第12話 暗く染まる炎
場所を移し、ひと気のない平原。イテル村から少し離れた場所だ。
「砲を構えてくれ」
後ろに立つカリスに言われるがままに構える。右手をグリップに、左手を砲身に。
「……もう一度、スピリトを試してはくれないか?」
炸裂のイメージを。だが、吹き飛ぶ瞬間のジジイの顔がよぎる。手が震え始めたのを感じた。
「……やっぱりダメだ」
彼女は小さくため息をついた。
「そうか。……わかった、教えよう」
俺にかぶさるように砲に手をそえる。小さな声で囁いた。
「キミが恐れているのは何だ?」
正直に答える。
「……ジジイが、俺が世話になってた村長が死ぬ瞬間を見た。あの力を使うのが、怖い」
我ながら矛盾している。
「力が欲しいのにかい?」
「ああ。あいつらを殺してやりたいのに」
「……その怒りであり憎悪。黒甲冑を殺すのに、それは立派で正当な理由だ。何一つ間違ってはいない」
「……正しいのか?」
俺は迷っていたのか? あいつらに復讐をとあれほど思っていたのに。
「ああ、正しい。その殺意で、迷いを吹き飛ばしてやれ。キミならそれができる。憎い奴を、殺してしまえ」
頭に浮かぶ恐怖が、ジジイの姿が、どす黒く染まっていく。心を支配したのは恐怖でも悲しみでもなく、怒りと殺意だった。
「……なんのせいでジジイは、村のみんなは死ななきゃならなかったんだ?」
「黒甲冑どものせいだ。彼らは何一つ悪いことはしていない」
「……くそ、くそ!!」
砲にソウルが集まるのを感じる。あとは心のトリガーを引くだけ。
ジジイの最期の姿。だが俺にはジジイではなく、ジジイを殺した黒甲冑の姿しか目に入らなかった。
炸裂した。広がるのは、紅く、そして暗い色の炎。
眼前の数メートルが焼き払われ、焦げた土色をあらわにしていた。
「アルマ……!」
ミコトが息をのんだ。
「こ、これ、俺がやったのか?」
「ああ、キミのスピリトだ」
「やった! 俺にもスピリトが使えたんだ!」
帳を外したように、感情が一気に晴れやかになっていく。これで、奴らを。
灰の臭いが広がる中、カリスが俺の肩に手を置いた。
「おめでとう。だが、これを使う精神はいずれキミを蝕む。力の善悪ではない。復讐の是非でもない。光でも闇でもない。それでも、それを振るうキミの心は暗く飲まれていくだろう」
手を放し、一息ついた。
「これは“仮の力”だ。スピリトの鍛錬は忘れないでくれよ? この炎が真に紅く染まるその時まで、だ。これがさっき言った、私の言いつけ」
わかってる。でも、俺もこれでスピリターだ。
「ありがとうカリス! ……これで、少し強くなれた」
「本当にわかってるのかな。ところで、アルマ君はスピリターの資格は持ってるのかい?」
そういえば。
「も、持ってない、……です」
彼女はため息をつくと、仕方ないと一言。
「私が申請しておこう。そもそもほとんど形だけのモノだし、私はこれでも派遣騎士団を任せられるだけの立場だからね。今日はスピリトの訓練をしていてくれ。暗くなったら宿に帰るように」
それだけ言うと、彼女は村の方へ帰っていった。各地の村に備え付けてある伝書バト局に向かうのだろう。




