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婚約破棄の通知を書いていた王宮書記ですが、百通目の宛名が私でしたので、原本を読み上げます  作者: 銀細工ナギ


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10/20

白い封筒

クララが書庫へ来たのを境に、返信は次々届いた。


監察院の封筒を手にした女性が、午後の北塔を一人、また一人と訪れる。来られない人からは、証言書、婚約者からの手紙、脅しを受けた際の覚書が届いた。過去に公示された罪の言葉は似通っていたが、その内側にあった人生は、当然ながら一つとして同じではなかった。


アイナ・ベルク嬢は、現在療養中のため代理で母親が来た。公示では「浪費により婚家の財産を危うくした」とされている。


「娘が買ったと咎められた宝石は、婚約者が贈った品でした」


母親は、青い小箱を開いた。婚約者からの贈答目録と、返却を拒否された記録が入っている。


「贈った品の価格を膨らませ、浪費したことにされたのです。娘は外へ出られなくなりました」


エルマ・ラウ嬢は、背を真っ直ぐ伸ばして訪れた。彼女は学院を首席で卒業し、商務府への採用が決まった途端、「家庭を顧みない野心家」として婚約を解消されていた。


「元婚約者は私の織物工房との契約だけを欲しがりました。妻が官吏になるのは恥だと申しましたが、工房の利益を受け取るのは恥ではなかったようです」


その苦笑の後ろに、何度も怒ることを諦めた人の疲れがあった。


すべての証言を私が直接取ることは避け、エドガー殿下が監察官二名を付けた。私は原本番号と公示文、証言が対応するよう整理するだけに徹した。それでも、被通知人たちは私の机へ立ち寄った。


「あなたが、あの文字を書いたのですね」


責める声もあった。顔を見たくないと、別室でのみ話す人もいた。


私はすべてを受け止めたとは言えない。書類を整理しながら、何度も手が止まった。眠気ではなく、息をするのが苦しくなったからだ。


一人の女性は、証言を終えた後で提出を取り消したいと言った。夫にも子にも、かつて婚約を破棄された理由を知られたくないという。


「もちろんです。お預かりした写しも、審理提出前に返却します」


そう答えると、彼女は驚いたように私を見た。


「話さなければ、また黙ったことにされるかと思いました」


「話さないことと、嘘に同意することは違います。原本の印は、あなたの証言がなくとも調査します」


彼女は提出を取り消し、それでも去り際に深く頭を下げた。声を上げる勇気だけでなく、声を上げない自由も守らなければ、また誰かの都合で人を使うことになる。


夕刻、エドガー殿下が温かい茶を置いた。


「飲まなければ、明日の照合前に倒れる」


「ありがとうございます。ただ、飲む資格があるのかと思ってしまって」


「茶に資格は要らない」


「そういう意味では」


「分かっている」


殿下は向かいの席へ座った。王弟が筆写室の粗末な椅子に座る姿に、今では誰も驚かなくなっている。


「君が書かなければ、別の書記が書いた。制度が、原本を疑う入口を被通知人へ知らせず、申請人の権威だけを公示に載せていた。その制度を使った者の罪を、君一人が引き受けてはならない」


「ですが、私はアルバート殿下を知っているつもりでした」


「私も兄を知っているつもりだった」


彼の横顔に、初めて個人的な痛みが見えた。


「幼い頃、兄は誰より明るく、誰より王に向いていると言われた。私もそう思っていた。兄の慈善を疑う資料を見ても、成果を急ぐための不備だと考えた。王になる人間の小さな瑕疵を、弟が騒ぐべきではないと」


「殿下も、ご自分を責めておられるのですね」


「責めて仕事が進むならいくらでも責めるが、進まない。だから証拠にする」


その答えが、私には救いだった。


ミーナが証言一覧を数える。


「出席してくださる方が十一名、書面証言が九名。第八十二号のベアトリス・ネル様だけ、所在が確認できません」


二十一通のうち二十人分が揃った。それは十分な数だったはずなのに、一つの空欄が気になった。


「ベアトリス様の公示理由は?」


「元婚約者の弟との不義、です。解消後、家から勘当され、王都を離れた記録があります」


私は唇を噛んだ。その罪の言葉は、私の第百号と似ている。


「彼女の名も、照合で読み上げます。本人がいなくても、偽造の疑いがある原本として停止を求めます」


「ああ」


エドガー殿下が署名をしたとき、衛士が一枚の書類を持ち込んだ。


「印璽局より緊急回答です」


欠けた白百合印は王族の登録印に存在しない。さらに昨年、王太子府の経費で、白百合を模した金具の製造依頼があった。発注者は、王太子付き侍従長。


証言と偽印と金の流れが、一つの卓上で繋がった。


その夜、私は照合で読むべき順番を整えた。


最初に読むのは、私自身の第百号だ。誰かを盾にして始めるわけにはいかなかった。


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