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ラプラスの悪魔が囁く  作者: なつ
第五章 誰の手の平の上にあるのか
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 手紙には続きがあった。

「そうだとすると、どうしても解せない点が残る。そして、その懸念の通り、香川は、自分が犯人ではないと主張している」

 その文章に芹沢雅は戦慄を覚える。

「まず第一に、香川がどうしてあの学園集会のときに、雅お姉さまがこの図書棟に来ていることを知ったのか。偶然に知りうるはずがない。たとえ体育館から外を見ていたとしても、分かるのは雅お姉さまが図書棟のある側の並木道から現れる、ということだけだ。そしてそちらには図書棟以外にも多くの建物がある。小等部や中等部はもちろんであるし、雅お姉さまの住んでいる家もある。そして、その学園集会の間に、高等部の教師である香川が図書棟を見張っているはずがない。

 誰かが教えたのか。

 誰かとは誰か。

 いずれの誰であれ、その時間に雅お姉さまが図書棟に行っていることを知る人はいないであろうし、また何らかの方法で知ったとしても、それを香川に教える必要はない。

 そして第二に、こちらのほうがより重要であり、この疑問を解決することで、先の疑問も自然と氷解するのだが。それはすなわち、なぜ雅お姉さまが殺されていないのか、という疑問だ。

 あり得ない。

 こんな表現を用いるのはひどくわたしとしては鬱な気持ちになるのだが、女神像に縛られた状態で、左胸をナイフで刺されている雅お姉さまが、奇跡的に死なずに済む可能性など、はたしてあり得るのか。

 もう一度書く。あり得ない。

 ナイフから滴る血が、あの女神像の周りにある池を赤く染めるほどの血を流しているのだぞ。

 そのうえ、すでに意識を回復し、すぐにでも学園に戻ってこられるという。

 どこまでの茶番だ?」

 芹沢の血の気がすうっと引く。香川定吉が捕まった時点で、すべてが終わるものだと思っていたし、警察でさえ、そう判断している。だというのに、篠塚桃花は、香川が犯人ではないと疑っている。けれど、そこで止めることはできない。まだ先にも文章が書かれてあるのだから。芹沢は震える手で便せんをめくり、次の文に視線を落とす。

「では、香川が本当に犯人ではないと仮定しよう。もちろんここでいう犯人とは、雅お姉さまを刺した犯人のことだ。香川が雅お姉さまを脅し、そして過去には純清香を時計塔に監禁していたことは、すでに香川も自供しているところだからな。問題は、最後のシーンだけだ。あれだけは、香川のやったことではない、そう仮定すると、先の二つの疑問は、すべて同一のことによって解決する。

 それは、雅お姉さま。あなたなら、誰が刺したのか知っているのですから。刺した相手が香川ではないにも関わらず、それを警察に知らせないということが何を意味するのか、よくお分かりでしょう。

 犯人はいない。あるいは、雅お姉さま自身か。否、どちらも正確ではないな。雅お姉さまが自らの力のみであの状態にあって胸にナイフが刺さっているかのように偽装して、血の池を作ることなどできるはずあるまい。この狂言殺人には、協力者がいるはずだ。

 最初の疑問の答えを得た。その協力者を通じて、香川に、それとなく伝えさせた。学園集会の間に雅お姉さまが図書棟に行っていると。

 第二の疑問の答えも、すでに得ている。つまり殺人自体が、嘘だったのだからな。雅お姉さまが死ぬはずがない。

 仮定に仮定を重ねるが、誰が共犯者であるか。

 一つ、雅お姉さまと関係があり、おそらくは対等な立場にある。

 二つ、香川とも関係があり、おそらくは対等な立場にある。

 三つ、雅お姉さまと何らかの共有関係がある。それは、図書棟に関係したこと。そして、それが動機になりうる。

 それが誰になるか、おそらくわたしが仕掛けた本当の罠に、真に気がついたならば、甲斐雪人が暴いてくれるだろう」

 手紙はそこで止まっていた。


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