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3.襲撃リリンカール

 ヴァン・シュタイン・リッヒー17歳。

 真紅の髪が特徴的。

 ギルドに加入したのは12歳の時。

 得意な戦術は火柱で敵を貫くフレアランスで敵を一掃すること。

 メリリカ村での評判もよく、近年はクエストの失敗も0。

 討伐した魔獣の数は通算で100体程度。ギルド加入から数えると年間20体ペース

 二つ名は「漆黒の炎帝」

 一方で自己評価は低く、低い理由が英雄ジャン・ジャック・ジャンソンに比べたらまだまだだから。


「やぁロベルト、久しぶり」

 ヴァンの、ギルドでの評価が記載された報告書を、いくらかの怒気を含んで読んでいる男がいる。

 若干17歳にしてここリリンカールギルドのNo.2に登りつめた男、ロベルト・ベッカーである。

 ヴァンとは対照的に、青く重たい髪で、背中には身の丈ほどのバスタードソードを背負っている。

 彼はヴァンの報告書を片手に、当の本人に対し物凄い形相で睨み付けている。


「お前な、この世界のどこに英雄ジャンソンと比べられる冒険者がいるんだよ」


 ロベルトに悪意はなさそうだが、瞳の奥には怒りが見え隠れしている。

 ロベルトも、レベッカと同じくヴァンとは同期であり、ヴァンの同期では一番の出世頭である。


「いやまぁ、あれだよロベルト、目標は高くしないと」ヴァンが答える。


「馬鹿を言え。お前のそれは目標が高いんじゃなくて自己評価を下げたいだけだろうが。そもそもなんで俺より優秀なはずのお前がいまだに農村の冒険者なんてやってるんだよ」

 ロベルトは、怒りに任せて机の上に置いてあったダガ―3本をヴァンに投げつけたが、ヴァンはあっさりと片手で受け止めた。

「ちっ」


 ヴァンの方がロベルトより優秀である、というのはあくまでロベルトの個人的な見解のだ。

 ギルドに加入した者は、最初の半年は冒険者として生きていくための教育を受ける。

 「魔法基礎理論」「猫でもわかる薬草学」「初心者がクエストで死なないために実践すべき3つのこと」「筋トレ」等々

 その時の成績でロベルトはヴァンに一度も勝ったことがなかったので、彼としてはヴァンの方が自分よりも優秀だということらしい。

 ギルド内での評価で言えば、ロベルトは魔獣討伐のエキスパートとしてギルドのNo.2になるほどである一方で、ヴァンの成果はメリリカ村での薬草採取が主で、時折魔獣を討伐する程度なので、大した評価ではない。

 しかし、ロベルト本人からすれば、それはあくまでヴァンが真面目にやっていないだけに見えるらしく、怒りを買う原因でもある。


「と、ところでロベルト、クエスト申請の件なんだけど……」

 ヴァンはレベッカにクエスト申請の依頼を出したのだが、なぜかロベルトが首を突っ込んで来ていた。

 理由は単純で、クエスト申請は内容がどうあれギルドの認可権限のあるものが目を通すのだ。ロベルト以外にも認可権限を持つものはいるが、今回はたまたまロベルトがクエスト内容の認可の担当となっていた。


「あぁ……ドラゴンを倒せる程度の冒険者が必要なんだってな、どこぞの村がドラゴンに襲われたという報告は入ってきていない。理由を聞かせろよ」

「えぇーっとそれは……」ヴァンは助けを求める子羊のように、るーに目線を送った。


 ヴァンの目線に気づいたのかるーが答えた。

「故郷を救うのに、強い人を探しています」


「ドラゴンを倒せるくらいの実力者が必要ってのは、あんたの故郷は一体どんな状況なんだ? 」

 ロベルトは呆れ顔でるーに確認した。

「戦争中です」るーが答える。

「どこと、どこが戦争中なんだ? 」

 質問するロベルトの視線が鋭くなった。


 ここ数百年、国家間の戦争は起きていない。にもかかわらず、るーは戦争中だと答えたからだ。

 あり得るとすれば辺境の地での部族間の戦争だが、それならドラゴンを倒せるようななんて物騒な話にはならないだろう。


「それは」

 るーが答えようとしたその時、大きな破裂音のようなものと同時にギルドの窓がすべて吹き飛んだ。


「なんだ!! 」

 ロベルトは2階の吹き飛んだ窓からギルドの外に飛び出した。

 音の正体を探そうとするロベルトだったが、その正体はすぐに判明した。

 彼の目には、体長20メートルの真っ赤な巨大な物体が飛び込んできた。

 反射的にバスタードソードを構えていたロベルトだが、それが無意味であることをすぐに悟った。

 翼をもった巨大なトカゲのようなそれは、全身を鋼鉄の鱗に覆われ、口からは獄炎が見え隠れしている。

 

「ドラゴン……だと!? 」


 純正魔生成物にして、大陸最強生物が目の前にいた。明らかに幼生ではなく、成体のドラゴン。そんなものが突然街の中心部に現れたのだ、尋常ではなかった。

 ドラゴンに限らず純正魔生成物が都心を襲うことは滅多にない、なぜならば都市部は純正魔生成物にはマナの濃度が低すぎるのだ。マナの濃度は霊峰ドランブールに近ければ近いほど濃くなっているため、霊峰ドランブールに近い村であれば年に何件かドラゴン襲撃の報告はある。

 しかし、ドラゴンによる都市部襲撃なんてことは前例がなかった。


 静まり返っていた街は、刹那、住民の絶叫により混沌と化した。

 住民の絶叫は、必死に目の前の怪物を倒す手段を考えていた冒険者ロベルトを、ギルドNo.2へと引き戻した。一方で、住民と同様に明らかな非常事態に混乱しているギルド。まるで小動物の群れに肉食動物が現れたかのように、全員が慌てて逃げようとしていた。

 王国史史上初の災厄に、そこらの冒険者が平静を保っていられない。

 

「各位、住民を」


 ギルドにいた冒険者に住民の避難誘導の指示を出そうとしたロベルトだったが、極度の混乱の中、統率の取れていない烏合の衆など何の役にも立つわけがない。

 

「ヴァン、やるぞ!!」


 ただの一声だったが、ヴァンはその意図を理解した。

 ドラゴンの襲来で住民は絶叫しながら逃げまどっている、ギルドにいた冒険者も状況に大差なく、現状少なくとも冷静に動ける人間は、ヴァンとロベルトだけという状況だ、こんな状況でできることなど一つしかない。


「「倒そう」「奴の注意を」」

「「……」「……」」


 ロベルトがまるで、豆鉄砲を喰らった鳩のような顔をしているのを見て、ヴァンが思わずつぶやいた。


「あ、あれ、違った?」




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