表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第001話 白黒の死神

異世界を旅する男は、人ともに暮らし生活する様を観察する。

それがどんなに詰まらない一幕でも、干渉し助けることもたまにある。

盗賊相手の切った張ったや生贄助けるためのドラゴン退治。

行く先々に騒動がありそれを楽しむ男の話。

魔法あり、魔獣あり、戦闘ありのファンタジー。

もう一つ小説かいてるので、時間的には暇ナとき執筆します。

 プロローグ 


 それは理に反逆した無知な英雄の物語。


 輪廻の理を飛び出して神に挑んだモノを人はなんというだろう。


 時間も空間も世界すらも飛び越えて、意図ある創生の世界は自ずと次元を超えて姿を見せた。


 そこは邪悪の根源といえる世界だった。


 気に入らなければ世界は消され、気に入れば玩具になり、はたまた好き勝手に飼育される世界。


 数多の欲望で彩られる世界をその神という存在は、嘲弄し、玩具にし、破壊し、侮蔑する。


 それに価値はないと塵として捨てる。


 それが創造神の有り方、何と言えばこの怒りを諦観(テイカン)を抑えられるだろう。


 親が子に見せる絶望をどう彩れば、この世界に価値を見出せるだろう。


 だが、それに気づいたとき、俺は自分を呪った。


 神が嘆いたのは鏡写しの自分自身だった。


 価値がないと言わんとして、自虐に走る神がいた。


 「人」はそういう存在だった。


 神と同じく、欲望と侮蔑と嘲弄を持って世界を破壊する生き物で愚か者。


 神と何が違うだろう。


 何一つ違わない。


 現実に磨耗した人間の嵯峨はそのまま親に帰っていたのだ。


 ならと俺は覚悟した、俺は人を捨てよう。


 神に従事し、弱り自虐に走る神を慰めよう。


 親が悲しむとき、子はどうすればいいかなど無駄な問いだ。


 いかに邪悪の悪意をもって、世界を嘲弄する神であろうと俺は愛そう。


 神はそれに答えをくれた。


 嘆きに悲しみに怒りに何を持って神をなすかを創造したかを伝えてきた。


 それは本当に簡単な事だった。


 そして、俺は人を捨て欲望を神にささげ、私心を神と共有し、ただ許される限りの安息になることを契約した。


 そうこれが始まりだ、ただ安息の夢物語。


 俺は従事し畏怖し敬愛しそして、魅せることを忘れない。





 第一章


 森林がその辺りには茂っていた。

 熱帯地方のとある村近く、人が立ち入ることが少ない場所で1つの悲鳴が上がった。

 アルトベルタと呼ばれる村が盗賊どもに襲われているのだ。

 熱帯雨林地方特有の高床式の住居、そこに火の手が上がっている。

 人纏りで、100人からなる村人が、手を後ろ手でに縛り上げられ、逆らうものは殺されるという悲劇が繰り広げられていた。

 村を襲ったのは、10人からなるある盗賊たちの一味だった。

 今、目の前では、1人の少女が、暴漢に組み伏せられ、壊されようとしていた。

 この村になんら悪いところはない。

 民俗芸能さかんな衣装で周りからは、アオの一族と呼ばれるている。

 伝統工芸を流通とし、大都市から離れた村ではあるが、貴族から工芸品を高く買い上げてもらうことで多少蓄えはあった。

 それ以外は自給自足で、森から取れる恵みの木の実や猪などを獲物として狩をして食し、生活していた。

 だが、貴族の商人が立ち寄ったことでこの村は要らぬ疑惑とその近くに隠れ住む盗賊に襲われる憂き目に会った。

 蓄えを簒奪し、女を攫うことを目的に簡単に平和は崩れ去る。

 欲をかいた貴族が、蓄えたものを返せと要求してきたのだ、そして拒み、さらに流通を止めると言えば、その貴族は行動する。村を焼き払え、女を連れて来いと盗賊どもに命令したのだ。

 もちろん、そんな言質だけでは、金に汚く女に飢え人の道を外れた愚者の集まりには通じない。

 高貴だと自分で思っていたものは、金で買える武力を知っていたが、図らずも自分の傲慢さで大地の肥やしに変わった。

 そして後の祭り、この村に蓄が有ると知り、襲わない盗賊など盗賊ではない。

 己が教示に忠実な獣たちは、簡単にやれるとわかっていたのか10人の強者を選んで襲わせた。

 アオの一族にも戦士はいた。

 だが、狩に出払った所を狙われれば、もう打つ手はなかった。

 女は囚われ、残ったのは子供と老人と僅かばかりの男集。

 男たちは不意をつかれて斬殺、子供を人質に取られ簡単に村はその10人の独壇場と化した。

 あとは見上げの金と女を見繕い、今は殺して犯して遊ぶ玩具を味わおうという下種の宴の最中だった。


 「へへへっ…、久々の女だ、楽しませてもらうぜ。」

 

 手を剥ぎ取った服で縛ってそこにナイフを突き立てた。

 悲鳴が上がり、それ見た一人が笑いながら言う。


 「おお、可愛い声でなくなぁ」 


 男に肌身をさらすことで羞恥と恐怖でいっぱいになった女は隠そうとする腕さえ固定され目に涙をためて睨みつけた。


 「いいね、その表情は……。」


 男が手を振り上げ、女の頬を強くはたく、口元を切ったのか、血がにじみ出ていた。

 その恐怖と嗚咽で上下する胸元に手を出そうとした。

 女はこれから自分のみに起こる結末にキツク両目を閉じて、せめて声を出さぬと強く自身を守ろうとした。

 しかし、一向に女の胸に男の手が触れることはなかった。

 数十秒、しても何もない。

 女はキツク閉じた目を不安げに開いた。

 そこには、眉間に角を作った盗賊の姿があった。

 

 「いけないなぁ、女は襲うとはね、金ならまだ良いが女だけは許せん。」


 角ではなかった。

 それは長い刀身でこの地方にはない鋭い尖った剣。

 そして視線を上げれば、黒い装束に身を包んだ美麗な男の姿があった。

 熱帯地方ゆえの高温多湿のこの場所は身を包むだけでもむせ駆るような汗をかくはずだがこの男は全身フードで身を包みそして流れる白い髪を惜しげもなく日に晒している。

 かなりの長身で、眼は黄金、肌すけるように白い一瞬だが長身の女性かと見まがうほどだった。

 男と気づいたのはその声音が低音だったこととその黄金の瞳の強い視線が女を想像させなかったことだ。


 「きさまぁ……。ゾルトを良くもやってくれたなぁ?」


 周囲には子供に短刀を突きつけた男、長剣を構えた男が7人がいた。

 少数で多勢を襲う場合は周囲に気を配ることを忘れてはいけない、そんなことは百も承知のはずの男たちはこの男の接近に気づかなかった。

 端的に言えば、欲望に駆られて自らを見失っていたところを隙を突かれたともいえる。

 気配を消して忍び寄り、一気に刺突で脳天を貫く、慣れていなければできない所業だ。

 男たちの怒気に、一つも表所を変えず不適な顔で男は言った。


 「女を襲うのは良いが、それは俺だけの特権だ不細工は下がって貰おう。」


 自身ありげに胸を張って、男たちを見下すその男は、スパンという音とともに眉間を貫いて殺した得も言わぬ死体を襲われ肌身を晒す彼女から勢いよく吹き飛ばした。

 飛んだ死体は襲撃者たる男たちの足元に転がった。回転の要領で串刺しのまま放り投げたのだと今更ながら気づいた彼女は男の後姿だけが見えた。


 「全くもって不愉快だ。愚図で塵、生きている事すら恥ずかしい愚者が女に手をだすな。」


 その刀身は黒く、一切の光を反射しない。

 それが盗賊たちに向けられたのは、果たして彼が救い主だからか愚か者だからかはわからない。

 殺したあとで、また自分たちが被害者に変わることなどざらにあるからだ。

 だからこそ、早く逃げるべく腰を浮かした彼女は生き足掻く上で正しい。

 急いで彼女は体を隠すことも忘れて縛られた女たちのところへ向かった。

 縄を解いて、一刻も早くこの場所から逃げねばならないと自分の仲間の開放を優先した。

 

 「オイオイネェちゃん。いい乳揺らして何かってなことしてんだぁ」


 急ぐあまり、その男たちが反対側から現れたことに気づかなかった。

 30人からなる集団は一目では判断できない。

 だが、その集団には先の襲撃者と同じ装いが見て取れた。

 それが、逃がそうとした彼女を拘束した。

 若い男は右手を後ろに、彼女が逃げないように腰を抱いている。

 

 そうして見て取れたのはかの白髪の男が盗賊たちに囲まれるという終わりの前触れだった。


 結局彼女は、睨むことだけしかできない。

 逃がそうとして開放した女性たちも改めて、男たちに羽交い絞めにされ汚い手で拘束された。

 彼女の足掻きは無駄の一遍で、白髪の青年の行為は無駄に終わるだろう事が彼女にもわかった。


 「つまみ食いしようたぁ…おめえら覚悟できてんのか?」


 その大男は、1人だけ上半身に鎧を身にまとい、大刀を片手に先の襲撃者たちを見た。

 人質の少女を抱く男が、途切れと途切れに言った。


 「か、頭…すいません。今届けようと思ってたところです。」


 人質の少女をこれ見よがしに鎧男の所へと手引きする。

 もう先の男たちに彼女たちを好きにする気は毛頭なかった。

 だから、その男は頭と呼ばれる男が好む体躯の少女をかの男の目の前に持っていこうとした。


 「お~。分ってんじゃねぇか」


 少女は頭の卑下に歪んだ欲望を目の当たりに自分がさっきの彼女、アルテと同じことをされるのかと恐怖に駆られる。

 自然と引っ張られる腕を無視して足を止める。

 男が怒りの目を自分に向けるのが分った。


 「て、ってめぇ…とまるんじゃねぇ」


 そう、男が言って右手を振り上げる。

 少女もまた目を瞑って衝撃の備えた。

 衝撃は来なかった。

 ただ、暖かい手が頭の上にある。

 少女は意を決して視線を上げた。

 

 「ようガキ、あぶない所だったな」


 白髪の青年が少女の傍らにいた。

 少女はさすがに助かるとは思ってなかった。

 現状今も、徒党を組んだ盗賊たちが自分と縛り上げた女性たちを囲んでいる状況だ。

 だが、そんな中自分も殺されるだろう青年の行動は彼女にとっては白馬の騎士にでも助けられた心境だった。

 

 「お前、名前なんていうんだ。」


 落ち着いた声音でたずねてきたのは場違いほど当たり前な質問。

 だから、少女は反射的に口を着いて出た。


 「っミルテといいます。」


 活き良いよく高い声で彼女は答えた。

 さっきの不安でいっぱいだったことが忘れ去られたかのようだった。

 だから、彼女はきづいた。

 こんな質問でいつの間にか自分がどういう状況だったかを忘れていたのに


 「ミルテか…。可愛い名前だな。俺はクラウンだ。よろしくな」


 場違いなほど、ゆったりと青年、クラウンは自己の名を明らかにしてきた。

 どういう状況下でこんなゆったりとできるのか彼女には分らない。

 けれど、その優しく向けられた黄金の瞳は、この先、彼女自身忘れることはない。

 ただ、自分が自然と落ち着いてきたことにワケの判らない安心感を感じていることに彼女は気づかなかった。


 「オイ、てめぇ何かってなことを…」


 掴んでいた男は、いきなり掻っ攫われた少女を取り戻そうとクラウンに近づこうとした。

 だが、その先に伸ばした腕がない。


 「えっ」


 その一言が引き金に肩口から大量の血が飛び出した。

 男は苦渋に顔を歪めてその場に倒れた、痛い痛いとわめき散らす苦情はその場に緊張感ある殺気をクラウンに向けた。

 男の左手はどこに行ったのか、その場にはなかった。

 ただ、ボトリとした音がかの男のそばで発せられた。

 それは無くした左腕、体から切断されたただの肉だった。

 盗賊たち全員が、クラウンに敵意をむけ、抜剣して構える瞬間だった。 

 荒くれモノの集団でも、それが異常なことだと分った。

 囲むという行為は同時に見張り、拘束も含み、視線を捕獲者から離さないのが鉄則である。

 だから、武装した人間などは、そのもっともな候補であまつさえ自分の仲間を殺している奴など目を離すことなどは馬鹿のすることである。

 故におかしかった。何十人という盗賊たちが男を監視していた。

 そのどれもが、消えたと見まかうなどとは到底口にできるものではない。


 「いたいイタイイタイ……。くそっくそっ殺してやる………。」


 涙と鼻水を垂れ流し、口からは噛み切った唇の血で塗れて、憎悪ある瞳でクラウンを見つめる男がいた。

 肩から先。左手を無くし、不恰好な形だが、男は立ち上がった。

 頭でさえ、その心意気に口笛を吹いたほどだ。

 だが、男はされたことの意味に気づかず、さらに恨みを晴らすために落ちた左腕から短刀を取り上げた。


 「シネェェエエええええ」

 

 取り上げたが最後、一直線に男を殺すべく疾走する男、この集団の中でも3本の指に入る腕利き。

 片腕からほとばしる血は、致死量に達すること請け合いだが、男は痛みを殺して己が復讐することを選んだのだ。

 暴虐を働いた暴漢の集団、覚悟も尊厳もない無法者は増悪だけは一人前に有ったらしい。


 「フン。醜男(ブオトコ)がいきがるじゃないか」


 だからと言って、クラウンが消えるように動いたことの理屈が覆るわけもない。

 少女を自分の背後にかくまい、


 漆黒の刀剣が光り返さぬ残像を持って男を唐竹割り要領で真っ二つにした。


 どんな筋力と太刀筋でも、勢いよく向かってくる男をああも簡単に両断したモノをこの盗賊たちの頭であるブラディオールは見たことがなかった。

 あの剣に秘密があるのかと、臭い息を吐きながらギラリとした目で盗賊らしい観察眼を向ける。

 斬られた部下になど目もくれず、欲望を優先させる豪胆は彼をここまでのさばらせた悪意ある英気だ。

 だからと言って、自制できるほど盗賊の心情はそんなに優しくはない。


 「やるじゃないか、白黒。女みたいななりをして」


 ブラディオールは肩に担いだ刀を一直線にクラウンに向ける。

 片手で持つにはあまりに異様な長剣、大太刀。 

 腕を認めないわけではない。だが、とこのブラディオールは大太刀を先ほど仲間を逃がそうとしたアルテののど先に突きつけた。

 その切れ味はいうまでもないのか、アルテはのどに突きつけられた大太刀に自分の最後を覚悟する。

 未だ晒されたままの胸元は、緊張のせいか激しく上下していた。


 「こうすると動けまい?」


 だが、予想に反して、クラウンの態度は変わらない。

 斬った漆黒の刀剣を右手に滴る血は一刀横に振ることで飛ばし、鞘に刀を納める。

 あまりにも自然に、あまりにも当たり前のように刀を納め自然体でクラウンは廻りにいる男たちを一瞥する。


 「本当に盗賊の鏡だな、あんた。」


 「そういうな、照れるじゃねぇか」


 動けば斬る、という簡単な暗示に偽りはない。

 後ろに守る少女は、事の成り行きを静かに見ている。

 恐怖はないのか、震えが止まっているその少女にクラウンは薄い笑みを浮かべた。

 ブラディオールのほうは、突きつけた大太刀を引かず、ただクラウンを一方的に見て薄い笑みを浮かべていることに気がついた。

 この多勢に無勢、人数でこれほど上回り、人質と足手まといすらいる状況。

 その状況で薄笑みを浮かべるのは、どんな奇知外かブラディオールは笑いながらクラウンにいった。


 「オイオイ、笑っている余裕があるのか?俺たちゃぁ…これから、宴の前菜を片付けるつもりだぜ?」


 「そういうな、前菜にも時間をかけるのは消化するのにいいことだぞ」


 軽口をいう余裕もあるのかとブラディオールの視線はきつくなるばかりだった。

 見上げの少女を受け取りそこね、尚且つ、摘み食いを許し、あまつさえこの男の技の冴えは要らぬ不満と敵愾心をあおる一方だった。

 だから、状況を自分に戻すために下種を要するのは盗賊の常だった。


 「オイ、クライド。その女を犯せ」


 アルテを捕まえていた若者クライドは、後ろ手に拘束している腕とは違う、抱いて拘束していた腕を無造作に動かして命令どおりにアルテを犯そうとした。

 嫌な感触が彼女に伝わる。頬をクライドが舐めその気色の悪い感触にアルテは震える。

 拘束していた腕が彼女の下半身に向かう寸前、大きな声がその場に響いた。


 「しゃがめぇぇぇぇぇっ」


 アルテは突きつけられた大太刀も無視して言われるがままに身をかがめた。

 そうすることで、拘束していた男クライドも上半身が引き寄せられ前のめりになった。


 それと同時にザッと何かが彼女の上を駆け抜けた。


 その答えは、手が緩められ、拘束を解かれた彼女が前のめりに抜け出したことで果たされた。

 ことりと、頭が落ちた。

 先ほどまで、自分を拘束し犯そうとしていた男の成れの果て、手足に力が無くなったのか噴出す血に濡れる体だけがその場に有った。

 

 そしていつの間にか、鞘から漆黒の刀剣が抜かれて、振り切った姿勢で右足を大きく出したクラウンの姿があった。


 「外道が、死にさらせ」


 あくまでその視線の先には、ブラディオールがいる。

 先ほどまでの温厚な瞳はすでにない。

 睨み付ける黄金の瞳は、すでに敵を射抜き動くことを禁じている。

 彼は怒っていた。先ほどもアルテは彼に襲われる寸前を助けられているから分った。

 彼には女性に対しての暴虐に対して、酷く毛嫌いしていると見て取れた。

 だからだろうか、彼女は先ほど抱いた彼への冒涜とも取れる危機感に頭を下げる思いだった。

 そして、紳士に願ってしまう。この状況を救ってくれることを敵と見定め、逃げようとした彼女でも救ってくれるのかと


 「大丈夫か?安心しろお前たち女は俺の所有物だ。誰にもやらないし誰にも()がさせはしない」


 逃げ出し彼の前に移動した。

 独善的な言葉を吐いて掬い取ってくれた手は暖かい。

 血で濡れて、黒い装束も返り血で少し濡れているが、その上にある表情に敵に向けた殺意はない。

 彼女もようやく理解した。一方的に助けられることもあるのだなと。

 現状は3人殺しても変わっていない。

 周りには有象無象の盗賊30人弱、拘束されている女性もそのまま。

 だが、一向に彼らの動く気配がない。

 代表して言葉をつむいだのは、やはりかブラディオールだった。


 「お、おまえ、やりやがったなぁ」


 対等ぐらいに思っていた心情がもろくも崩れ去った。

 この男の剣筋は全く見えない。そしてあの芸当は次元が違うとグラディオールは気づいた。


 幾多も猛者を相手に片手どった故の(ツワモノ)だからこそ、この男がやった芸当に斬風を飛ばして斬殺したあの芸当に一目置かぬ訳がなかった。


 理解有るものは手を止めているし、微動だにしない。

 分らない愚者でも今の芸当が生半なものではないと本能で感じ取る。

 故に全員が硬直した。

 そこで一言言ってのけたのは、盗賊の頭であるブラディオールのみ

 苦笑を押し殺し、無表情にクラウンはその刀剣をゆっくりと向けた。


 「この場に選択は二つだ。盗賊をやめ罪を償う贖罪人になるか、それとも俺に殺されるかだ。」


 クラウンの言い分に一つの慈悲はない。

 何故ならその回答を選ぶことを許していない。

 選択は二つといい、贖罪人として余生を送るという無理な選択肢はどうせ盗賊に当てはまらない。

 だからこの場合、ただ殺すといっているのに等しい。

 それ故か、盗賊たちの行動は分りやすかった。


 「や、やっちまえぇぇぇぇぇぇっ!!」


 場はすでにクラウンが支配した。

 後ろ出に繰り出してきた斬撃はその指先で受け止められた。

 後ろも見ず、漆黒の刀剣が反射する光もなく振られた。斬りかかった男の頭が胴から離れた。

 正面からは三人。

 勢いよく、同時に三方向からの刺突、上に逃げる事はたやすいが彼は場にあわすに納刀しこしだめに構え一気に引き抜く。

 スパンっと空気が勢いよく音を発する。


 横一線それが走った。 


 胴体がゆっくりと傾き、下半身だけ走ってくるさまは奇妙を通り越し異様だったが力なく場違いなところで力尽き倒れた。

 三人同時に斬殺し、それからは一方的な殺劇の始まりだった。

 逃げることをクラウンが許さない。

 斬り殺していく様は、見ようによってはもう勝敗が決まっている芝居だ。

 女を盾にしようとした者は、それをした時点で終わりだった。

 あるものは首を両断、またある者は両手、両足ともに切り取られた。

 その死神とも言うべき惨劇は、最後の1人を残して終幕を迎えた。


 「オ、オマエハ、何者だ。」


 それは純粋な問いだった。

 死を覚悟したもののそれで、行き着けば諦めの遺言。

 だから、発する言葉には死に対する己が意味合いを問う。

 自分は何に殺されるのか、ただそれを知りたいが故に



 「俺は、……だ。」


 それがブラディオールが聞いた最後の言葉だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ