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ラプラスの悪魔が囁く  作者: なつ
第四章 何がそこに隠されているのか?
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  8


「わざわざお見舞いに来て下さったのですか?」

「外出許可を得るのに丸一日かかってしまいましたが」

「はずかしいわ、この格好。もっとかわいらしい服でお出迎えしたかったのに」

 芹沢雅は、病室のベッドに寝転んでいた。広すぎる個室には、豪華な調度品が並んでいて、とても病室には思えない。それに、彼女が着ているものも、通常よりずっと高価なものに見えた。少なくとも甲斐が今着ているものより恥ずかしくない。病室には芹沢茜と芹沢丁子がいたが、芹沢雅の一声で、二人ともすぐに退室してくれた。ベッドの脇の、これまた豪華な椅子に甲斐雪人は座る。

「体は、もう大丈夫のようですね」

「すぐに退院できると思うのですけどね。そういうわけにもいかないみたい」

 それはそうだろうと、甲斐は思う。

「学園に戻っても、そんなにやることはないんじゃないですか?」

「あらいやだわ。わたくし、これでも学園長なのよ。運営に関わる仕事が結構あるのよ。あの校長は、そこまで気が回りそうにないし」

「時計塔でたそがれてましたよ」

「ほら。早くわたくしが戻らないと、大変なことになってしまいますわ」

「それから、手紙を預かってきました。ももから」

 芹沢はふふふと笑うと、その手紙を受け取った。

「どうして抵抗しなかったのですか?」

「だって、まさか刺されるなんて思わなかったもの」

「女神像に縛られたのでしょ」

「わたくしが抵抗するなんて、思ったのかしら。抵抗しませんって、何度言っても聞いてもらえないものですから、大人しく縛られて差し上げたのに」

「危険すぎます」

「本当、危険でした。わたくし、演技には自信ありますけど、ばれたら危ないかなとは思っていました」

「ばれたらって」

「だけど、ばれなかった。だから、わたくしは安全だと思っておりました」

「でも刺されました」

 怖くなったのか、芹沢はすっと目を閉じる。

「ひどければ、死んでいた」

「……そうね。そう考えると、奇跡かもしれないわ」

「ええ、奇跡です」

 芹沢は再びふふふと笑う。それに合わせるように、揃えられた前髪が額の上で踊る。それで落ち着いたのか、体を少し起こすと、手紙に目を落とす。

 しばらくしてから、芹沢は甲斐の名を呼ぶ。

「何ですか?」

「もう少し、頭をこちらに近づけてくださいませ」

 甲斐が不思議に思いながら顔を近づけると、芹沢は座ったまま強めのパンチを甲斐の頬に喰らわせた。


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