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二日目の朝と沈黙の犠牲者

 朝。

 選定の館に差し込む日差しは、どこか冷たかった。


 セリスは鏡の前でドレスを整えながら、胸に手を当てた。

 ユリウスの正体が“人狼”だったとわかっても、気持ちは晴れなかった。

 彼の最後の視線が、脳裏にこびりついて離れない。


(あれは……怒り? 悔しさ? それとも……警告?)


 そんな思案の中、ノックの音が響く。


「……入って」

 扉を開けたのは、レオンだった。


「昨夜は……よくやったな」

 彼は目を逸らしながら、ぎこちなく言った。


「初日に人狼を見抜いたのは、たいしたものだ。素直に、尊敬する」


「ありがとう……でも、手が震えたの。怖かった」


 そう言うと、レオンの表情が一瞬だけ崩れた。

 彼はゆっくりと、セリスの前にひざをつき、静かに頭を下げた。


「……すまない。こんな場所に、君を巻き込んで」


「レオン……?」


「君が俺たちの中から“未来の王配”を選ばなければならないってこと、よく分かってる。

 だが、俺は……もし君が望むなら、護りたいと思っている。恋の駒としてじゃなく、“一人の剣”として」


 セリスの胸が、一瞬熱くなった。


 そのとき、突然遠くで鐘の音が鳴る。

 “犠牲者”の知らせだった。


死の報せ

 皆が大広間に集められる。

 神官が神妙な面持ちで告げた。


「……今朝、館の中庭でダリル侯爵が、亡骸となって発見されました」


 驚きと悲鳴が広がる。


「身体には獣に裂かれた跡。間違いなく、人狼の仕業です」


 セリスは口を押さえた。


(私があのとき、ダリル侯を告発していたら……彼は無実なのに、処刑されていた……)


 正しい選択が命を救い、間違った沈黙が命を奪う。

 この儀式は、恋愛ではなく、生き残りの裁判だった。


見え始める“仮面”

 再び、候補者たちの間に疑念が広がる。

 とくに、沈黙を貫いていた錬金術師クロードの動向に、数人が注目し始めていた。


「お前、ほとんど誰とも話していない。怪しいぞ」

 ロッシュが詰め寄る。


 クロードは淡々と答えた。


「僕は“論理”に基づいて動くだけだ。感情に振り回されるほうが危険だと判断している」


 セリスは、前夜に“彼が人間である”と知っていたため、擁護に入ろうとした。

 だがそのとき、クロードが彼女を見て、かすかに微笑んだ。


「安心しろ。少なくとも、君がこの中で“いちばん冷静でいる”ことは、僕が保証する」


 彼もまた、セリスの力に気づいている――そんな気がした。

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