第一章 1話 子供時代 & 2話 父の話 (12/23/16改)
この物語は今の私たちにとても近い世界での物語である。
第一章 第一章始まる変動
1話 子供時代
私は夢をいつも見ている それは平凡で そしてとても儚かった夢
私は夢をいつも見ていた それは当たり前の様でいて 手の届く事の叶わぬ夢
私は夢を見ていたかった 叶うと信じていたかった いつまでも手の届く事の無い夢
何も知らなかった子供時代。私はごく普通のどこにでもいる普通の子供だと思っていた。
私の記憶は三歳ごろから有る、それは結構鮮明で色々な事を憶えている。
そして、その記憶の中にはいつも母と幼馴染の槙がいた。
そして、それは今も変わりない。
母はとても厳しい反面、とても家庭的な人で、いつも笑顔を絶やすこと無くいつも前向きに生きている、そんな姿勢をいつも母から教えられていた。
私の生活は少し普通の人達とは違う生活をしている様なのは感じでいたのだったが、それを友人に話す事を硬く母に止められてた。
それだけは毎日の生活の中で本当に言っては行け無い事なのだと、何故か小さいながらも感じていたのは事実で、それを私は当たり前の様に受け入れて過ごしていた。
小学校は地元の小学校に通っていた。山に囲まれた片田舎ののんびりとした小学校で、私は小学校にいる時だけはのびのびとしていられて、あの時が一番楽しい時間だったのを今も覚えている。
毎日学校に行くのが楽しくて、学校でクラスメートと校庭を走り回ったり、かくれんぼしたり、無邪気に遊べていたし、皆と学ぶ普通の授業も楽しかったが、特に図画工作と家庭科、音楽、この三つの授業の時間が私は大好きだった。
父が他国の人なので私の髪は明るくカールが下の方で掛かっていて、目も明るい色で肌が色白だったが、容姿のせいでいじめられる事も無く、本当に田舎の学校で先生達もおおらかな人が多かったのか、のんびりと楽しい学校生活を過ごせていた。活発に良く動く子だったので髪はいつも肩より少し上で切り揃えていて、学校では何時も元気に走り回っていた。
家はこの辺りの旧家らしく大きくて古い家で、いつも母と祖母が家に居た。執事が居て、家政婦も何人かおり、食事、掃除や庭の手入れ、車の運転や雑務を担当して いる何人かの人達が常に居たが、 父は海外での仕事が多い為に会えても年に一度、酷い時は私が眠っているうちに来て、又直ぐに翌朝早く出て行くので、その父の顔 さえ写真で覚えた程私が父と会う事は稀だった。
だけど、家はいつも笑顔に包まれていて、使用人たちもいつも笑顔で対応してくれていたので、父が居なくて寂しいと思う事は殆ど無かった。
只、私の毎日は酷く忙しい毎日で、小学校に居る時だけが私の自由な時間で、のびのびと私らしく出来た。私にとっての学校は、大切な自由な時間で宝石の様に輝く幸せな時間なのだ。
毎日学校から帰ると執事、家政婦や運転手などが私の家庭教師に変わり、英語はもちろん、経済学、政治学、帝王学、心理学とありとあらゆる教科を教えられた。英語はもちろん、時にはフランス語、スペイン語、ラテン語等の語学も入りその多岐にわたる勉強の意味も解らないまま、その勉強を慎と一緒に毎日いそしんでいた。
普通は執事はともかく家政婦や運転手などが、ラテン語やスペイン語、政治学とかを教える事は出来ないと気が付くのはずっと後の事だったが、その当時は疑問にも思わないでいた。
そして、勉強は小さな私にはとても苦痛だったけど、確かに勉強は楽しい事も有ったし、興味を持って積極的に勉強をする時も有ったが、やはり遊びたいさかりの私にとっての勉強は苦痛の方が多かった。
その勉学について母に聞いた事が有る。なぜ私はこんなに勉強しなくちゃならないのか、他の子の様にお外で遊びたいと泣いた事も有る。だけど母はガンとして私の為だけとしか話さなかった。
只一度、父が帰って来た晩に父と話している母が泣いている姿を見たのを鮮明に覚えている。
又私が泣いて勉強をするのが嫌だと泣いていた日だった。
その母の泣いている姿が私の胸に焼き付いて、母を泣かせない様にしないと行けない、と幼いながらも心に強く思い、それ以降は母の前で泣くのをやめた。
只、毎日の忙しい勉強の日々の中でいつも隣にいつも居た二つ年上の慎が、私の心の安らぎだった。慎がいるから勉強も出来たし、武術とかも頑張れた。 慎だけはいつも私の横にいて、いつも私の話を聞いてくれたし、母に聞かれるのが嫌でコッソリ泣いていた時もいつのまにか慎はそっと傍に来て私が泣き止むまで抱きしめてくれていた。
慎は勉強が終わった後の息抜きで、いつも私が好きなゲームや遊びで気を紛らわしてくれていた。
慎はわが家の執事の息子で離れに住んで居たので、いつも食事などを一緒にしていた。
だから、いつも慎が傍に居るのが当たり前だと私は思っていた。そして今もそれは変わらない。
そんな忙しい毎日が過ぎて行く中で、ついさっき帰って来た父が突然私を呼び出して来た。
父と二人だけで面とむかってこうして座って話をするのは初めてだったので、母が居なく私一人だった事を酷くおびえていたのをはっきりと憶えている。
父は小学校5年生に為ったばかりの娘の顔をじっと見つめて話を始めた。
第一章 2話 父の話
小学校5年生に為ったばかりの頃に父は突然家に帰って来た。私が10歳になって丁度一か月後の事だった。
父は私を呼び出すと、私を広い応接間で待っていた。
私は応接間が苦手だった、変に広いし大層仰々しいソファーやコーヒーテーブルが置かれ、馬のブロンズ像や古伊万里の大きな皿が飾られていて、子供には大変に居心地の悪い部屋だった。
そんな部屋に行くのも父に会うのも気が重く、進まない足をノロノロと運んで応接間へと向かっていった。応接間の前では見知らぬきれいな男の人が応接間の前で立っており、少し気後れすると、中に居る父に応接間に私が来たことを知らせ、ドアを開けてくれた。
毛足の長い絨毯に足を取られそうになりながら、こわごわと足を進め応接間に足を踏み入れると、窓際のソファーに越し掛けた父の姿が目に入り足が止まってしまった。
「やあ、マリー来たね、こっちに越し掛けなさい。」
そう私に呼びかけると、向かい側のソファーを手で指し示した。
私は又ゆっくりとソファーに歩み寄りそこへ腰かけ、緊張した面持ちで父と向かい合った。
「ひと月ほど遅くなったが、マリー10歳のお誕生日おめでとう。これは君へのプレゼントだ。」
そう言って渡されたのは一枚のカードだった。真っ白なカードでそこにはユ ニコーンと獅子が描かれて、その周りには茨の紋様が描かれており、下には私の名前と思われる物が書かれていた。私の名前? Marietta. M. Manningham と書かれていた。
「私の名前?」
「そうだ、君の名前だマリー。」
「でも、私の名前は真理恵よ、樫原真理恵」
「そう、それは君の日本での通名だ。
もう、君は10歳になった。そろそろ自分の事を知っても良い時だと思うので、やっと時間を取って来た。これから聞く事を良く覚えておきなさい。私がこれから話す事は君の将来にも大変な影響を及ぼすだけでは無く、世界中の経済や政治を動かす事。それを憶えておくように。」
そこからの父の話は私の生活を一変させるものだった。
マニングハム家はいつも狙われて居て大変に危ない事、その為に私と母が世間から隠されて居た事、より安全を確保する為にこの周辺一帯の土地を買い取り母の家族と私の安全を確保する為だけに、この家を改造している事、私の勉学の 為にこの家に居る者は全てマニングハム家の執事やら秘書だという事、父の家の事、世間一般的に知られているお金持ちと言われる種類の家系とは一線を引く名家で有 る事、但しそれは知られてはいない事、又知られる訳にはいかない事。マニングハム家の事を知っている人は少ない事。私は普通の人達の前では橿原真理恵と名乗る事。
そして私に渡したカードが表す権力を、そしてそのカードが持つ意味を。
私が将来その家名を引継ぎ、その運営をして行かなくては行け無い事。私が10歳に為ったのでイングランドにある全寮制の寄宿学校に入るように言い残して話は終わった。
「私 イングランドの学校に行くの?慎は?」
「それはお前が決めなさい。それがお前の最初の仕事だ。」
「私の仕事? なぜそれが仕事なの?」
「これから君はマニングハム家の令嬢として、様々な事を決めて行動していかなくてはならない。そして神塚慎くんは君の秘書として育てられているが、まだ経験が浅く 秘書としては第三室に登録されているだけだ。それでも君が望むならそれを決めれば良い、それが君の最初の判断だ。但し君の第一秘書としてシモンを付ける。
シモン、入ってこい。私の第二秘書をしていたシモン・マクガーデンだ。これからは君の第一秘書として君の為だけに動く。」
父に呼ばれて入ってきたのはこの部屋のドアを開けてくれた人で、見事な金髪でアイスブルーの瞳を持つ、しなやかな感じのする人。とても神秘的な人だなぁ、と幼い心ながら思っていた。
「私の秘書?」
「そうだ、君の秘書だ。今後は彼が全ての手配をし、君のサポートをして面倒をみる。君の周辺の環境を整える手配は全てシモンに任せて有るので、今後は彼にすべて聞きなさい。」
「お母様は?」
「夏江はこのままここで暮らして行く。イングランドにはお前一人で行くのだ。お前の母をイングランドには連れて行くことは禁止する。」
「なぜ?私まだ10歳よ。」
「お前はこれから自立していかなくてはならない、その為に必要な過程だ。」
そんな事を言われても納得できるはずもなかったが、父に嫌だとも言えなかったので黙っていたら、それが承諾した形になってしまった。それが嫌で仕方が無かったが、聞いておく事は聞かなくてはと、気力を振り絞って父に質問をした。
「私、いつイングランドの学校に行かなくては行け無いの?」
「それは自分で決めなさい。但し9月に学校が始まるのでそれまでは行く様に。」
「シモン、では今後は全て君に任せたぞ。進行状態や状況、マリーの事は全てマルカムに連絡しておくように。」
「はい ダグラス様。」
「ではマリー、君が15歳に為ったら又話をしよう。」
「えっ!? お父様とは15歳に為るまで会えないの?」
「そうだ、そして君は母とも会うことは出来無い。では次に会うのを楽しみにしているよ」
「そんな。。。。。」
そう言い残して、父は振り返る事も無くゆっくりと部屋を出ていった。
私は何も言うことが出来無いまま唖然と父が出て行くのを見ていた。
そうしていると そっと近寄ってくる影が目に入った。
「Lady Marietta」
「シモン」
「明日のご予定ですが、まず 大体のマリエッタ様の学力を存じてはおりますが、まずはマリエッタ様の学力を確認させて頂きたく」
「私の学力? イングランドの学校に入れるかどうかを試すの?」
「いえ、マリエッタ様が入れない事は有りません。只、どの程度のカリキュラムを組めば良いのかの確認の為です。 マリエッタ様は15歳には大学院までの全ての学科を終了し、イングランドでの終了仮定の資格を全て取って頂くためのカリキュラムの作成の為です。」
15歳までに大学院を卒業、そんな突飛も無い話を信じられる訳でも無く、父に言われた母と15歳に為るまで会えないと言われた事とダブルでショックで、只々呆然とシモンの話を聞いていた。そして私は思いだしたように名前の事を言った。
「わかったわ。それからシモン、私の事はマリーと呼んで。マリエッタって私の名前じゃ無い感じだから嫌なの。。。。。。。」
半分以上無意識の内にそう言っていた。そう、私の名前は真理恵なのMariettaでは無いわ。
それが、私のシモンとの初めての対面だった。だが、私は母に当分会えない悲しい気持ちと新しい世界への不安、あきらめた気分とのごちゃ混ぜな感情の中、それ以上何も言えずに只そこに呆然と座っていた。
そしてそれが私と父との最後で、そして最初の日本でのまともな会話だった。
一週間に一回のUPを目指しています。暖かく見守ってくださったらウレシイです。