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11.砂漠の街 ロゼ

 リリンカール商業区にあって一際目立つ建物が一軒、時間帯を問わず長蛇の列でリリンカールの観光案内によれば訪れた人の八割は必ずここで食事をするのだという。


 前回の滞在時には一度も訪れなかったのは、こんな場所にるーを連れてきてしまってはお金がいくらあっても足りないであろうという懸念からだったが、カールツェンからの特別報酬を受け取ったため、ここで昼食をとることとなった。


 ギルドで得られる報酬は、給料制と出来高払いのどちらかである。

 給料制は最低限が保証されている代わりに何やかんやと差っ引かれる上、毎月必ず働かなくては報酬は得られない。

 

 一方出来高払いは好きな時に好きなクエストを受けて達成しさえばよく、ギルドの中間マージンも少ないため、得られる報酬の額も多くなる。


 冒険者なんて職業を選ぶ人間で安定を求めるような者は少ないので、自然と出来高払いを選ぶものが多くヴァンもそのうちの一人である。


「本日は当店(天使の宴)へようこそお越しくださいましたリッヒー様」


 店の支配人が深々と頭を下げている。

 本来は数日前から予約をしなければいけないのだが、街を救った英雄ということで連絡を入れたその日に招待された。店側としては、英雄が食事をしたと宣伝するのが目的なのだろう。


 有名になるのも便利なものだと思う一方で、他のお客に申し訳ないと思うヴァンではあった。


 支配人のあとに続き、店の中を進んでいくと最上階の厳かな個室に案内された。 

 通常よほどのお偉いさんでなければ案内されないような場所である。


 壁にはよくわからない絵が飾られ、テーブルの上にはこれまたよく分からない芸術品が置かれている。


 席に座るや否や、るーはメニューを広げ注文をしている。


 なぜこの国の言葉を理解しているのか、どんな料理かわかっているのかと不思議に思っていたが、どうやら何も考えずに上から全部たのでいるらしい。


 どおりで支配人が不安そうな目でこちらを見ていたわけだ。


「なんでこの前はここに連れてきてくれなかったのよ」


 不満そうな彼女に対し正直に言う訳にもいかず、ヴァンは適当に答えておいた。


「それにしてもよく食べるな」


 るーが自分に比べて大食であることには一度問いただしてみたことはあるが、生体活動に必要なエネルギーがレイリー人は多いらしい。


 その説明でなんとなく納得してしまったのでそれ以上突っ込んでいないが、傍から見ると少女が成人男性数人分の食事をしているのでどこで食事をしても注目の的になっていた。そういう意味ではこういった個室はいいかもしれない。


 運ばれてくる大量の料理を前にして、少女は目をギラギラと輝かせている。

 ヴァンの好みからすると、何でも食べる女性は好みだがここまでくるとさすがにどうかと思うレベルである。


 大量の料理を平らげながら、るーが唐突に切り出した。


「さっきからセバスチャンとの通信が途絶えちゃったんだけど」


 そう言う彼女に動揺の色はさしてなく、平然と料理が消失していく。むしろヴァンの方が動揺していた。


「まぁ大丈夫だとは思うんだけど、エネルギー切れってこともないと思うし」


 セバスチャンは太陽光をエネルギー源としてその動力はさながら永久機関なのだそうだ。

 また、半径一キロメートルは索敵範囲なので、何者かに捕まった線もないはず。というのがるーの見解だった。

 とは言えどの道イザベラに(ディラック号)を見せなくてはいけないので、食事を終えた二人は支払いを済ませ取り急ぎメリリカ村の森に行くことになった。



***




 メリリカ村の森はいつもと変わらず穏やかで、耳を澄ませば小鳥のさえずりや川のせせらぎが聞こえてくる。


 記憶をたどりに(ディラック号)を探していた二人だったが異変に気付く。 探せど探せど、あるべき場所に(ディラック号)がなかった。

 セバスチャンから船を移動させたという連絡はなかった。

 

 二人がしばらくあたりを調べると、何か大きなものが引きずられた形跡を見つけた。


「これって……」

「誰かに持っていかれた?」


 るーは慌ててセバスチャンに通信を試みているようだが、やはり返事はないようだ。

 引きずられている方角は村とは正反対なので、恐らく村の人間の仕業ではないだろう。

 では誰があんなものを運び出したというのか。検討は全くつかなかった。


 セバスチャンと通信ができなくなってから、数時間が経過している。

 馬車より大きい船を運んでいるのだから、それほど遠くには行っていないはずである。

 ヴァンは空を飛び、空中から犯人を視認できないか試みたがそれらしきものは見当たらなかった。


「地道にこの跡をつけるしかないみたいね」


 るーが奥歯を噛みしめ、眉間にはしわが寄っている。

 握りしめた拳には必殺の力を感じる。


「ま、まぁ急ごう」


 ヴァンはそういうと、防御魔法はどんなものがあったかを必死になって思い出していた。





 引きずられた跡を追うこと数時間、二人は森を抜け砂漠地帯へと突入していた。

 ここは気前のいい禿でお馴染みのカーサス共和国国家元首、シンドラー・ハンメリックが治める地である。


 カーサス共和国と言えば、四国の中でも特に機械文明に秀でており、アゼリティア大陸に流通している機械の大半はカーサス共和国制だ。


 最近では機械の馬を発明したという噂が流れている。


 船を奪ったのがカーサス共和国の連中というのは納得のするところである。

 機械大好きな彼らからすれば、あの船はお宝にしか見えないだろう。


「ヴァン、この砂漠はどこまで続いてるの?」


 砂漠に着いたとたん、船を引きずっていた痕跡が消失してしまったため、今は最寄りの街まで行くことになった。

 記憶が確かであれば、ここから徒歩で一日程度の距離である。


「分かったわ、飛んでいきましょ」


 そういうと彼女はおもむろにヴァンの背中に飛びついた。

 ジャンソンと同じ力を手に入れたことをロベルトに説明した際に、禁止事項となったことがいくつかある。


 そのうちの一つが人前で空を飛ぶというものだった。


 魔法を使って空を飛ぶと言うのは、一級の魔法使いであれば可能だが、ヴァンのそれは常軌を逸していたため禁止事項となった。

 

 しかしろくな準備もなく、砂漠を一日あるくというのも非現実的なので、見つからなければいいだろうということで、最寄りの街の近くまでは飛んでいきそこからは歩いていくということで落ち着いた。


 人目につかない高度まで飛び上がると、ヴァンは最寄りの街を目指した。

 砂漠を飛ぶこと小一時間、地平線の彼方にようやく街が見えて来た。


 街の名前は確かロゼ。砂漠に埋没している地下遺跡の発掘が目的でできた街だ。

 砂漠の下にはいくつかの遺跡が眠っており、もとはその遺跡で発見された機械売りさばくのが、カーサス共和国の主な産業だったのだが、いつからかそれらの機械を自前で作るようになっていた。


 なぜこんな砂漠の下に遺跡が眠っているのかというのは、人類史上でも指折りの謎である。


 曰く、過去の古代文明の名残である。

 曰く、栄えた古代文明が神の怒りを買って砂漠の下に封印された。


 などなど、オカルトマニアにはたまらないものとなっている。


 二人は砂漠から一キロほど離れた岩陰にワープすると、そこから歩いて街に向かった。

 街の大きさはリリンカールの半分程度だが、その熱気はリリンカールの比ではなかった。屈強な男たちが所せましと発掘品を露天商で売りさばいている。


 暑っ苦しいところね、とるーが言ったがそれは気温のことではないのだろう。


 情報を集めるため、二人はひとまず酒場を探した。

 情報収集と言えば酒場だというるーの意見からだったが、ヴァンとしては納得するようなしないようなである。

 アルメリア王国であればギルドを頼るのが常識だが、ここカーサス共和国ではそういう訳にも行かない。一応ギルドはあるのだがまともに機能してないのである。

 街のメインストリートは、炎でもなければ魔法でもないもので照らされ、夕刻にも関わらず明るく煌びやかであった。


 酒場はすぐに見つかった。

 他のレンガの建物と違い、木造で一際大きなその建物からは、男たちの騒がしい声が聞こえ、美味しそうな匂いがしている。


「それじゃ行きましょ」


 るーの瞳に宿っていた怒りは消え去っている。

 ひとまず騒ぎになることはないと安堵する一方で、財布の心配をするヴァンだった。


 

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