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十日の猶予は潰えた。ついに口を割ることなく、愚かなことだ。ただ従順にあれば、このような結末にはならなかったであろうに。
そして愚かにも、あの挑戦的な態度はどうだ。再びわたしを危険に晒して。だが、愚かな連中には、わたしが誰であるか考えつこうはずもあるまい。黄色に染まった体育館で、誰もわたしが芹沢雅を脅していたことなど、気づこうはずもあるまい。
なればこそ、わたしの安全は築かれる。
「わたくしが図書棟に通っているのは事実です」
芹沢が最後の口を開く。
「図書棟で何を調べている?」
「調べてなどいません。ただ、本を読んでいるだけですわ」
「あそこには幽霊が出るという。怖くないのか?」
「明りが少なくて不安に思うときがあります。ですが、個室には電気がありますし、本を読んでいれば怖いと感じません」
「なぜ秘密にしている」
「秘密に……しなければ、ならないのです。わたくしの立場を考えて下されば、理解していただけるでしょう。それに、どう考えてもあなたとは関係のないことです」
「何を調べている?」
「調べてなど、いません」
「ではなぜ、学園集会と偽り、生徒を集め、一人図書棟に向かうのだ」
「それは……」
「答えられないのか」
「……はい」
短い沈黙の後、暗闇の中、芹沢は一人残される。
両手を上に縛られ、ほとんど身動きを取ることができない。芹沢は自らを見下ろす。左胸に、今登ろうとしている太陽の光を反射する、銀のナイフ。そこから、赤い滴りが見える。ゆっくり、ぽとり、ぽとりと滴が落ち、小さな池を赤く染めている。
第一学習棟と第二学習棟との間。
女神に縛られて。
赤く、
赤く。




