ミケは人間を保護している
猫の視点に立つと、日常はまったく別の形をして見える。
ミケは窓枠の上から、人間を観察していた。
名前はミケというが、自分ではそう思っていない。
ただ、あの二本足の生きものたちが喉の奥でそう鳴くので、
それが自分を呼ぶ合図なのだと学習しただけだ。
今日も大柄な個体――雄の成体で、顔の下に無駄な毛を生やしている――が、
ソファに寝転んで光る板を眺めている。
あれはいったい、何の狩りなのだろう。
獲物を追うわけでもなく、毎晩同じ姿勢で固まっている。実に効率が悪い。
ミケはひとつの結論を持っていた。
人間とは、発達が著しく遅れた同族である。
証拠はいくらでもある。
まず彼らは、挨拶のときに鼻と鼻を近づけない。これは深刻な社会的欠陥だ。
また、縄張りの匂いづけを一切しない。
どうやって自分の領域を主張しているのか謎である。
おまけに高いところへ登ろうともしない。これでは視野が確保できない。
危機管理能力の低さは明白だった。
それでも、ミケは彼らに多少の情を感じていた。
なにしろ彼らは、不完全なりに必死なのだ。
毎朝決まった時間に起き上がり、体を大きな布で包んで外へ出ていく。
帰ってくるときはたいてい、ひどく消耗した顔をしている。
それでも、この洞穴を離れない。
彼らなりに縄張りを守っているのだろう。やり方は下手くそだが、
本能の火はまだ消えていない。
雌の成体が、ミケに近づいてきた。
膝の上に手を差し出してくる。
あの仕草の意味は、長年の観察で把握している。
――乗ってもよい。
服従のサインだ。
この個体は、ミケの機嫌をよく読む。なかなか見込みがある。
ミケは品定めするように、たっぷり間を置いてから、膝の上へ飛び乗った。
人間の膝は温かい。
体温の高さだけは認めてやる。暖を取る器官としては、彼らは極めて優秀だ。
「かわいいね」
雌が言った。
ミケは目を細めた。
あの喉音は、おそらく、なだめるときの声だ。子に使う声と同じ音域。
つまり彼女は今、ミケを幼い個体だと思っている。
まったく逆だというのに。
保護しているのはこちらだ。
毎晩、窓の外を見張る。不審な音があれば耳を澄まし、
この住処に危険がないか点検する。
彼らは、それすら気づかない。
自分たちが守られているとも知らず、「かわいいね」などと言っている。
ミケは喉を鳴らした。
怒る気にはなれなかった。
そもそも彼らには、ミケほどの認知能力がないのだ。
仕方のないことである。多くを求めるのは酷というものだ。
そのとき、雄の成体がソファから長い手を伸ばし、
ミケの耳の後ろを深く掻いた。
そこは、決定的なツボだった。
ミケは意に反して、さらに強く喉を鳴らした。
抗えず、目を閉じる。
――まあ、欠点は多々あっても、一緒にいて悪くはない同族だ。
そう結論を寛大に修正しながら、ミケは夜の番を一時休止することにした。
身近な猫のまなざしが少し違って見えたなら嬉しいです。




