68話 万事解決の次は悪徳貴族
「リラ、テオ……これ、夢じゃないんだよな? お前たち、お貴族様に手ぇ出しちまったのに――こんな、こんな……!」
遠巻きながらもぼろをまとった何人かの大人――っていっても大きくて15とかなんだろう、まぁこの世界の実質的な成人年齢は前世での小学校卒業時くらいらしいし――が、恐る恐るで2人に声をかけたりしている。
「さぁ?」
「それ、俺たちに聞くのか……いや、そう思ってるけどさぁ……」
……この子たち、少なくとも好かれてはいるんだろうな。
ああ、病気の子たちを養ってるって……あれ?
……確かサブヒロインのイベントで「孤児院の資金難を改善せよ」的なのがあったのが。
もしや、リラちゃん――この子やっぱ絶対貴族の養子にして学園に入れないとまずいな、さりげなくいろんなイベントで主人公くんを強化してくれるっぽいし。
「兄貴? もう起きて良いか? いい加減、デコいてぇんだけど」
「……くれぐれも失礼を……しない意識でな。あのお方はお貴族様だから」
「はーい。痛いって思ったら小石めり込んでるし……」
真っ赤なおでこがかわいいリラちゃん。
そのかわいさは、たとえ孤児でちょっとくちゃくてもすでに片鱗がある。
しかしリラちゃん、この鋼メンタル――いや、単に分かってないだけか。
でもその性格は嫌いじゃないよ。
へこたれないあたりはエミリーちゃんと仲良くなれそうだもんね。
きっと君ならエミリーちゃんのドジスキルでも大丈夫だろう。
その敏捷系のスキルで、無事デコイとか回避盾にでもなってね。
兄妹は僕を――呆然とって感じで、座りながら見上げてきている。
――ざっ。
そんな彼らの前に、1人のおじさんが。
……誰?
「……こんな生まれだから、礼儀とか知らなくて済まん……ああいや、申し訳ない……ええと、お嬢様」
「構いませんが」
おじさん誰?
「俺は……いや、私は……で良いのか? ……こいつらを赤ん坊のときから面倒を見てきた者だ……です。寛大な処置を……えーと」
おや、保護者的な人だったか。
孤児たちの中にも良い人が居るんだね。
「気にしないでください。……リラ」
「な、何だ姉御!?」
姉御って何?
「……まずは、盗んだものを返してください」
「う、うんっ! ……パチってごめん」
「許します」
デコの下のおめめをばつの悪そうに背けながら、そっと――よし。
――おじいちゃんのお財布とかお家の印籠的なやつとか、奪還!
一応目は離してなかったけども、中身を抜かれたりはしてないみたい。
まぁ最悪お金は良いとして、家紋のやつだけは絶対ダメだったからなぁ。
本当はもっと早く取り返したかったんだよ?
だけども、この群衆の前でこの子に手を伸ばしたりしたら暴発しそうだったし。
さっきまでは殺気がすごかったからなぁ……。
「目的のものは、壊されたり――あなたたちに奪われることなく、取り返しました。そして使用人として酷使すると宣言しました」
「……酷使……?」
「……さっきのが、酷使……?」
1日8時間の労働ってのは、本来の意味合いでは「1日8時間とかひどすぎるから、その範囲内で働かせてね!」っていう法律だったはず。
その上限目いっぱいまで――しかもリラちゃんは7歳、テオ君も似たような子供を働かせるんだ。
……もっと減らすべきだったかな?
こういうのって最初に決めちゃうと何十年でも尾を引くからね。
「……契約を変更した方が?」
「い、いや! いざとなったら俺が代わりたいくらいに――ごほん、とにかくみんな、あの条件で納得はしている! な、なぁ!?」
「え? ……その……」
「正直羨ましいけど、次があるとは……」
「踏まれたい……」
「お前……」
ふむ?
ギャラリーに尋ねているようだけども、特に怒ってる様子はないし……まぁいっか。
「よく分かんねぇけど、あたしたち、お嬢さまんとこで働けば許してくれるんだよな?」
「はい。詳細は後でお兄さんに聞いてくださいね」
「あい!」
お手々をぴっと挙げて、もう笑顔に戻っている――考えないようにしたともいえるリラちゃん。
もうすっかり僕への警戒は解き、なんなら見えない尻尾を振っている。
うん、ちょろ――素直で元気な子は好感が持てるよ。
この子、ゲームでもこんな感じだった気がしてきたね。
「まさか、なぁ……」
「正直信じられない……が、信じるしか……」
「優しい貴族様とか、居るんだな」
「バカ、この方が特別なんだ」
「こんな人がこの町にずっと居てくれたら良いのになぁ……だってよ、『あいつら』は貴族ってのをカサに人攫いを……」
「あ、馬鹿、睨まれたいのか!」
――――――悪徳貴族。
事もあろうか、この領を守るデュクロワ家――そのお膝元どころじゃない場所で狼藉を働いているという、こっちこそ不敬極まる存在。
「……話してください」
「え!? い、いや、でも――」
「――私が、話せと言っているのです」
ずいっ。
僕は、悪い人の情報を知ってるっぽい青年へ、背伸びをしてでもガンをつける。
「………………………………」
びっくりした顔で僕を見つめてきて――怒りからか、顔が真っ赤になった彼。
あ、ごめんね、こういうことしてるから貴族ってだけで革命起こされるんだもんね。
大丈夫、僕はちゃんと分かってる系貴族だから。
「話しなさい。……情報の対価は支払います。これも契約魔法で縛りましょうか?」
「!?」
「い、いや、良い……です! ……あの、実はですね、俺の友達とかなんですけど……」
そうして、僕は聞く。
――スラム街の人々、衛兵にも守ってもらえない人たちが見聞きしている、悪徳貴族の所業を。




