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12.豚を探して

 ロゼの街 酒場バジリスク亭


 店内では屈強な男たちが溢れんばかりの酒の飲みあさっている。

 中には女性もちらほらと見かけられたが、その二の腕はヴァンよりも数段太く逞しい。客は皆、遺跡の発掘を生業にしているのだろうか。


 霊物学的進化をしたとは言え、生物学的にはなにひとつ変わっていないので、力勝負だけをしたらヴァンは店の中にいる誰よりも弱いだろう。もちろん身体強化の魔法を使えばどうとでもなる話ではあるのだが。


 照明はあるようだが弱弱しく、メインストリートの方が明るく見え、カーサス特有の民族音楽が店内を盛り上げていた。


 カウンターの奥には数えきれないほどの酒が並び、中にはちらほらとアルメリア王国産の酒も置いてあるようだが、ほとんどはカーサスの酒だろう。


 二十卓ほどあるテーブルはどれも埋まっており、辛うじてカウンターが空いていた。


「こんなところにお子様が何の様だい」


 店のマスターらしき男がぶっきらぼうに話しかけて来た。

 客に負けず劣らずの筋肉を搭載している。こういった店をやっているのは、元冒険者か元探検家か何かだろう。


 他の客層からして、ヴァンやるーのような客が来ることは滅多にないことが伺える。カウンターに座ると注文するためにメニューを探したが見当たらず、るーが見つけたのは壁に一文字『肉』と書いてあるだけだった。


 なんの肉がでてくるのだろうか、砂漠で出てくる肉と言えば山羊かリザードンかはたまた別の何かなのか。


 頭を抱えるヴァンをよそ眼にるーは迷うことなく肉を頼んでいた。


 るーのあまりの即答に、はじめは眉をひそめていたマスターは大声で笑いながら「あいよっ」と肉を焼き始めた。


 しばらく肉が来るのを待っていると、マスターが再び眉をひそめ始めた。

 どうやら酒も頼むのがこの店のルールらしい、酒場なのだから当たり前か。

 

 アルメリア王国には酒を飲む年齢に制限はなく、そのためヴァンがメリリカ村に居たころはよくギャランの晩酌に付き合わされたものだ。


 今はヴァンの後任のリキュリーがギャランの晩酌に付き合っているのだろうか。 ヴァンがリキュリーの酒癖がどうであったかを思い出そうとすると何故だか海馬の奥が警告を発している。思い出してはいけない過去があるようだ。


 るーはるーで酒は嗜む程度には飲めるらしい。

 王族であればそんなものだろうか、出て来たジョッキに注がれる酒を飲み干すとまた肉にかぶり付いている。


「お嬢ちゃん……よく食うなぁ」


 明らかに感心を通り越しているマスターの口調に、気づけばるーが肉の追加をしている。皿の数からして三人前はすでに平らげたようだ。


 肉の値段がどこにも書いていないが果たして大丈夫なのか、ヴァンはそうそうに財布の心配をすることとなった。


 最悪ロベルトから預かったカードを使えばギルド名義でどうにかなるが、どの道あとあと支払わなくてはいけないことに変わりはない。


 四皿目を持ってきたマスターにるーが話しかけた。


「最近すごいお宝が見つかったって聞いたんだけど、おじさん何か知ってる?」


「んあぁ?すごいお宝……遺跡でか?」


「どこで見つかったかは知らないんだけどね。とにかくすごいお宝なのよ」


「さぁなぁ、客がそんな話をしてるのも聞かないし、その噂ガセじゃねぇのか」


 (ディラック号)が奪われてから数時間、情報が出回るにはまだ早かっただろうか。


 店内にいた客にもそれとなく話を振ってみたが誰もそんな話は知らないようだ。

 また、そんな話をしている変な二人組を前にして、怪しい素振りを見せる連中も特に見当たらなかった。


 餌のまきかたが悪かったか、それとも餌が悪かったか。

 とにかく有力な情報は得られなかった。

 

 最終的には五皿を平らげながら肩を落としているるーを不憫に思ったのか、マスターが街の情報屋を何人か教えてくれた。


 店を出ると日はすでに沈み、街頭の明かりだけが街を照らしている。


 さすが砂漠の街、夜になるとかなり冷える。

 

 ヴァンがゲートを作ればリリンカールの宿に戻ることは可能であったが、ここは何かしらの情報が得られることに期待してロゼの街で宿を取ることにした。


 その後、宿を探す振りをして街の中を一通り回ってみたが、尾行されている気配はなかった。なかなか尻尾を出してくれないのか、はたまた見当違いのことをしているのかヴァンとるーはまだ判断が付かない。


「釣れなかったわねぇー犯人」

 宿に着くなりベッドに仰向けになってお手上げの姿勢でるーがこぼした。


「んー、犯人はこの街の人間じゃないのかな。とりあえず明日はどうする?酒場で教えてもらった情報屋を当たる?」


 マスターが教えてくれた情報屋は全部で三人。

 話によれば、情報が欲しかったらそれなりの金額が必要らしい。

 金で解決するのであれば楽なものだ、面倒ごとを頼まれることに比べれば。


「思わずこんなところまで来ちゃったけど、こういうのってギルドで捜索ってできないの?」


 できる出来ないで言えば、もちろんクエストを発行すれば可能である。

 ただしその場合成功報酬が必要になるうえに、捜索が開始されるのはギルドの運営の問題で早くても一週間、さらに成功するかどうかはクエストを実行する冒険者次第ということになる。国境をまたいだ捜索依頼ともなれば、成功率はことさら下がるに違いない。


「ヴァンの魔法でなんとかならないの?」


 これは何故か出来なかった、どこにあるかわからない船をワープさせるのはできないようだ。同様に犯人がどこにいるかも特定はできなかった。


 小一時間話し合った結果、翌朝情報屋を当たるということになった。




◇◆◇◆



 翌日 昼 ロゼ 宿


 朝から、昨夜酒場のマスターから教えてもらった情報屋を当たってみたが見事に全滅。

 彼らは皆、ウラジーミルの遺跡、セントアーロック遺跡、デミレミルン遺跡などなど――最近発見された旨い遺跡の情報などには詳しかったが、残念ながら(ディラック号)の情報については情報を持ち合わせていなかった。


 正確には(ディラック号)の、というよりアルメリア王国がらみの情報を持っている者が皆無だった。


 とりあえずの当てもなくなり、万事休す。二人は宿に戻り作戦会議を開くこととしたのだが、次の一手が浮かばずに沈黙が続いた。


 しばし無言で天井を見つめるヴァンとるーであったが、ふと気が付くとヴァンが目をつむり、眉間にしわを寄せ、唸り声をあげながら手は中を泳いでいた。


 新手の健康法かとるーが眺めていると、突然ヴァンが奇声を発して倒れた。


「え!?ちょっとヴァンどうしたの!?」


 卒倒したヴァンは白目を向き、仰向けで倒れている。

 

 呼吸はしているようだが呼びかけに答える様子はない。


 これはしめたと人工呼吸を試みるるーだが、息はしているのでその必要はないと踏みとどまった。


 ヴァンが卒倒した理由は分からないが、呼吸はあり脈もある。


 沈黙の末一分、るーが唇を奪うためヴァンに跨ると、ヴァンが目を覚ました。


「……何してるの?」


 舌打ちをしながら自分のベッドに戻るるー。


「人工呼吸よ――――それよりどうしたのよ突然」


「魔法で(ディラック号)が見つからないかなと思って」


「それはダメだったんじゃなかったの?」


「うん、あぁいや、前回やろうとした魔法は無条件で(ディラック号)がどこにあるかわかるって魔法で失敗したから、今回はしらみつぶしに探してみたんだけど」


「しらみつぶしに……?」


「うん、で、大体半径一キロくらいで力尽きちゃって」


 魔法による周囲の探索くらいは至って普通の魔法である、がしかし、その範囲はせいぜい周囲十メートルほどである。所謂一流であってもせいぜいが百メートルである。


 ヴァンはその十倍の一キロで力尽きたのだが、力尽きた理由は魔力不足でもなんでもなく半径一キロ内に存在するものをすべて知覚するにはヴァンの脳の処理が追いつかなかっただけである。


「でもコツは掴んだから多分次は行けるよ」


 ここで言うコツとは、単純に情報をいかに捨てるかである。

 半径一キロ内に存在するものをすべて脳内で処理しようとするからパンクするので、単純に(セバスチャン)(ディラック号)だけに反応するようにすればよいのではないかということである。


 再びヴァンが目を瞑り、周囲の探索を始める。

 今度は先ほどのように倒れる様子はないが、首が時計回りに九十度回転しだしている。傍から見るに目当てのものは見つかっていないようだ。


 今度は体まで時計回りに回り始めベッドにめり込み始めたとき。


「あっ、いた」


 ヴァンは勢いよく体を起こし壁の向こうを見つめていた。



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