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ラプラスの悪魔が囁く  作者: なつ
第五章 誰の手の平の上にあるのか
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  5


「ねえねえねぇ、雅さま、どうだった? 大丈夫そうだった?」

 宿舎に戻り、入口のロビーを甲斐雪人が歩いていると、それを見つけた夢宮さやかが駆け寄ってくる。

「ああん、もう。わたしもいてもたってもいられないのに、どうやったら外出許可が下りるわけ? やきもきったらないわ」

 答える隙を与えず夢宮は甲斐の腕を乱暴にゆする。

「ううん、それよりも、意識あった? 大丈夫だった? もうわたし、心労でやせちゃったくらいなんだから。わたしだけじゃないし、この学園のほとんどがきっともう、お見舞いに行きたくてどうしようもないはずなのに。もう、雪くんだけが選ばれた、一種のヒーローなのよ」

 だんだんとペースが速くなり、そこで絶頂を迎えたのか、ピタッと夢宮は言葉を止める。一度顔をそむけてから、甲斐を覗き込むように見上げる。

「で? どうなの?」

「気が済んだか?」

 後ろから神田隆志が、夢宮の肩を叩く。けれど、夢宮はほとんど動かない。そろそろ答えないといけないようだ。

「うん、というか、元気だった。すぐにでも学園に戻ってくるって」

「ほんとー? よかったぁ」

 安堵したのか、夢宮の顔がきゅぅっと小さくなる。それに合わせて耳の横だけ長い髪が、ぴくんと跳ねた。それから彼女は実際飛びあがってから、走り出す。ちょっとみんなに知らせてくると、宿舎の出口でこちらを振り返って叫ぶ。

「ほんと、慌ただしいね、いつも」

「まぁでも、いいんじゃないか。俺としては、あの調子のがいいけど、最近ずっとふさぎこんでたからね」

 神田隆志と一緒に夢宮を見送ってから、そろって入り口近くの椅子に座る。

「それよりも神田、僕に嘘を教えただろ」

「嘘? 何のこと?」

「黒服集団」

 そこで言葉を止めるは、神田は何を言われているのか分かっていないようだ。仕方なく甲斐は続きを説明する。

「学園から抜け出そうとすると、黒服集団に捕まるって」

「やったのか?」

「やってないけど。だけど、そんなことはしないって、雅さんが言ってたぞ」

「……本当にか?」

「警察も、それはあり得ない、みたいなこと言ってたし、何だってあんな大胆な嘘をつくんだよ。すっかり信じちまったぞ」

「いや、あれだ。俺としては嘘をついたつもりはなかったんだが、そうか。黒服集団は普通現れないのか」

「なんだよ、その言い方」

「実際、俺は抜け出そうとしたんだ。そんとき黒い服を着た連中に両脇を突然掴まれて、そのまま、学園に文字通り引っ張り戻されたんだ」

「だから、なんだよ、その言い草は」

「つまり、だ。あれは学園側のセキュリティーではなかったってことだ」

 そこで神田はため息をつく。

「くそっ。俺に自由はないのか、て話だ。うちのじいちゃんが、過去に大学の教授を務めてたことがあって、それで俺は幼いころから詰め込み教育なわけ。あいつらは、うちのもんだったってことだよ。うん、本当、嘘つくつもりはなかったんだ、悪かったな」

 純正芹沢学園に通っているものの多くは、お坊ちゃま、お嬢さまの集まりなのだと、甲斐やようやく思い出す。どうやらそれも楽ではないようだ。

「全然怒るようなことじゃないけどな」

「俺からも質問をいいか?」

 何、と甲斐は聞く。

「芹沢さん、本当に元気だったのか?」

「ああ、そうだよ」

「そんな嘘はつかなくていいと思うんだけどな。それが分かったら、夢宮のテンションがまた下がってしまう」

「嘘じゃないよ。すぐに戻ってくるって言ってたし」

「本当か?」

「本当だ」

「それって、おかしくないか?」

「何が?」

「……甲斐だって、最初は殺されたって、思ったんだろ。実は死んでなくてよかった、で終わるならともかく。左胸を刺されたのは事実なんだろ。池にも赤くなるほど血が溜まってたって言うし」

「……運ばれて行く時、まだ意識があったって……」

「そんなことあり得るのか?」

「急所を、外れていたなら」

「外れていたとしても同じだよ。元気だったなんて、あり得ない。まだ全然日にちが経ってないってのにさ」

 甲斐は立ち上がる。

 体中に電気が走る。

 確かに、その通りだ。

 そして、それはどういう意味だ?

 電気が、体中を駆け巡り、激しく脳を叩く。

 神田がまだ何かを言っているようだが、情報として入ってこない。

 どういうことだ?

 落ち着け。

 ももは知っているのか?

 知らないはずがない。

 そして、そこから導きだされる結論は?



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