第二章 12話 防衛 (1/26 改)
マリーの安全を確保する為の話し合いをしています
第二章 12話 防衛
私達は疲れ果てていた。それぞれ各自の部屋に帰ってまずはお風呂に入ってさっぱりして 疲れを少しでも取ろうって事になり、その後食堂で軽い食事をしながらさっきの襲撃を話す事に為り、皆はそれぞれの部屋へとゆっくりと戻って行った。
「マリー様、お風呂の用意を直ぐに致しますので。」
「大丈夫よ、アルベルト、あなたも疲れているでしょう。ああ、そうかサリーはお休みを取って実家に帰っているんだったわね。」
ふと、今日はサリーがお休みを取っていた事を思い出した。
それと共にサリーが今日の襲撃に巻き込まれ無くて良かったとの安心感が湧いて来た。
「この程度の疲れは大丈夫ですよ、直ぐに支度致します。」
アルベルトも疲れているだろうに、 少し目が疲れた感じがするのに、私の為に色々としてくれる心遣いがとても嬉しくって、素直にお礼を述べていた。
「ありがとう、アルベルト。」
「ゆっくりとお風呂に浸かって疲れをお取りください。」
「ありがとう。」
私を気遣ってくれているのが言葉の端々から伝わってきて、アルベルトに心配を掛けないようにしないと、と少しだけ気持ちが上向いた。
私はお風呂に浸かってホッと一息つきながらハイエルン博士の事を考えて居た。
なぜ彼はマーラの側に付いたのか?そのきっかけは?なぜ私を襲うのか?
現当主はお父様だわ、私を殺せば後継ぎが居なく為って混乱するから?でもそれは可笑しい、お父様もお母様もまだ若いわ、だったら又子供が出来る事は解っているはず。
でも、そうすると又10年の遅れが出来る、その10年の遅れそのものが狙いなの?でも、今まで争って来ていた歴史の中での10年何て一瞬でしか無いはずだわ、それにマーラには時間的感覚が薄いという事も聞いている。次の子供ができる前にお父様を殺せば全て計画通りに為る。それが狙い?
グルグルと色んな考えが頭の中を駆け巡って、考えがまとまらないままお風呂に浸かっていた。
いつの間にか時間が過ぎたのだろう、アルベルトの声が聞こえて来て、ふと我に帰った。
「マリー様、そろそろ夕食の準備が出来ます。」
「分った、すぐ行くわ、アルベルト。」
一人で考えるより皆の意見を聞いた方が良いのは確かなので、グルグルと考える事をやめ、気持ちを切り替えるべくお風呂から上がり、急いで支度をして食堂の方に向かった。
食堂には皆が集まっていた。近衛の皆も一緒に食事をする事に為っていたので、何時もよりにぎやかだったが、何だか変な緊張感と疲労が漂っていた。
十分な食事を取って皆が少し落ち着いた頃を見計らって、シモンが静かに語りだした。
「今日の出来事ですが、実は前回の襲撃と今回の襲撃は実は繋がっているようで、繋がっていないと私は考えて居ます。」
「どういう事、シモン?」
「今回の襲撃はハイエルン博士が前回の襲撃の置き土産を利用して計画を建てた。前回の時に仕掛けた置き土産の事を聞き、ハイエルン博士は独断でこの計画を立てた。そう、私は思っています。但し今回の襲撃はハイエルン博士個人の実験の為で有って、予めマーラが計画していた事では無いのは明白です。」
そう言ってシモンは皆を見回した。
私はなぜシモンがここまで明確にマーラの計画では無く、ハイエルン博士の個人的な実験だと言い切れるのか、その点が理解できなかった。
「置き土産は、あの高台に有った入り口を開けるカギですか?シモンさん。」
「そうだと私は思う、ユーリィ、君も気が付いていたか。」
「ええ、あの程度の魔力しか持って入ない者がなぜあのようなドアを開ける事が出来るのか、それを考えていたんです。そして、その結論に行き着きました。あれがハイエルン博士が研究していた物ではないかと。
但し僕はシモンさんの意見は少し違うと思います。僕はあの置き土産はわざとハイエルン博士に使わせる為に置いていったんだと思っています。そして、置き土産は一つだけでは無いのではないか? と僕は危惧しています。」
ユーリィは一旦言葉を切って皆を確認するように見回し、又言葉を続けた。
「ですが、あの様な形で隠されているとなると、僕達では探知不可能だと思います。多分、何らかの発動条件が有るはずですが、こればっかりは推測だけで見つける事は無理だと思います。
事実、僕たちはあのカギを見つける事が出来ませんでしたし。」
ユーリィは考え込むように目を閉じた。
「そうだね、ユーリィ君。で、君は今後をどのように読んでいる?」
彼ら二人の論議の形をした会話で私達に向けての説明が始まった。
「こうなって来ると、防衛の底上げが大事だと思いますが、相手の出方がわからい以上、対処法に為って来るので、今後どのような襲撃が有るにしろマリーの安全の確保を最優先事項にするべきです。人数的には今の100倍は最低でも必要かと思います。」
ユーリィのその提案に驚き、私は思わず声を上げて抗議をした。
「ちょっと待ってユーリィ、それは大げさじゃ無いの?」
「これでも少な目に見積もってるよマリー。君も見ただろう、今後もあの人数以上で来られると思った方が良いよ。それに、君には本来中隊クラスの護衛が付いておかしく無いんだよ。」
ユーリィは真剣な目を私に向けて来たのが、私には苦しかった。
現実として、今の12名でさえ 私には過剰だと思えるのに、ユーリィが言う100倍とか現実的では無いような気がして。 私は思わず目をそらしてうつむいてしまった。
「ユーリィ君の意見は解った。マリー様の意向を考えながら今後の事を組み建てて行こう。」
「マックス、君の意見は?」
ユーリィはシモンの意見に不満そうで、同意してくれそうな者を探す感じで質問した。
「私もユーリィの意見に賛成です。今後、再度この様な襲撃が有るとしたら中隊どころか一個大隊でも必要な位です。まあ、そうなると近衛では無く為ってしまいますけどね。」
マックスの意見が私の耳にも届いたが、それは私の心を重くするだけだった。
「私は近衛の人数はこのままで行こうと思っている。」
そう言ったシモンの言葉を聞いてマックスが立ちあがって抗議しようとしたが、シモンが手を上げてそれを静止した。そして周りを見まわし、一息をついてから話しだした。
「但し、先ほど常駐の軍隊の依頼をオーディン様に打診している。その規模は一個大隊だ。隊長はフェンデル大佐だと、オーディン様から既に返事はもらっている。」
「フェンデル大佐が常駐して下さるのですか!?それは凄い。。。。。。。」
マックスは憧れの眼差しを浮かべて納得したが、 私はフェンデル大佐を知らなかったので、
マックスが憧れて、シモンが認めている優秀な人なんだろうと思っていた。
「まずは先兵として5個中隊を率いてフェンデル大佐が明日にはこちらに着く予定だ。」
「それは心強いです。安心いたしました。では、私はフェンデル大佐の指揮下に入りますので?」
マックスは本当に安心した様な顔をしているのが、はっきりと分かった。その隣にいるリンやユーリィでさえ、安心感を浮かび上がらせている。 フェンデル大佐ってそこまで皆に信頼されている。
どんな人なのだろうかと興味が沸いて来た。
「いや、マックス。近衛はあくまでも独立した部隊として、マリー様の護衛に当たって欲しい。
但し今後はアルベルトが直接の上司に為る、私はフェンデル大佐と君とのつなぎ役として動く。それからユーリィ君、君は今後私の軍事面での補佐役として動いて欲しい。軍事の作戦本部を正式にこのサマーハウスに置くことにする。アリエルはフェンデル大佐の部屋の用意を頼む。」
「解りました。」
私が不思議そうな顔をしているとマックスがフェンデル大佐について教えてくれた。
「フェンデル大佐は軍事行動面において天才的な才能を持って入る。将来オーディン様の左手に為るだろうと目されてる方です。」
「そんな凄い人が来るのね。」
「ええ、とても心強いです。」
「これで戦略面でユーリィ君が担当し戦術面はフェンデル大佐が請け負うことで、ここの防衛は万全に近い物と為りますね。」
それだけの事を聞いても、私は他人事の様にしか捉えられなかった。只、凄い人が来るんだという認識しか私の中に生まれて来ないからだろうが、それが私の為なんだという事を解ってはいたのだけれど。
「ねぇ、シモン。なぜこうも執拗に私が狙われるの?私がマニングハム家の令嬢だから?それだけでは無いような気がするんだけど。。。。。」
私は先ほどお風呂に浸かりながら考えて居たことを口にして、皆の意見を聞いてみた。
「マリー様はどう思われているのですか?」
「私が死ねば、私には兄弟/姉妹がい無いわ。しばらくの内は混乱すると思うけど、お父様が健在なら問題は無いはず。その上、両親は二人ともまだ若いから子供が出来るのは間違い無いはずよ。だったら、私を殺して、次はお父様を狙うの?」
皆は私の話を黙って聞いてくれていた。
「良くわからないわ、私を殺す必要が有る事は解るわ、マニングハム家の跡取りとして。でも、だったらお父様を先に狙う方が混乱は大きいはずだわ、それなのになぜ私なの? 解らないわ。」
私は正直に自分の考えて居る事を皆に話、その上で皆の意見を聞きたかった。
「マリー様はどこまでマニングハム家の事を勉強されていますか?」
「マニングハム家の歴史とその追ってきた破滅を防ぐ為に存在する事は解っているわ。マーラとの戦いの歴史や歴代の当主たちの特殊な力、そして世界に及ぼした力も。そして、マニングハム家に伝わる数々の伝説も。」
私は学校の授業の中で習っていた事や、読んだ本の内容を思い出していた。
「その中で気が付かれませんでしたか?歴代の当主たちの家系の事で。」
家系? そう言えば。。。。。。一度家系図を見た時に思った事だった。
「マニングハム家には多数の子供が生まれる事が無かったって事?」
「そうです。マニングハム家は必ず一人の子供しか生まれません。それが意図したことなのかどうかは私共も知りませんが。
そして、代々の当主たちも必ず暗殺や襲撃に会います。ですがご令嬢や、ご子息が暗殺や襲撃によって亡くなった事は歴史上一度も有りません。しかし、当主が命を落とされた事は幾度か有ります。それは仕方の無い事では有るのですが。その暗殺や襲撃がマーラからだけでも無い事は周知の事です。いつの世も権力志向の強い人間は居るので。」
シモンはマニングハム家の歴史の史実のあまり注目されてい無い点を私に提示していた。
マニングハム家の後継ぎは必ず一人しか生まれない、何故なのか?
暗殺や襲撃事件は歴史上多々あれど、なぜ跡取りが命を落とす事が一度もないのは何故か?
当主の暗殺の成功された事件を詳細に検討しても、何故それが今まで防げたのに、突然防げなかったのかその理由が数点あれども、決定的な事では無い事などなど、上げれば切りが無いらしい。
数々の疑問とそれを解き明かそうと色々な研究者達が書物を紐解いているが、その理由は今だにわからないとの事だった。
それを私は重く受け止め、自分の中に留めて後で検証してみようと思い、静かにうなずいた。
「混乱だけを目的として私を狙っているのか?それとも別の意味をもって私を襲っているのか?これがまだハッキリしてい無いような事をユーリィは言っていたよね。その辺の結論は出たの?」
私はもう一つの疑問を投げかけてみた。
「まだだよ、マリー。今回の襲撃にしろ、前回の襲撃にしろ、実験的な要素が多くて目的がその実験じゃないかと思えるほどでは有るんだ。只、マリーを執拗に狙って要る目的はハッキリしている。マニングハム家の混乱だ。」
まあ、多分マーラは女性当主のあの伝説を確かめに来たんだろうが、その点はまだ話すべきでは無いし、そんな事をシモン様が許すはずもないだろうしね。。。。。。。
「別に私達はそんなに混乱しているように見えないから、その目的は達成していないと思うし、マーラがその程度の事でここまでの事をするかしら?」
「マーラ襲撃が大げさな事が今回にしろ、前回にしろ異常だっと思う。だから余計に意図が読みにくい面もあるんだ。」
ユーリィは少し考えながら私を見ている。
「それは、この学園全体をターゲットにしている、と言う可能性を示していない?」
「その面も考慮したから、一個大隊に来て頂く事に為っているのですよ、マリー様。」
シモンが私の考えを補足するように答えてくれた。
「それで、足りるのシモン?この広大な敷地に居る全員よ。」
そう、もしもこの学園がターゲットなら対象に為っている人数は莫大に為る。
一見規模的には小さな学園だが、幼稚園から大学院まで全寮制、その上職員の家族や警備兵の家族を含めれば、小さな町の規模に匹敵する。
「マリー、この学園に居る職員を含めて全員が戦闘訓練を受けて居る事を忘れては行け無いよ。」
ユーリィも又私の考えの補足をして来てくれた。
「それでも、小さな子供も居るのよ。」
「大丈夫ですよ、彼らが居る家族用の場所や小学生の校舎には避難場所が確保されていますので。」
アリエルが私の心配を取り除こうとしてくれて居るのが伝わってくる言葉だった。
「今はマリー、まずは自分の安全を第一に考えてくれないか?マーラの狙いはあくまでも君だと僕は思っているし。」
「慎」
私は慎の言葉に返す言葉が見つからなかった。私は慎の名前を言うことだけしか出来無かったのが、少し悔しかった。
「今日のお話はここまでにしておきましょう、マリー様。皆様もお疲れの様ですし。お話の続きは明日、フェンデル大佐が着任された時に致しましょう。」
「そうね、アルベルト。その方がいいよね。私も疲れたわ。」
「では、明日の朝もう一度皆さんに集まって頂いて今後の方針を固めて行きましょう。マックス、この館の警備を任せた。」
「もちろん、万全に手配致します。」
「じゃあ、又明日の朝ね。」
皆はそれぞれの部屋に帰っていった。
私も自分のベッドにもぐりこんで、直ぐに眠りについた。自分が思っている以上に疲れていたようだった。
改 としていますが 内容は変わっていません。只、会話を少し変えた程度です。