一日目の夜と最初の疑い
夜になると、選定の館は一変する。昼の穏やかさは消え、廊下に灯された燭台が、怪しげに影を揺らす。
月が満ちるたびに、“狼”の気配は色濃くなる。
セリスは選定の間──丸い議会の間に呼び出された。
彼女を囲むようにして9人の候補者が集まっている。
「この部屋で、夜の“審問”を行います」
神官が言う。
「人狼は今宵、人間を一人襲撃します。そして、皆さまには**“本日一名の容疑者を告発し、追放する”**権利があります。
だが、間違えれば……罪なき者を死に追いやることにもなる」
言葉が冷たく突き刺さる。
「あなたは“オラクル”──日ごとに一人の真実を見ることができます」
「……ただし、“真実”がすべてを救うとは限りません」
セリスは沈黙したままうなずいた。
そして今宵、彼女が“視た”のは――
クロード・バルザックは……人間。
(……彼は、敵ではない)
だがそれを皆に伝えるわけにはいかない。
このゲームにおいて、「誰を信じるか」は命取りになり得る。
告発の時間
話し合いが始まった。
「妙だったのは、ダリル侯だろ」
筋骨隆々とした騎士、ロッシュが声を上げた。
「一日中セリス嬢を見張ってた。守ってるふりして、様子を探ってたんじゃねえのか?」
ダリル侯は眉をひそめる。
「それは誤解だ。私はただ彼女の安全を──」
「いや、妙に落ち着きすぎてる」
今度はユリウスが割って入る。
「初日だってのに、あんた“誰も疑ってない”って言ってたよな。まるで、正体を知ってるみたいにね」
騒然とする室内。
その中、セリスは思案する。
(今は、彼が人狼かどうか分からない。でも……最初の告発で、流れが決まってしまう)
「セリス様」
レオンが静かに言った。
「……誰に、疑いの声を向けますか?」
全員の視線が彼女に注がれた。