18話 魔王候補と魔王の右腕がはじめてのだんじょんに出没する事案
「おー……⤴!」
ここがダンジョン……!
「………………………………」
……しょぼい。
いや、知ってたよ?
初心者ダンジョンだもんね……受付嬢さんの説明でも「危険性のないことが確認されているうんたらかんたら」ってあったし。
ちなみにうんたらかんたらはがんばればすらすらと出てくる。
けどもジュリオン様ブレインは高性能でも僕の魂は記憶力並みだから、あんまり仕入れすぎるとパンクしそうだから適度にね。
「おー……⤵」
露骨に下がるテンション。
女の子の声を意識しているからか、異様に可愛い声がまた憎らしい。
「さー、安いよ安いよー! 初心者用品詰め合わせだよー!」
「最新のマップがこのお値段! 初心者にこそ大切だよ!」
「こら、待てー! 泥棒だー!」
「へへっ、お兄さん……町にはまだ居ないかわいい子、居ますぜ……?」
けど、これ……ただの洞窟じゃん……しかも入り口には屋台とかあるし、人も居るし、普通に蚤の市してる人たち居るし……ただのお祭り会場だこれ。
そこここで店主たちの子供とかが走り回ってるし……やっぱお祭りじゃん。
もうちょっと町から離れた場所のダンジョン選べば良かったかなぁ……でもそれだと片道2時間とかで、まだ低レベルジュリオン様ボディだと往復だけで体力使っちゃいそうなんだよなぁ……今日だって1時間くらい歩きのあとで町に入ってきたし……。
馬車?
こんな時間だと乗り合いはもう出てなかったよ。
チャーターの馬車はまだ結構居たけども……ほら、会社負担なら喜んで新幹線に乗るけども、自腹で乗れって言われたら断固拒否したくなるでしょ?
あんな感じで、手持ちはいくらかあっても個人用の馬車には乗りたくなかったんだ。
まぁいいや、とりあえず潜ってみよ……身の危険感じたらあの必殺技もあるし……。
◇
「……ふむ」
「ギャース!!」
「ピギィ!?」
「キュウ……」
「キュヒヒヒ……!」
どうやらジュリオン様ボディのスペックはさすがだったらしい。
……ていうかこれ多分、生まれつきでほとんど訓練もしないでレベルが2とか3になってるっぽい……ほら、チュートリアルでモブ生徒たちをことごとくのしてた悪役貴族ジュリオン様くらいに。
ゲームシステム的に、レベルが1とそれ以上では明らかに強さが変わるからね。
つまり?
「ジュリオン様……いくら天性の才能持ってたからって、学園に入るまで鍛錬とか全くゼロは舐めプしすぎでしょ……」
いや、鍛錬ゼロってわけじゃないのか?
ほら、エミリーちゃん相手に1日数回の折檻――という名目で派手な魔法を威力ほぼゼロにして痛めつけるように見せるっていう、ある意味超高難易度な実践を繰り返してきたわけで。
あれはたぶん、あれでもエミリーちゃんは親戚だし将来の奥さん候補だし、なにより女の子だしで大ケガとかさせちゃいけないって理性が働いてた結果なんだろうって。
で、前世の僕が目覚めなかった場合、ここからさらにゲーム開始まで10年近く毎日ちくちくちくちくと超高度な魔法を超低出力すなわち低魔力でいじめてたはずだから、少なくとも魔法の腕前は向上し続けると。
ただのいじめで強くなるだなんて複雑すぎるけど、実際ゲームでも初期の主人公くんですら1対1でも無理だからなぁ。
完全に敵対するまでジュリオン様と戦って追い払えるのは単純に、ジュリオン様がヘイトを集めまくったおかげで主人公くんと一緒に戦うヒロインたちが居るからだし。
……エミリーちゃん……君、本当にジュリオン様のために健気にも身体張ってたんだねぇ……本当、主君想いだねぇ……ハンカチ、買って帰るからおとなしく待っててねぇ……あ、これ、娘バカな父親の気持ちかも。
んで、実際学園に入ってからも主人公くん以外には無双してたわけだし……努力しないのは分かる気がするな。
だって、ジュリオン様的には「何もしなくても最強」なんだし。
「……とにかくジュリオン様、エミリーちゃんが来てからレベル上げ――はしてなくとも、無自覚でスキル上げはしてた形か。そりゃあ本編開始までにレベルも釣られていくつかまでは上がってるだろうし……モンスター狩りは適度に収めて、町の探索を優先すべきかな」
周囲には――なんかモンスターがやたら出てきたから、数十の魔石が転がっている。
ゲームだと即座に素材とアイテムとお金が手に入ったけども、さすがにそこは現実的な処理になってるらしい。
美人受付嬢さんいわく、魔石の種類とサイズでお金やアイテムと交換できるんだとか。
しかもギルド直営の別の建物で。
だからひとつずつ丁寧に拾って袋に入れていくけども。
「………………………………」
……この三店方式。
まさか……いや、やめておこう……利権に首突っ込むと首だけになるからね、おお怖。
記憶にはないけど前世で死んでいるんだ、危険には極力首突っ込まないようにしないとね。
まぁいざとなれば印籠な紋章出せばなんとかなるけど、それだと正体ばれるし。
じゃ、まだ潜って1時間程度でわりと深いとこまで来たけど、そろそろ引き返そう――
「――誰か助けてくださいましー!!」
お?
これは……まさか、テンプレ……?
今度こそ正統派異世界転生なるか?
よーし、なんか僕、ようやく異世界の実感が出てきてわくわくしてきたぞ!
◇
「うふふふふ……! 成る程ぉ、復活が早まったから予定より弱体化はしているけど、まだ勇者が覚醒していない時代なのね……! あはは! これで魔王軍の勝利は確実ね!」
「みんな、大丈夫ですの……!?」
「なに、あの魔族……あり得ない量の魔力を……!」
「しょ、初心者ダンジョンなのになんでこんな……!」
「衛兵……は、遠すぎますわ……!」
「……誰か1人でも生き残って、ギルドに報告しないと……この町、いえ、人類圏はおしまいですわ……!」
「………………………………」
えぇ……。
なぁんで、よりにもよって魔王ジュリオン様ルートで右腕だった魔族のお姉さん――エロディーさんがここに居るのぉ……?
ある意味で「攻略できないヒロイン」だった女幹部ポジのお姉さんが。
あと、あと10年後に学園で初登場するはずのヒロインたちまでここに何人も……?
◆◆◆
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