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両手を胸の前で組み、何も知らないものがこの光景を見たとしたら、教会で祈っている聖女と映ったであろう。
「芹沢お姉さま!」
夢宮さやかがそこを通りかかったのは、クラブの活動が予定よりも遅れ、運動場から荷物を持って急いでいたからだ。宿舎に戻る途中なのだが、クラブの中で宿舎を利用しているのは、彼女だけだった。
「あら、こんばんは。失礼ですけど」
「す、すいません。わ、わたくし、夢宮さやかと申します。一年二組の、一生徒でして、芹沢お姉さまを敬愛、いたして、おります」
「どうか、そんなに緊張なさらないでください。わたくしとあなたの間には何も違いなんてありませんわ」
「す、すいません。わ、わたくし、夢宮さやかと申します」
「さやかさんね。ええ、承知しております。一年の二組といえば、甲斐雪人くんと同じね。彼はもうクラスに馴染んだかしら」
「は、はい。わたくし夢宮、失礼かと思いつつも、神田と一緒に雪くんといつも夕食をご一緒させていただいておりまして」
「よかったわ、友達もできたようで」
「あの、彼と芹沢お姉さまって」
なぁに、と芹沢の表情がほころぶ。
「何でもないです」
「どうか心配なさらないで。彼はこの時期に編入という特別な生徒ですから、少しだけ心配しているだけですわ。それに、わたくしには彼の魅力なんて、これっぽっちも理解できませんから」
夢宮は理解できずに眉をひそめた。
「さやかさんは、もう夕食は済まされましたか?」
「いいえ。いつも九時ごろです」
「彼も?」
「はい。宿舎での、簡単なものですけど……よ、よろしければ、芹沢お姉さまも……いえ、いいえ、何でもないです」
「そうね。わたくしのことを雅と呼んで下さるなら」
「あわわ、あわわ」
寸分違わず、夢宮はそう発音した。
「さやかさん。わたくしのことを名前で呼んで下さいます?」
「み、ミヤビさま」
「これでわたくし、あなたとお友達ですわ」
「はひ」
芹沢はふふふと笑った。
「あの、ミヤビさま、もう八時半を回ってるのですが、図書棟に何か用事があったのですか?」
もう一度芹沢はふふふと笑った。




