2話 「女装メス堕ち悪役貴族」になった僕とドジっ子メアリーちゃん2
さて。
僕はあろうことか、どうあがこうが死ぬかメス堕ちするかしかない悪役貴族に転生してしまった。
ひとまず――ジュリオン様がエミリーちゃんのぶっかけで本当に昇天した疑惑、かつゲーム世界転生ということにしておこう。
そうなると……あれ?
とりあえずでジュリオン様が起こすだろうあれこれは、僕が入っている以上には起きず、かなり平和に進められる……?
「へ、へへ……ジュリオンさまぁ……お、怒ってますぅ……?」
へっぴり腰で媚びようとして――びびりすぎててかわいそうな美幼女なエミリーちゃんを見る。
けども。
そうは思うけど。
そうは思うけども――もし僕が、ここで目覚めていなければ。
身分制度が絶対、かつ魔法という異能で物理的な支配者層の貴族令息が使用人に対して無意識で力をセーブするなんてのは、子供のうちだけ。
少なくともゲーム開始時点までに――つまりは高校入学時点では父と兄が死亡し、ジュリオンが家督を継いでいる。
そうすれば、多少なりともやんちゃ成分を制御できる父親、それに兄が存在しなくなり、制御はなくなり増長し――遠慮することなく暴れ出す。
ジュリオン様とは――こうした下地の元、究極的な悪役の才能を秘めていながら、ルートによってときに魔王となり、ときにはメインルートから分岐した瞬間に主人公に瞬殺される雑魚となり。
あるいはゲームスタートしてしばらくして「あれ? もしかしてこれジュリオン様開始前死亡ルート?」とユーザーに首をひねられる、かよわいいきものにもなるのだ。
ゆえに、『ジュリオン様』。
すごいとこもダメダメなとこも含めて、男女から人気が――いや、後述の理由でジュリオン様ってば女の格好をさせられるから、主に男同士の恋愛にご興味のあるお嬢様方から愛される割合の方が多いけども――ともかく人気のあるキャラクターだ。
まぁ強いルートでは本当に手強いし、普通に悪のカリスマって感じで……うん、やってることはともかく、悪の親玉としての振る舞いはかっこいいなって男の僕でも思ったくらいだし。
あと、主人公の対になるキャラとあって、強くて顔が良い。
男性ユーザーからも、そういう面では普通に人気がある。
悪のカリスマ的な存在。
僕は――「それ」になっている。
最強ルートでは「魔王」にもなるポテンシャルのある、ジュリオン・デュクロワに。
……なお、記憶にあるまでのアプデまでを含め、ジュリオン様が生存するルートは10いくつ。
多いって?
ああ、多いよね。
じゃあそれを狙えば良いって?
ああ、良いだろうね。
――それらのすべてが主人公に敗北し、虐げてきた誰かに心まで屈して「女装」して媚びへつらう「女の子」になってなければね。
奴隷身分にまで落ち、ときに屈辱的な顔をしながらも抵抗のできない末路でなければね。
その生存ルートの最後の文章が「ジュリオン・デュクロワは一生涯、己の罪を悔いながらその魂を削る姿となり生きるのだった……」とかじゃなければ……!
だからお姉さま方に大人気すぎて……特に男キャラの奴隷になったルートでの「ジュリオン様」っていうジャンルになってるほどだから……薔薇が刻まれた薄い本が山と積まれるジャンルだから……。
ああ、思い出しただけで身の毛がよだつ。
なにしろ僕の未来の可能性だからなぁ……。
まだ思い出せないながらも、前世にて興味本位で見てしまったその手の薄い書籍の記憶が僕の魂を削っていく……。
やめて、ノーマルな男は男同士のめくるめくワールドを観測すると魂が削られるんだ……せめて、せめて女の子同士のそれを見せて中和……できない、もうだめだ。
――べちゃっ。
僕の顔が、冷たくて臭いなにかに包まれる。
べちゃべちゃ。
ふきふき。
「じゅ、ジュリオンさまぁー……? け、今朝はお日さまがあったかいから……ふへぇ……」
僕の顔を拭き拭きして、にへらと精いっぱいの笑顔を浮かべて、どうにか僕の怒りを鎮めようとしているらしい彼女。
「ああ……駄目だありゃ」
「エミリーも、ドジに加えて頭もねぇ……」
「良い子ではあるんだがなぁ……」
「また折檻か……かわいそうだが……」
「エミリー……どうして……」
……うん。
こんな天然入ったドジっ子キャラ、そりゃあ男から人気出ないわけないよね……今は子供で平坦だけど、ゲームの時間軸で魅力的なボディラインになるんだし。
でもさ、君……それ……。
「……はわっ!? こ、これ、お馬さんのための雑巾……!?」
……だよね……すっごく臭かったもん。
うん……精いっぱいがんばってそれなんだよね……メインヒロインとして各イベントの起爆剤になってたから知ってたよ……。
なにしろ99ルートもある世界のメインヒロインだからね……それはもう、息を吸うようにやらかすんだよ……。
「もうダメだな……」
「ああ……」
「普段からアレなのに、よりによって馬小屋掃除のためのバケツに雑巾を顔にかけたと知ったら……」
「き、今日は、使う前なのだけがかろうじて……」
あ、どおりで動物臭のタイプの臭さ。
ばっちいね。
でも使う前で本当に良かったね……さすがに使用後じゃ擁護のしようもないもん。
……子供とはいえ、主君にそんなもんぶっかけるとは……エミリー、いや、エミリーちゃん……君、本当にドジっ子としては天才的だよね。
実際他の使用人たちの態度も「あれだけやればなぁ……」ってのだった――のを、ジュリオン様(幼)本人も理解してたみたいだからこそ存分に折檻してたみたいだし。
うーむ。
……これ、そもそも無事に主人公くんに遭遇するまで生きていられるかも難しくなってきたぞ……?
「わ、わたしぃ、お馬さん大好きなので……えへ、ジュリオンさまからお馬さんの匂いしても、ほら……う゛っ」
エミリーちゃんが、ヒロインがすべきでない鳴き声と顔をしている。
うわ、くさそう。
あ、むせてる……うん、臭いよね。
僕も嗅いだからよく分かるよ。
「………………………………」
……バフンウニからウニを取っちゃった臭いを放出するジュリオン様。
これが……僕の今世か。
大体死んで、死ななくてもひどい未来が待っていて、ついでに現在もひどい――ああ、これが不憫なジュリオン様だ。
◇
【BAD END/No.31:エミリー「ふぇぇ……ジュリオンさまが、お馬さんのお水で死んじゃいましたぁ……」――回避】
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