64話 サブヒロインだった
よりにもよって帰る日に、よりにもよって肌身離さなかったものを盗まれた僕。
盗っ人の子にどうにか追いついて――逃げる気をなくさせるためにって最小限の威力、けども見た目が禍々しいジュリオン様の必殺技を放った結果。
「……た、頼む……っ! 俺はどうなっても良い! ど、どんな仕事でもする! 気が済むまで鞭打ちでも奴隷にでもなんでもしてくれ! けど、妹だけは……! リラだけは……!」
さっきの子と親しいらしい少年が、地面に頭を擦りつけながら叫んでくる。
「いえ、その」
「い、いや、あたいが盗んだ! あたいだ! だから兄貴じゃなくて、あたいを連れて行ってくれ……ください! 兄貴は、兄貴は生きててくれないと、病気の仲間たちを養うやつが……!」
「ですから」
「お、俺なら男だから力仕事でもできる!」
「あ、あたいだって! 脚が早いから戦闘の手伝いとか……どんなブツだって、手に入れてやるから!」
「俺が」「あたいが」と譲らない2人。
「まずは落ち着いて」
話を聞いてほしいんだけど……ダメだ、まったく聞いていない。
「ああ、馬鹿な奴……」
「お貴族様に手ぇ出すとか……」
「リラ、テオ……あの2人で満足してくれたら良いが……」
「い、一応逃げる用意はしとこうぜ……私兵とか孤児街に入ってくるかも……」
「………………………………」
ついでに周囲も、まったく聞いていない。
ていうか、僕の声がこの人たちのでかき消されている。
そりゃそうだ、なんかスラム街をうっかり半壊させちゃったらしいし、つまりは僕がそれだけ怒ってるって思われてるんだから。
あと。
「………………………………」
「あ、あたい! ツラだけは良いから、着飾ってくれたら高く売れるかもだし……ま、まだガキだけど、あたいみたいなのを攫って回ってる貴族に売り払えば……!」
「そうさせないためにがんばってきたのに……クソッ」
そう言って――あ、盗んだものを両手に差し出してきてる――けども。
その、女の子の方の顔。
――聞こえてきた「リラ」って名前。
あと、その子の「お兄さん」の情報。
……どうしよう。
サブヒロインになるはずの子――リラちゃんが、居るんだけど……?
◇
「あの銀色の髪……確か王族の血が……」
「さすがに王族の誰かじゃないよな……?」
「まさか、王都からは遠すぎる」
「けどあの雰囲気……お貴族様だろう」
「おい逃げるぞ、反対側の区画に脱出だ」
「あの兄妹はやっちまったんだ、もう無理だ」
「なんだよあれ……スラム街を端っこまで貫通する魔法とかあり得ないだろ……」
「まさかここで人狩りでもやろうっていうのか……?」
考えるあいだにも膨れ上がる人垣。
……どうしよっかなぁこれ……いやほんと。
目の前にはお互いをかばい合う、ぼろを纏ったきちゃない見た目の兄妹――サブヒロインのリラちゃん、そしてそのお兄さん――の、幼少期。
この子たちだけを許すって形にするつもりだったんだけども、ジュリオン様の出力が高すぎて、この有様だ。
――この子たちが、僕――魔法を扱えて、しかも見た目的にも貴族――が、これだけやらかすほど怒るような大切な物を盗んだってのは、もうスラム街の人たちには知れているだろう。
Q.もしここで罪を咎めず見逃したら?
A.「あ、なんだ、貴族って口だけなのか!」って風潮が広まり、ごく稀に発生するジュリオン様の領地そのものが消失するバグ――だったはずの現象に直結する。
僕は返してもらえたらそれで良いんだけども、それで見逃したら――最悪民衆革命とか起きて、父さんたちの遠征中とかに帰還を待たずに屋敷ごと焼き討ち。
んで僕は首ちょんぱ、帰ってきた父さんたちも――制圧するも、王様から爵位剥奪とかそんなんだろう。
まさかのジュリオン様死亡最速RTAなエンドだ。
そんなのはあんまりすぎる。
まさにネーミングとか食べものからして美食の国だ、まさに革命の本場、ギロチンの大活躍する場面だね。
あ、ちなみにギロチンってのは見た目と想像の恐ろしさとは対称的に、ものすごく人道的な処刑道具なんだってね。
ほら、反乱起こされた領主とか貴族とかってば、大抵は民衆の恨み買ってるわけで?
だからこう……好き勝手に投げる蹴るを命絶えるまでとか、死ぬぎりぎりまで痛めつけてからの火あぶりとか……うう怖……ではなく、さくっとやってくれるから。
とにかく、ユーザーのあいだでは「ジュリオン様不在の外れルート」「悪役が存在しなくなるからストーリーが進行せず、悪役から救うはずのどのヒロインも攻略すらできず、なんにもイベントがないままに主人公がモブとして卒業するだけの虚無の周回」「そういうときに限って上振れの乱数とかひどくない?」と呼ばれるパターンに突入すると思われる。
それはまずい。
エミリーちゃんもアメリアちゃんもおいぼれじいさんも使用人たちもひどい目に遭うだろうし……それもダメ。
「はぁ……」
「ほ、ほら、兄貴は逃げて! あたいだけなら……!」
「お前、そんな訳に行くか! 俺が代わりに……!」
スティールのスキル持ちだろう女の子。
そう――「同い年」の子。
髪は短く――スラム街の孤児だし、あの俊足を活かしてスリからの全力逃走してるんだろうし――強気そうで、けども「デコ出しでダークグレーの髪」の女の子。
この歳で、ジュリオン様――しかもダンジョンとぽんこつ魔族に鍛えられてレベルも上がってる僕が全力を出してようやく追いつけるほどの逃げ足を持つ、特殊なスキル持ちの子。
うん、名前も状況も、なにもかも癖の強すぎるサブヒロインのリラちゃん以外に居るはずがないよね……。
それも前衛の斥候職に入れやすい、あくまでパーティーの人数とかレベルの関係で入れる都合の良いヒロインの1人として……うん、周回とかで適当に入れてたときの名前と顔アイコンに、なんとなくで見覚えある気がする。
ゲーム的な都合で、索敵と行動順とドロップ率が上がるからって大抵のユーザーがパーティーに入れてたはずだ。
さて、そんなサブヒロインのリラちゃんと、こんな形で出会ってしまった。
――どうしよう。
この場をうまく収めないと処刑一直線。
でも、そもそもとして孤児出身だったらしい彼女の行動が、これで完全に変わってしまった。
孤児だったはずの彼女が、サブヒロインとして――貴族の子弟が大半を占める学園に登場するはずの、その過程がこの瞬間に壊れた。
つまり?
――僕はこの場をうまく収めつつ、かつ、「この子とお兄さんが本来辿るはずだった道筋」に戻さなければ――10年後、主人公くんの攻略に大きな影響が出てくる。
孤児から――特に思い出せないってことは、10年後までに「普通の貴族子弟として」学園に入る未来に、どうやってか戻さないと。
確か、この子がいないとクリアしにくい――メインヒロインの攻略とダンジョン攻略とボス戦(ジュリオン様戦)ルートも複数あったはず。
だから、
「………………………………」
――うん。
ここはもうジュリオン様ブレインを唸らせ、多少強引でも「何も起きなかった」ことにするしかない……!
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ないないのため、次回の投稿は次週の金曜日です。
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