観客の需要
現代に生きる二人の恋人が今日も今日とてテレビに向かう。
「はい! それじゃ、お互いにタイトル挙げていこう! まずあなたから!」
「はいはい」
そう言われて男性は持っていたメモを取り出す。
そこには幾つもの映画やドラマのタイトルが書かれており、男性はそれを読み上げていく。
「これで全部だ。6タイトル。君は?」
「被ったのが二つあったかな。それ以外は大丈夫。こっちも読むね」
そう言って女性の方も持っていたメモを読み上げる。
「あっ、それ選んだんだ。僕も気になっていたんだ」
「そうなの? それじゃ、これからいく?」
「いいね。それじゃ、ジュースとポップコーン用意する」
「ありがと! 私はクッションのふかふか具合確かめる」
「ふざけんな。手伝え」
そんな軽口を言いながら二人は準備を終えると、奮発して購入した大きなテレビの前に座り借りてきた映画を見始める。
それは政敵でありながらも奇妙な友情を抱き、最終的には吸血鬼となって不老不死となる恋人の物語だった。
映画らしく起承転結が整っており、最後には二人は永遠の愛を誓ってハッピーエンドとなって終わった。
「うーん……」
男性は不満そうな顔をする。
「あまり求めているものじゃなかったな」
「そうね。と言うか、脚色され過ぎじゃない?」
「映画ってそういうもんだろ」
「それもそっか。それで次のは?」
二人は流れ続けるスタッフロールを早々に打ち消して次の映画を見始める。
次の映画はSF映画でひょんなことから不老不死となってしまい永遠の孤独を生きる青年の物語。
彼は宇宙を旅しながら自分と同じ存在を探すが遂には見つからず、孤独のまま見知らぬ星を歩き去って終わった。
「うっわ、最悪。長々とやった末にこれからも続く系のオチじゃん」
「そうだな……まぁ、そんなオチにしか繋げられない構成だったけど」
二人はそう言って次の映画を見る。
「げっ、この監督ってクソ映画連発することで有名じゃん……こんなのまで借りてきたの?」
女性の言葉に男性は頷く。
「もういっそと思ってな。案外得るものはあるかもしれないよ?」
「ないと思うなぁ……なんか賭ける?」
「それじゃあ、僕は何も無い方にかける」
「はぁ!? ふざけないでよ! 私もそっちに賭ける!」
そんなことを話し合いながら映画が始まる。
その映画は目も当てられない出来で、不老不死の男が終始脈絡もなく登場する化け物を千切っては投げ、千切っては投げ……。
「最悪……」
「そうだな……」
げっそりしながら二人は映画を消す。
休日が終わるまでもう少し時間はあったが、二人はとてもではないがもう一本の映画を見るつもりにはなれなかった。
「今日はもう終わりにしよっか」
「あぁ。ごめん。こんなの借りてきちゃって……」
「いや、いいよ……と言うか、私達馬鹿みたいね。こんな映画で何か物を賭けようとしていたなんて……」
二人で大きくため息をつきながらソファにどっと身を預ける。
晩御飯を作る気力がどうにもわかない。
そんなことを考えていると女性の方が男性にもたれ掛かる。
「何というか、映画監督って観客の求めているものを理解していないんだな~って思っちゃうよね」
「そうか?」
「うん。だってさ。私達はもう永遠の愛だとか、永遠に続く旅だとかもうとっくに受け入れているというか、前提としているじゃん? それなのに……」
「うーん……多分だけどさ」
「多分だけど?」
男性は女性の髪の毛を撫でる。
遥か昔からしてきたことを。
今日もまた繰り返す。
そして、ぽつりと呟く。
「監督もまさか不老不死の人間がいずれ来る将来の参考のために自分の映画を見られるなんて想像していないんじゃないかな……」
「そんなこと言っちゃおしまいじゃない」
数千年を共に生きているパートナーの言葉を聞いて女性はクスクスと笑い、男性もまたいつものように彼女を見つめながら微笑んでいた。
「それじゃ、残った映画はまた来週ってことで」
運命を考えればあまりにも平凡な会話をしながら、彼らは今日もまた無限に続いていく人生の最初の一日を終えたのだった。