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ラプラスの悪魔が囁く  作者: なつ
第五章 誰の手の平の上にあるのか
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 目撃された女子高生の幽霊は、はたして純清香だったのか。だとしたら、彼女は監禁されていたわけではない。ちょうど今の篠塚桃花と同じように、自らの意思であそこに引きこもっていたことになる。むろん、そこに香川定吉が絡んでいるのは確かだが。

 あるいは、幽霊の噂が女子高であったのはただの偶然で、彼女は早くに亡くなっていたのだろうか。

 いずれにせよ、確かめるすべはない。

 それよりも解せないのは、あの時計塔に隠されていた部屋だ。もともとは屋上へ出られるようになっていた。否、今でも同じだ。そして、純清香があそこにいたときも、あそこから外に出ることができた。

 それなのに、彼女はそれをしなかった。内側にも、外側にも彼女は出なかった。その理由こそ、確かめるすべがない。

 香川定吉と純清香は恋人同士だった。それを知る者は、学園内にいなかった。おそらく隠していたのだろう。先生と、生徒という関係が、二人を阻んでいたのは確かだ。

 けれど、香川は、彼女をどうして見捨てたのか。

 本人は、むろん見捨てる意思はなかったのだろう。香川からすれば、純清香が死ぬことは、予定外だった。頻繁に図書棟に訪れると怪しまれる。少なくとも当時の警察があきらめるまでは、その状況で耐えなければならない。生徒に近づかないようにさせるために噂を流す。だからと言って、閉鎖されてしまっては困る。もし閉鎖され、取り壊すようなことになれば、すべてが無駄になる。

 それに、あそこは外につながっている。いざとなれば、彼女は逃げ出すことができる。

 それなのに、彼女は逃げ出さなかった。満足がゆくほどの食事を与えられていなかったが、それでも死ぬほどではない。

 にもかかわらず、香川が間を開けて彼女を訪れた時、彼女は死んでいた。

 自殺だ。

「ごめんね、もう耐えられないよ」

 そんな書置きがあった。香川はその書置きと、手に握られていたペンを取り、一人涙を流した。

 後日、彼女が好きだった本を、代わりにそっとその手に握らせた。


 香川は語る。


 時計塔の出口は、当時から本棚の後ろに隠れていた。外に出る生徒が危険だと、ずっと昔に判断したからであろう。だが、その封鎖だけでは不安になり、香川はそれらしい壁を取り付けた。これで誰も疑う者はないだろうが、念には念をいれたほうがいい。それから毎年のように幽霊の噂を流す。もっとも香川が流さなくても、不思議と似たような噂が学園には流れるものだ。それでも、欠かすことなく、毎年。

 それなのに、今年になって、香川は恐怖を覚えた。

 あの学園長である芹沢雅が、図書棟に隠れて通っているという話を聞いた。

 何のために?

 分からない。

 考えれば考えるほど不安になる。芹沢は頭が非常にいい。香川が出す課題など、まるで赤子の手を捻るように。だとしたら、時計塔に隠されている秘密の部屋に気が付いてしまうかもしれない。

 居ても立っても居られない。

 どうすればいいか分からない。

 脅すというのは、愚策だと分かっている。もし気が付いていないのであれば、余計なヒントを与えることになるし、自分の立場も怪しくなる。自分だと気づかれずに脅すにはどうすればいいか。

 そして考えたのが体育館でのあの方法だ。衆人環境の中での脅迫、なかなか面白いし、芹沢であれ、すぐにはその方法が分からないだろう。とにかく、まずは図書棟に行く理由を突き止め、できればやめさせなければならない。

 だが、彼女の頭は、香川のはるか上を言っていた。

 二度目の脅迫の時点で、すでに香川が脅しているのだと彼女には分かっていた。

 ならば、直接お願いをするしかない。


 香川は、夜中に彼女を呼び出したことを自供した。


 けれど、それだけだ。


 香川は、刺したのは自分ではないと、主張している。


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