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第002話 我侭な王様

 熱帯地方のとある集落は、今小さな魂送りの儀式をしていた。

 あの惨事から数日がたっていた。

 盗賊たちは青年によって駆逐され、村にはわずかばかりの平穏が戻った。

 火の手の上がった家は取り壊してどうにか火を消しとめて、今は生活を取り戻すことに全てを注ぎ込む実に、人間らしい生き足掻くことには長けている。

 村の男共は、狩猟から返り、村の現状を見て嘆き憤り、怒りを露にした。

 俺たちが居ればこんなことには、何故理不尽が許される。

 そんな言葉がちらほらとそこら辺りから聞こえてくる。

 女達は、夫や息子、恋人の帰りを心待ちにしていたようだった。

 一部を除けば、助かったと言えるが、助からなかった人はその憤りを何かにぶつけなければならない

 子供を亡くし、恋人を、両親をといい積めれば、悲劇を認めることへの証にもなるからだ。

 しかし、それとは別に村を助けた男は村の少女をナンパしていた。


 「いやー、そこの君、可愛いね……俺と今夜どうだい?」


 快活そうな日焼けした肌、栗色の髪と青い目の少女は顔を真っ赤にして下を向いていた。

 白髪で色白い中身は黒いフードに覆われて、腰には異国の剣を差している男は少女の肩に気安く手をおいて、顔をこちらに向けさせていた。

 

 「真っ赤になって、君の美しい顔がさらに磨きが掛かっているよ…食べてしまいたい。」


 歯に浮くような台詞を始終、少女や奥方に向けるクラウンは意外と評判がよかった。

 礼儀を弁え、老人子供に優しく、女は宝石のように扱う。

 村を復興するために、子供手も借りる大人たちに混じるように子供を助けていた。

 重い荷物はクラウンが肩代わりして運んでやったり、怪我をしたものたちの治療をしたのもクラウンだった。その経過でわかったのは彼が魔法も使えるということと男達には見向きもしないことだった。

 さすがに夫や恋人の怪我を治してと頼まれれば、快く直していたが、それ以外ははっきりとしたものだ。

 ある青年は右手に怪我をして直してくれといったが、唾をつけとけと一笑された。

 子供、少女、奥方、老人これらを除いて実に贔屓を持って彼は人間関係を築いていた。

 だが、それに歪を生まないのは、女達の彼に向けるまなざしだ。

 まるで、絵本に出てくる白馬の騎士を夢見る少女と言った様にその瞳は澄んでいる。

 

 「オイ、そこの馬鹿」


 クラウンの背後、赤い髪を一括りに結んだ肌白い少女は、眉を尖らせていた。

 何分、まだ、あの惨事から数日しかたっていない。

 気楽気ままに女性を口説くクラウンにいい視線を向けるものはあまりいない(男)

 しかし、この集落自体の男女比が極端に女性寄りにある為にそこは却下され、謂れのない女性の批評を買いたくない男達は揃って、口をつぐむか男に冷たい視線を送る程度だった。

 それゆえにクラウンの態度が功を奏した。

 女性への受けが極端にいいジゴロとでもいえば、彼を指す。

 だが、この少女だけはクラウンに対していつも強い口調で返していた。


 「なんだい?アルテか君は今日も可愛いね……。」


 「な、何を言っている!!…それに腕の中にいるイスカはどう言ううわけだ?」


 かの少女の天性の性分は感情が豪をそうすることにあるだろう。

 わが道を行くは言葉いいが、生き難い性分であることには変わりない。

 ここ数日、クラウンが女性を口説くと決まって彼女が背後に立っている。

 その性もあってか、男達は彼女を後押しするかのように罵詈雑言を吐きつけてくれる。

 

 「そうだ、お前なんか早く村を出て行け、」


 「いくら俺たちがいないときに、村をみんなを助けたからって何でもしていいって事にはならないんだぞ」

 

 「判ったら、早く女を置いて出て行け」


 アルテ自身は、そんな事を露ほど思ってはいないが、男達の後押しは逆に彼女を不安にさせる。

 男達の言葉は自体ははっきりしたものだが、どうやらクラウンの耳には一つも届いていないらしかった。尚も腕の中にいる少女と嬉しそうに話している。


 「お前達は、何を勘違いしている?」


 冷淡な言葉がその耳を突いた。

 少女イスカの耳を塞ぎ、笑顔で振り返ったクラウン。

 アルテは視界に入ってすらいない。

 男達だけ射抜く視線だ。

 その温度差たるや、温かみすら感じれないモノを見るカのような侮蔑は男達を憤らせるには十分だったが、誰も行動に出ることはなかった。

 

 「男が女を口説く理由に村も場所も助けたも関係有るか?」


 もっともな意見で、同時に彼らの体たらくはただ雑言を遊ばせるしかない。


 「関係有るだろ、ここは俺たちの村だ。」


 「そうだ、この村の女に手をだすな。」


 「余所者はでていけ!!」


 男が5,6人ほど浴びせかける言葉は依然としてクラウンに何の感慨も及ぼさない。

 溜息をついているクラウンの視線は、不安そうに事の成り行きを見守るイスカに向けられた。

 冷淡な瞳とは変わり、優しく大丈夫と安心させる瞳だった。

 この地方に見ることない黄金の瞳は、何故か彼女を安心させた。

 そして振り返ったときに見せるたのは冷淡さと冷笑交えた明らかに機嫌を悪くした男のそれだ。


 「幾度となく、その雑言を聞くのもウンザリだな。」


 「なんだと!?」


 1人の男が胸元を掴もうと手を出したが、バチリと何かに阻まれて後ろ手に倒れた。

 

 「お前達は自分達が何もしない愚か者だと言うことを忘れてないか?」


 「女性の陰に隠れ吐きたてるのは自己顕示欲丸出しの不満だけか?」


 「同じ男として言ってやる。お前達は守るべき者を護れなかった。狩にでたと言う生活基盤の理由だけで、それが許されるとでも思うなよ?護ると言うことは、全てだ。生き方、あり方、尊厳、その体も入れてありとあらゆる全ての悪意から守ることだ。仕方がないなどとほざくなよ、殺したくなる。お前達が盾にしている彼女がどんな目にあったかすら知らず利用しようなどとするならその首かっ飛ばしてやる。」


 突然、槍玉に挙げられたアルテは自分がどうしてこうも憤りを感じているのかに気づかなかった。

 彼に助けられたことを思い出す、見事な剣捌き(太刀筋)で彼女を助けたときは、不快感すら忘れるくらい鮮烈だった。だから、その腕の鋭さを以てすればできないことではないのに気がついていた。


 「手を出さないって言っていたでしょ。」


 アルテは簡単に利用されたことに気がついた。

 自分が直情的な奴だとは理解していたが、村の男共の体の良いクラウンへの拒絶の道具にされたのだと、そしてそんなことをいち早く見咎めたクラウンはその言葉を持って彼女の負目を払拭したのだ、だからこそ今は彼らを止めねばクラウンの村での立場は危うくなると彼女は感じた。

 暴力的なことは最初から望んでいなかったからこそ、初めに手は出さないことを条件についてくることを許したのだ。

 そこを破った彼らは暴力を訴えたクラウンをこの村から追い出すつもりなのだから止める術は彼女が間に入るしかなかった。


 「何だよアルテ。お前までこいつの肩を持つのか」


 着いて行きたいと最初に話したイルートは、彼女に不満を(あらわ)にした。

 ほかの男達は、先ほどのクラウンの言葉で怖気づき後ろに下がりに下がっている。そして恐々とした目でクラウンを見ているが、このイルートだけはアルテが仲裁に入っていることに不満を持っているらしい。


 「やだね、男の醜い嫉妬は……」


 聞いた言葉は耳元で発せられた。

 クラウンが彼女を引っ張り寄せたのだと今になって気づく、無造作に手を握り器用に足を刈って体制を崩し、彼の膝の上に腰を落ち着かせたのだ。

 横には今も尚、イスカが居たがそれを気にしたそぶりすらない。

 イスカ自身はキョトンとして横に来たアルテを見た。

 胸元に引き寄せられたのは同時だった。

 強い腕で今は黒いローブを脱いだ姿のクラウンは中身も黒一色、その胸元に女二人は抱きかかえられている。1人は褐色の少女と1人は色白で髪を縛った少女達。

 二人共々、顔を赤くしていた。

 

 「お、お、おま、お前何をして……。」


 アルテは言葉も発せないくらいに動揺し、イルートにいたっては掴みかからんばかりの勢いで突っ込んできた。

 だが、先ほどと同じく、壁みたいなものに阻まれて、弾かれた。

 

 「なんだ…これは」


 「結界さ、周囲に俺の許しがなく入るものを許さない魔法さ」


 魔法を使えることは知っていたが、ここまでも自在に操れるとは知らなかった。

 抱きかかられていることも忘れ近くからクラウンの瞳を見た。

 黄金の奥に暗闇を抱えた彼女が知るなかで一番強い男の瞳は何故か悲しみが感じられた。

 だが、そんな感傷も束の間、起き上がったイルートの瞳にある憎悪と表情にアルテは驚いた。

 

 「アルテを離せ、薄汚れた旅人風情が、この村から出て行けっ!!!!」


 ここまで歪んだ顔を彼女は一度、目にしている。

 似ていたのだ盗賊たちの1人が死に様に残した逆襲を誓った目に


 「馬鹿が、お前の稚拙な考えで俺がどうにかなるなどどおもうな……」


 「離せといっているっ!!!」


 言葉には憎悪と何かに対する執着にも似たものを感じた。

 それと同時にいつまでも腕の中に捕われていることに恥じたのかアルテが抜け出そうとしたが、腰をがっちりとホールドされて動くことができない。


 「おいクラウン、離してくれ……。」


 懇願して帰ってきたのはイヤ笑い方をしたクラウンの顔だった。

 口元にはニヤリと腕の中の少女たちを見ている。

 だから、予想だにしない。

 頭で理解してないことを突然言葉に出されれば一瞬遅れるのと同じく。


 「このアルテとイスカはな、俺が好きなんだ。だから何時も世話を焼いてくれている。」


 ボっと腕の中の少女達に火がともった。

 口にせずに分かる事も有ると言うが、理由本人からの言葉は絶大だった。


 「な、な、な、なああああああああ!!!!っ」

 

 「う?、うにょーーーーーーっ!!!!っ」


 奇声を発し暴れだしたとする彼女達は、やはり拘束からは脱しきれない。

 それに臆面もなく、呆然と立つイルートに彼は続ける。


 「好かれ好いた女が居るんだ。それに答えるのは男の嵯峨だ。他人に如何こう言われる筋合いはない。」


 「他人だと、俺はそいつの伴侶になる男だっ!!!」


 一瞬唖然としたが、アルテはその告白に冷淡な感想しか抱けなかった。

 情愛深いわけでもない、親愛があるわけでもない。

 なんとも思っていないが現状だった。

 ただ近くに、ロクに話もしたことがなく、偶にいきなり話しかけてくることがあっただけだった。

 普通の恋話なら、ここで育んでいく恋もあったのだろうが、その話は既にないに等しかった。

 彼女は言われながらに既に受け入れていた。

 突っかかり、違う女と居ることへの嫉妬で行動した自分。

 それすら、今までになかったことだ。

 彼女は今までに父と母が死別したときすら、ここまで感情を見せたことない。

 ただ、生き足掻くことで精一杯だった。

 どんなときでも、彼女を生かし彼女を育んだのはその豪胆さ、生を富み、死を拒絶し仲間を護ろうとするその気高さが彼女のあり方だ。

 だから、だろうか何故かこ暖かな感情で自分がどう変わるのか見てみたいと感じたのは偽りではない。寂しさを知っているから分かることだ。

 旅人の男はただ強く、優しいだけだが、それはこの村似ない優しさであり気高い孤高さを持っていた。

 イルテに至っては、気づいていたのか見抜かれたことにあわてて奇声を発した。

 ごく単純にその容姿に惹かれたのではない。

 両親が死んで初めて声をかけたのがクラウンだ。

 落ち込んで、目の前が真っ暗になったときに優しくされてコロリと堕ちた。

 安い女といわれても仕方がない。

 だが、その優しさに引かれた、その強い自信に満ちた姿勢にも対面だけで人を判断できるほど、彼女はそれほど生きていない。

 これは、初恋は盲目と二人の少女にいえる行為だっただが、二人は知らずあとからになって気づくことになる。

 そして、その二人の真情すら手玉に取るかのように不適な笑みを浮かべて哀れな子羊を飲もうとする大蛇がそこにいた。


 「言うは容易いな」


 「何!?」


 「どう考え、どう護る?」


 「そんなもの、俺が幸せにしてやるんだよ!?」


 唾を飛ばさん勢いだが、その憎しみに満ちた目は常にクラウンに向けて放たれる。

 どこぞの王族のように、両脇に女性をはべらせ悦に入る男の姿。

 小さな姦計を測った男に一切の執着もないと不適な笑みを浮かべる姿。

 その全てが、イルートにとって我慢ならなかった。

 好いた女を抱えられて余計に言葉が荒くなってしまうのはそれだけ執着していることになるがそこに、自分しかないのを彼は気づいてはいない。

 もちろん、それに気づきながら、不適に笑う蛇はのど元に食いつくことを忘れない。


 「お前が? 今尚、俺に触れることさえできない。哀れで惨め、好いた女という形だけに縋るお前ごときが、何を幸せにするんだ。」


 「え、」


 「お前が執着するアルテは、襲われたあの日に壊される寸前まで強く口をつぐんで自分を護り仲間を助けようとした。その勇気と覚悟にお前は何を返せた?」


 「ただ、狩猟に行ったを理由にいつもどおりの言葉を投げかけたのか?」


 「大丈夫かと一言でも言ったのか?」


 「それは暴虐を言い訳に彼女を欲する口実か?」


 「女を甘くみるなよ下郎。他人を愛することを欲するあまりに自分が好きだと抜かす女を利用する馬鹿に何ができる。」


 「あ、ああああっ」


 それは、全てを否定していた。

 男の弱さ、あり方、惰弱と切り捨て悪意に悪意を返すその言葉に男の瞳は暗く沈んだ。

 実直さがあったからこうまでまで落ち込むのか、それとも愚かさにかわからない。

 

 「消えろ、そしてその愚劣極まりない男を切断しろ、俺は男が嫌いだが愚劣な男は殺したくて仕方がない。」


 強いプレッシャーを帯びた言葉にイルートは一瞬びくりと肩をならして後ずさる。


 そして言葉もなく、回りの男立ち共々去っていった。

 この先、この出来事がイルートの女性不振と性格の変貌を招いたがそれは余談だ。

 娘二人に至っては、あまりに容赦のない断罪に、言葉もなかった。


 「クラウン今のは、自殺ものだ。」


 薄っすらと笑みを浮かべる男は強かだ。

 

 「事実を言ったまでだ、俺は君たちを理解したいから好意に答えたまでだ。」


 断言するんだなとアルテは言った。

 正直分かりやすい行動してたのは自分ながら恥ずかしかった。

 抱かれている腕が気にならなくなっている自分が居た。

 イルテも何故か身を寄せている。

 我欲ある強者の言い分だが、それを許せたのは言わない方いいとアルテは思った。


 「これからも欲し続けるさ、お前たちは俺のものになれ」


 「絶対に渡さない、誰にも彼にも奪わせない。」


 「俺はお前たちがほしい」


 言葉は雑だが、プロポーズのそれだ、情熱的なまでに。

 軽薄な男のはずだが、しっかりとアルテとイルテの心に残る言葉を言った。

 ここに強欲な王は二人をものにした。

 愚者と同じ言い分に聞こえるが、その覚悟や優しさは盲目な少女達には毒だった。 

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