつらの帰る場所を奪うってんなら……わしはてめえを許さねえ!!」


 

 カッ!



 サーヴァの叫びが響いたその瞬間、辺りが淡い橙色の光に包まれた。


「うわっ!?」

「な、なんだこれ!?」


 全員が突然の出来事に驚き動きを止める中、アジトの壁の一部がボロボロと崩れ落ちた。

 その先には、小さな祭壇と、浮遊するオレンジ色の宝玉が、静かに佇んでいた。

 宝玉はすいっと中空を舞い、まっすぐにサーヴァの元へとやってきた。


「こ、こいつぁ一体……」

『……知ってるよ』


 あっけにとられるサーヴァの脳内に、直接誰かの声が響いた。男とも女ともとれる、子どもの声が。


『あなたが守りたいもの……あなたが大切に思うもの……全部、全部、知ってるよ』 

「あれ……まさか、エレメントか……!?」

「やっぱ持っていやがったか! それをよこせ!!」


 テオドアが宝玉を……エレメントを奪い取ろうと駆け出す。

 しかしその前に、テオドアの足が地面ごと凍り付き、動かなくなった。


「《氷結魔弾(フリーズ・バレット)》……ちょっと動かないでよね」


 レイルが静かに銃口を向け、テオドアを睨みつけていた。


「……お前さんは……」

『だから……ボクの力を貸してあげる。あなたが守りたいものを守るために……』


 その言葉に促されるまま、サーヴァは右手を伸ばした。宝玉に触れ、そっと手の中に収める。


『……契約、成立だね』


 その瞬間、ジーノの時と同じように、宝玉がパチンと弾けて光となった。

光はサーヴァの右の上腕にぐるりとまとわりつくと、オレンジの宝玉をあしらった、正方形の板が連なった腕輪へと変化した。


「おっさんも、エレメントを……!」

「くっそぉ!! でも、今から奪えば……!」


 テオドアは悔しそうに吼えると、レイルの生み出した氷を破壊した。そして戦斧を構え直すと、サーヴァに切りかかった。


「……来たれや、土塊(つちくれ)の巨人」


 サーヴァはそれを見据え、左の義腕に力を込めた。刻まれた魔法陣が淡い光を放ち、周囲に魔力が渦巻いた。


「……《ロックゴーレム》!!」


 その叫びは、契約の言霊。突き上げた左腕の魔法陣と、右腕のエレメントの光が合わさり、精霊をこの地に呼び寄せる。

 転がっていた岩の残骸が宙に浮き、サーヴァの背後に集まっていく。ごつり、ごつりとぶつかり合い、複雑に噛み合って、巨大な人型を作りあげた。


「なめんなよ……そんなもん、ぶっこわしてやる! 《怪力の大斧》!!」


 テオドアが、自分の腕ごと斧に魔力を注ぎ込む。腕力を数倍にまで増幅させ、必殺の一撃を放たんと、斧を振りかぶった。

 サーヴァは静かに左の拳を握った。それに呼応し、ロックゴーレムもまた、同じく左の腕を動かし、握り拳を作った。


「《グランド・フィスト》!!」


 サーヴァとゴーレムの拳が、まっすぐにテオドアに突き出された。サーヴァ達の正拳と、テオドアの戦斧がぶつかり合う。

 ぴし……、という音がした、そう思った次の瞬間、テオドアの斧の刃が、粉々に砕けた。


「そんな……! ぐはあっっ!!」


 そのままサーヴァとゴーレムの拳が、テオドアの胴を直撃した。受け身を取ることもままならず、テオドアは吹き飛ばされ、反対側の壁にめり込んだ。


「す……すごい……!」

「……こいつらの痛みに比べりゃまだまだだが……少しは思い知ったか?」


 役目を終えたゴーレムが静かに消え去り、サーヴァは聞こえていないのを承知でそう問いかけた。


「しかし、こいつはすげえな……魔力が溢れてきやがる」

「おっさん、やっぱりエレメントのこと知ってたんだ」

「ああ。まさかわしが使うことになるとは思わなかったがな」


 レイルの問いにサーヴァは笑い、そして、壁にもたれたまま動かないテオドアに近づいた。


「おい……死んじゃあいねえだろ?」


 呼びかけられ、テオドアの指がピクリと動いた。それをきっかけに、テオドアがふらつきながらも立ち上がる。


「死んでねえ……? ったりめえだろ……オレは……負けてもいねえんだからよ……」

「そんな……まだ戦う気なのか……!? これ以上は体がもたないだろ!?」

「うるせえ! オレは負けねえ! 絶対に、負けられねえんだよ!!」


 ジーノの声にも耳を貸さず、もはや武器すらないというのに、テオドアは戦意を失わなかった。口の端から滲む血を荒く拭い、ジーノ達を睨みつけた。


「……そういう骨のある所は、敵ながらあっぱれってやつだな……いいぜ、相手してやるよ」

「へへ……当然だ……逃げられてたまるかよ……!」


 説得などできない相手だと理解し、サーヴァは再びテオドアと対峙する。テオドアも笑みを浮かべ、拳を構えた。



 バンッ!


 その時、乾いた銃声が響き渡り、サーヴァとテオドアとテオドアの間の地面に弾丸が穿たれた。


「レイル!?」

「ち、ちがう! アタシじゃないよ!」


 ジーノが思わず声を上げ、レイルは慌てて否定した。


「悪ぃな。そこまでだ」


 そこに、青年の声が響いた。

 テオドアの開けた壁の穴に、青い服の青年が立っていた。

黒い髪は、右のもみあげだけが白く色が抜けている。十字の模様に白いラインが走る青い服の左胸には、テオドアのメダルを小さくしたようなものが煌めいていた。

 黒い手袋に覆われた左手で、先に刃が取りつけられた銃……ガンブレードを握り、サーヴァに向けていた。


「てめぇは……」

「セブ!!」


 テオドアはその姿を確認すると、パア、と表情を輝かせた。


「なんだよ、手伝いならいらねえからな!」


 ガンブレードでジーノ達をけん制しつつ、セブと呼ばれた青年はテオドアに近づいていく。そして……


「あてっ!?」


 テオドアの頭を、空いている右手でこづいた。


「ちっげーよ。何期待してんだ。一応先輩だろうが、お前はよぉ……」

「って~、なんだよ! 後輩だったら殴るんじゃねえよ!!」


 ぎゃんぎゃんと噛みつかんばかりに吼えるテオドアを無視し、青年はぽかんとしているジーノ達に向き合った。


「悪かったな。オレはセーブル=ヴァドゥ。いちおう、ドゥルケンハイト軍の第六師団を預かってる」

「第六、師団長……!」


 剣を握る手に力を込めるジーノに対し、セーブルがガンブレードの切っ先を下にし、敵意は無いと言わんばかりに右手をひらひらと振った。


「今お前らとやりあう気はないぜ? 軍議すっぽかしたこいつを拾いに来ただけだ」


 そう言って、セーブルはもう一度、テオドアの頭をこづいた。


「~、いってえんだよ! 何度もたたくな! バカになったらどうすんだよ!!」


 頭を押さえて蹲るテオドアに、セーブルは「もうとっくにバカだから、これ以上無駄な心配すんな」とそっけなく返した。


「……それと、エレメント回収、いったん中止だそうだ。というわけで、この山賊団だったか? もう戦う必要はねえってわけだ」

「はあ!? 聞いてねえぞ!?」

「お前が今日の軍議に参加してないからいけねえんだよドアホが」

「でもよ! 龍の痣の子もいるんだぜ!? 最優先で捕まえろって話だったじゃねえか!!」


 呆れて溜め息も出ないと、視線で訴えるセーブルに、テオドアはそれでも不満げに頬を膨らませた。


「まあ、確かにそうだけどな……でも、結局エレメントは回収できてねえし、それどころか継承者を増やしたってなれば……報告を優先したほうがいいと思うけどな」

「うぐぐ……確かにハウトからも、継承者が現れる前にって、念おされてたけどよ……」

「わかったんならとっとと帰るぞ。オレまでどやされるのは勘弁だ」


 悔しそうに歯を食いしばるテオドアにそう言って、セーブルは腰に提げたポーチから魔石を取り出した。


「そういうこった、龍の姫さんとそのお仲間さん達よ。ここは見逃してもらえると助かるんだが?」

「はあ!? そっちが先に仕掛けてきたんでしょ!? 山賊団の皆をこんなにして……!」


 セーブルの言葉に憤りを隠せないレイルを制したのは、一番怒りを覚えているはずのサーヴァだった。


「いいんだ、嬢ちゃん。戦わずに済むってんなら、こっちもそれでいい。それに……」


 そう言いかけ、サーヴァは口を噤んだ。そしてその先は言わず、セーブルを見据えた。


「わかった。互いに手を引き、この山とふもとの町に手を出さんと約束できんなら、それでいいぜ」

「あいにく、上からの命令があると思うと断言できねえが、今はそれでいいぜ。じゃ、さっさと撤退するか。《テレポート》!」

「うう~……、お前ら! 次会ったら、今度はどっちが強いか白黒はっきりつけるからな!! 絶対だからな!!」


 セーブルとテオドアはそれぞれそう言い残し、魔石の光に包まれて、その場から消え去った。


「……はあ……何とかしのいだ、って感じだな」

「ああ……助かったぜ、二人とも」


 張り詰めていた緊張の糸を解き、ひとつ息を吐いたジーノを、そして納得いかないという苦い顔をしつつも銃をしまうレイルを、サーヴァはがしがしと両手で撫でた。


「わっ! ちょ、子ども扱いしないでくれ……」

「おっとすまねえな」


 ジーノが少し困ったように言うとサーヴァは笑ってそう詫びた。


「まったく……それにしても無事に済んでよか……」


 安堵の言葉を口にしようとしたその瞬間、突然レイルがその場に倒れた


「レイル!? おい、レイル、しっかりしろ!!」


 慌ててジーノが抱き起こして肩を揺さぶるも、レイルはピクリとも反応しない。まるで糸の切れたマリオネットのように、意識を失い動かなくなってしまった。


「……気絶してるだけみてえだな。だけど、何でいきなりレイ嬢ちゃんが……」



『……助けて……』


 その時、ジーノとサーヴァの耳に、少女の声が聞こえてきた。

 あの日、ジーノの前に現れた白銀の髪の少女が、そこに立っていた。


「君は、あの時の……!」

『……お願い……集めて。エレメントを……エレメントを使える人を……』


 あの時のような悲しげな声で、少女は二人に懇願した。


「おい、嬢ちゃん? お前さんは何か知ってるのか?」

『……ごめんなさい……。……でも、戦争は、始まってしまった……。もう、止められない……エレメントを持つ、あなた達にしか……』

「戦争を、止める……? オレ達に、ドゥルケンハイトを止めろって言うのか?」


 ジーノの問いかけに、少女はただ「ごめんなさい」とだけ呟いた。


『ごめんなさい……まきこんでしまって……でも……もう、あなたたち、しか……』


 少女の姿が消えていく。謝罪の言葉を繰り返し、それでも、ジーノ達に願いを託した。


『おねがい……この世界を守って……』


 その言葉を最後に、少女は光となって消え去った。


「また……消えちゃった……」

「あの嬢ちゃん、一体何モンだ? 精霊ってわけじゃあなさそうだったし……明らかにわしらのエレメントやあいつらドゥルケンハイトについて知ってるっつう口ぶりだったしな」


 サーヴァの疑問に、ジーノもわからないと首を横に振った。


「う……う~ん……」


 すると、ジーノの腕の中のレイルが、ゆっくりとその目を開いた。


「あ、あれ……? アタシ、どうして……」

「レイル! 気がついたのか」


 ジーノの言葉にレイルは頷き、頭を押さえた。


「うぅ……なんか頭痛い……いきなりふわぁって意識が遠のいて……一体何だってのさ……」


 理解が追いつかないレイルの頭をジーノはそっと撫で、「大丈夫だ」と安心させるように囁いた。


「それにしたって、『戦争を止めろ』ったあ、無茶なことを要求してくるなあ、あの嬢ちゃんも。まるでよくあるおとぎ話みてえだ」


 がしがしと茶髪の頭を掻きむしり、サーヴァは呆れ半分にそう言った。


「……でもあいつら、きっとレイルを狙ってまた現れる……だったら、あいつらに勝って、オレの町の皆や山賊団の皆のように傷つく人がいなくなるなら……オレは、この力に懸けてみたい」


 ジーノはイヤリングにそっと手を当て、そう言った。


「……こいつぁ、ただの魔物退治とはわけが違えぞ? 何人いるかもわからん異世界の軍勢……いくら伝承通りの力を持っていたとしても、やりあうには相手が悪すぎるとは思うがな」

「それでも……それでも、オレに守るための力があるって言うのなら、このまま逃げたりしたくない。レイルを、皆を守りたいんだ!」


 現実的な壁を突きつけるサーヴァを、ジーノはまっすぐに見つめて言い切った。


 確かに、敵はあまりにも強大過ぎる。だが、ジーノの意志は固いと、その瞳だけでもわかった。

 その鮮烈な光を纏う瞳を見つめ、サーヴァはふっと微笑んだ。


「……わかった。仲間を助けてくれた礼だ。わしも手伝ってやるよ」

「え……!? で、でも、サーヴァにはこの山賊団が……」

「なあに、頭がちょいっと外に出たぐらいでガタガタになるような柔なやつらじゃねえよ! それに……わしの仲間に手ぇ出したお礼は、きっちり返さねえとな」


 協力の申し出に驚き目を丸くするジーノに、サーヴァはニッと笑ってそう言った。


「しかたないな~……アタシも一緒に行くよ! アンタ一度言い出したら聞かないし。それに、逃げ隠れてるより、もう二度とさらおうなんて思わないように叩きのめした方が早い気がしてきたし、ね」

「レイル……。……ああ、一緒に行こう!」

「決まりだな。じゃあさっそくで悪いが、こいつらの傷の手当てを手伝ってくれや」


 サーヴァの頼みに快くうなずき、二人は手分けして山賊達の手当てを始めた。備蓄されていた医療器具で、傷を癒す治癒魔法の閉じ込められた魔石で、それぞれの怪我を治療していった。


「……いつかはこうなるかもしれんと思ってはいたが……まさか、本当に戦争になるなんてな……」


 ぽつりと呟かれたサーヴァの言葉は、誰の耳にも届かず虚空へと溶けていった。


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