30話 チンピラさんたちとモブの少女
悪役転生3日目の朝。
「うっぷ……食べすぎましたわ……」
「人生で初めてお腹がいっぱいになったので……」
「申し訳ありません、ユリア様……」
貧乏。
なにもかも貧乏が悪い。
貧乏があるこの世界が悪い。
……あとは昨夜、食べさせすぎた僕も悪いね……ごめんね。
だってほら、泣きながら幸せそうに食べてたから……つい……。
「昨日はダンジョンを案内してもらいましたし、今日は町の中で過ごすことにしますから……横になっていて。あ、今日の生活費は大丈夫ですか?」
「ご心配を……うっぷ」
「さす……ぐふっ」
「わたくしたち、常に2週間分は確保していますの……」
うん……健気すぎるせいで生活力が。
そんなわけで、今日は町の外へは出ないで過ごすことに決めた僕。
モブ子ズはダウンしてるし……あと、3人セットで常に話しかけてくるもんだから、毎日はちょっと疲れるし。
うん……エミリーちゃん×3って感じだからね……同じ女子同士だと思われてるし、事あることにヨイショしてくるからもう小鳥のヒナのごとくに。
ならせめて男って言えば、多少は静かになってくれる――はずだけども、女装ってバレた瞬間に、この世界の宗教的にかなりの人が抵抗を示すはずで、たぶんこの子たちもそうなる。
だからこそ、ジュリオン様の女装メス堕ちエンドが存在したんだから。
……僕の中身は現代生まれで、事あるごとに上の世代から軟弱って叩かれ続けていた世代で、体罰にもならない衝撃でメンタルが崩壊するしSNSでもメンタルが崩壊するし、でも優しくされすぎるとそれはそれでメンタルが崩壊するしで、前世の現代では最もか弱い存在なんだ。
そんな僕が「実は男なんだけど」ってひとこと言っただけで――数秒前まではきらきらした目で見つめてきた子供たちに、害虫が顔の前に飛んできたときみたいな反応をされたら?
たぶんその時点で僕はメス堕ちする。
よわよわな現代人メンタルを舐めるな!
「……とりあえず、簡単な依頼を探してみようかな」
昨夜、食べさせすぎて動けなくなった3人を順番に運んだ宿。
その部屋でグロッキーになってる子たちを介抱した僕は、ひとつ学んだ。
……いくら餓えてる子供が居るからって、いきなり食べさせすぎたらいけないって。
◇
「……こんな朝っぱらからギルドの入り口でたむろして、また脅して回って。ヒマなんですか?」
「あぁ゛!? ガキが、何を――――――あっ」
「み゜っ」
「あ、あの嬢ちゃんか……だ、大丈夫だ、フードは上げなくて!」
「? そうですか」
豪華な造りのギルドハウス、その入り口。
もしかしてって思ったら、やっぱり居たあのチンピラさんっぽい人たち。
てっきり僕のことなんか忘れてるって思ったら、どうやら覚えていたらしい。
「朝っぱらからお酒も呑んで……別に歳も行ってないのに。健康な体で、気心の知れた友人と一緒なのに、遊び歩いて。親御さんは何と言ってるんですか?」
「かふっ」
「ひゅっ」
「ち、違う! 俺たちは夕方から夜の依頼が多いんだ!」
「あ、そうですか」
なるほど、夜勤――ではないけど、夜シフト。
町の中のいろんな依頼があるんなら、そういうのもあるんだろう。
「いつも、お疲れ様です」
僕は、自慢じゃないけどメンタルが弱い前世だった記憶がある。
昼夜逆転とかは最初は楽しいけど、そのうちだんだんいろいろおかしくなってって、気がついたらメンタルが崩壊してるんだ。
……あれ?
もしかして前世の死因って……いやいや。
いやいやいや。
「多くの人が苦手とするお仕事をする人が居るから、国――この町が回っているのです。感謝を」
僕は深々と頭を――あれ、なんで僕、カーテシーしてるの?
それも、昨日3人娘がしていたみたいに、わりと見事な。
あと口調もやっぱちょっと変になってるし。
「 」
「うぅ……こんな、こんな感謝をされたこと……!」
「嬢ちゃん……お前、いいやつ……いや、良い人だな……!」
静かに脚を戻すと……なんかお酒がツボにでも入ったのか、顔を腕で拭っているお兄さんたち。
「? あ、それよりも」
僕は――ここに入る前に絡まれてたっぽい子供へ、目を向ける。
「ひっ……」
「この子のこと。虐めて――ましたか?」
――悪い人たちではないと思いたかったから見逃したけども。
もし、子供すら食い物にする悪い人たちなら――――――――
「ち、違う! 俺たちはただ!」
「紹介状だけ持って農村から出てきたガキみたいだから、この世界の厳しさをだな!」
「紹介状……あー」
僕は、彼女を見る。
――おどおどびくびくと体をすぼめている、つぎはぎだらけのシャツにズボン。
ショートカットの、ぼさぼさの髪の毛。
栗色に近い、目立たない髪質。
そして前髪が目を隠すほどの――まるでゲームの中の完全なモブキャラみたいな見た目。
栄養状態の悪そうで、荒れた手足に痩けた頬。
農民の子供。
それも、豊かではないところの。
モブ子ズよりもモブっぽい見た目……だけど、ここは現実だ。
このチンピラさんだって、ちゃんと顔がある。
それなのに、ここまでゲームの画面に映ってた完全なモブみたいなのは逆に新鮮。
ここまでなのは、他に……ああ、あとはいろんなヒロインとくっつく関係で主人公くんが居たっけ、ここまで見事に前髪で表情分からないのって。
うーん……同世代で、この時期はまだ遠い農村で親にこき使われてた設定の主人公くんも、こんな感じなのかな。
そう思うと、将来僕を死に追いやってくる相手でも……ちょっと同情する。
………………………………。
「……冒険者登録は?」
「ひっ……!?」
「……あまり怖がらないで。ほら」
僕は、彼女――彼?に――近づきすぎると顔を真っ青にするから、ちょっとだけ近づいて、その子にだけ見えるようにフードを持ち上げる。
「――――――! わぁ……」
「危害は加えないから。ね?」
ジュリオン様フェイス(幼)は整いすぎるしつり目気味だから、ちょっと威圧感があるかなって感じる。
けども、少なくとも顔の見えない――同世代だとしても――知らない相手から話しかけられるのを怖がっていた少女の口元は、恐怖から一転……よく分からないけども、少なくとも恐怖以外にはなっている印象。
僕はなるべく、人見知りな子供を相手にする感じでコミュニケーションを取ってみる。
「……今朝?それとも昨日?この町に来て……なるほど、衛兵さんに案内されて。そしてこの人たちに絡まれて――え、違う? 怖かったけど、『戦闘適性も分からないのにいきなり戦闘依頼を受けるな』とか言われてた? 『マージンは取るけど手頃なの見繕ってやるよ』って言われてた? そう、ならよかった」
ふむ、なるほど。
どうやらこのヤンキーみたいな人たちは、中世の世界観にしてはお行儀の良いらしく初心者とか余所者に絡んで「おせっかい」を焼く代わりに「手間賃」を巻き上げる程度の小物らしい。
……そこでマージンとか取るのは……いやまぁ、完全なボランティアはそれはそれでうさんくさいし。
利害があるからこそ他人は信用できるんだもんね。
なるほど、そういうのもあるのか。
「 」
「母ちゃん……俺、もっとがんばるよ……」
「受付の嬢ちゃん……俺たち、もう1歩先の難易度の依頼とか、ランク試験とか受けてみたくなったんだが……」
ふと振り返ると、強面のお兄さんたちはもう僕たちに興味を失い、お酒もそのままに受付のカウンターに行っていた。
……なんだ、仕事、する気はあるんじゃん。
今度会ったら謝らないとね。
◆◆◆
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