仮面の微笑みと告発の刃
「……私は、ユリウスを疑っています」
セリスの声が響いた瞬間、部屋の空気が凍りついた。
ユリウス・ヴェルディアは、目を見開いたあと――すぐに、いつものように微笑んだ。
「ええっ、俺? なんでまた……こんなに誠実なのに」
軽口を叩きながらも、その声にいつもの余裕はなかった。
「理由は?」
レオンが問う。
セリスは静かに目を伏せた。
「初日に、私に最初に近づいてきた。
まるで“信頼させよう”としてるように思えたの。
それに……私が“真実を見る力を持ってる”と知っているはずなのに、警戒心がなさすぎた。
それって、自分が『疑われるわけがない』と思ってるように感じたのよ」
「……観察眼が鋭いね」
クロードが小さくつぶやいた。
話し合いはやがて“投票”へと移る。
全員が“疑わしき者”に札を投じる儀式。
そして──
投票結果:ユリウス 5票(追放)
神官が立ち上がり、厳かに告げる。
「ユリウス・ヴェルディア。あなたは今宵、この館を去る運命にあります。
その正体は──」
沈黙が流れる。全員が息をのむ中、ユリウスが笑った。
「……くそ。やっぱバレたか」
次の瞬間──彼の身体がぐにゃりと歪む。
肉が裂け、骨が軋む音。
口が裂け、目が赤く染まる。
「ガアァァアアアア──ッ!!」
人狼の本性が暴かれた。
セリスは震える唇を押さえた。
目の前で、たしかに人が獣に変わった。
これが、“告発”の結果。
「やるじゃないか、セリス嬢」
ロッシュが肩を叩く。
「見事に一匹、仕留めたな」
だが、セリスの心は晴れなかった。
ユリウスの最後の笑みには、まだ“何か”が残っていた気がする。
まるで──他にも獣が潜んでいると、言いたげな目だった。
続く影
その夜、セリスは眠れずにいた。
(……これで、あと2人)
だが、これからさらに疑心は深まり、
“恋”と“死”の選択は、さらに困難になっていく。
扉の外。誰かがそっと、彼女の部屋を見つめていた。
その瞳は、月の光に赤く染まっていた──。