13話 すてきなセレスティーヌさま(by エミリー)2
「……おい。何故エミリーが泣いている」
「申し訳ございませんっ! ……ちょっと、泣き止みなさい!」
「あ゛うっ!?」
ばちん。
またぶたれました。
ぶたれるのは、怖いです。
でも、それよりも怖いものが――。
「――僕の前でエミリーを――僕の所有物を傷つけるとは、良い度胸だな?」
ぶわりと、魔力が膨らむのを感じます。
「い、いえ、滅相もございません!」
「そ、そうです! セレスティーヌ様の代わりに……ジュリオン様のお手を煩わせないようにと……!」
――これまでは。
わたしがお屋敷に拾われて、お掃除をことごとくできなかったのを、いつもセレスティーヌ様が目の前で――実に楽しそうに笑って、収めてくださっていました。
でも、もうそのお方はこの世界には居ません。
……わたしは、初めて守ってくれた「お母さま」を、喪った。
そう思ったら急に心細くなって、泣くのが止まらなくて。
これまでわたしがお屋敷の絨毯から窓ガラスまでなにもかもを台無しにして、そのたびに使用人のみなさんのお仕事を増やしていました。
なのに、あからさまにひいきされている――当時はひいきだなんて想像もできませんでしたけど――わたしへは、少し前から我慢ができなくなって、軽くではあってもぶたれたりするようになっていたんです。
「だ、だいじょ……ひぐっ……」
大丈夫です。
わたしは、生まれたお家では毎日お母さまとお父さまと使用人の人たちにぶたれていました。
あのときはもっともっと痛かったので、今のはへっちゃらです。
ただ怖くて、あとちょっと痛かったので泣いちゃっているだけです。
わたしが悪いので、他の人を怒らないでください。
――そう言いたかったけれども、わたしの動かないお口は泣くだけで。
「……成る程な。くくっ……くくくくくっ」
「ほぇ……?」
ジュリオンさまが、急に――セレスティーヌさまがお怒りになる直前の笑い声をマネされて。
「――良いか、お前たち。『これ』は、僕のものだ」
ジュリオンさまは――すごい密度の魔法を、手のひらにお載せになっています。
「ひっ……!?」
「ジュ、ジュリオン様……!?」
「行けません! そのような魔法を人に向けては――」
「――――――――――あ゛うっ……」
それは――わたしにそのまま飛んできて、体をびりびりっとさせました。
「……え?」
思わず息が止まる――けれども、それは寒い季節にドアのノブを触ったときの、あの自然の雷の魔法よりも弱くって。
「?」
……痛くない。
ぶたれたのなんか、比べものにならないくらい。
なのに、わたしの体のまわりはばちばちって火花が散っています。
なんで?
「……ひどい……」
「何十秒も――死ぬくらいの時間を、雷魔法で痺れさせるなんて……」
「ジュリオン様! どうかもうお止めください! でなければエミリーが死んで――」
「――ふぅ。ああ、愉快だ。魔法を人に向けて撃つのは――楽しいからな?」
「ひぃっ!?」
「お、お助けを……!」
ジュリオンさまが――セレスティーヌさまが本当にお怒りになったときの、あの笑顔を浮かべると、みなさん、わたしへのことなんか忘れてあっという間に逃げてしまいました。
「……ほえ?」
「エミリー」
「ひっ!?」
――条件反射っていうものらしいです――それでわたしは、ぎゅっと目を閉じてしまいました。
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………?」
でも、何秒待っても叩かれません。
あんなに怒っていたのに?
恐る恐るで目を開けると――。
「……ケガは、ないか」
「へ」
「痛む場所は」
「あ、はい。さっき転んで打ったところと叩かれたところが」
「……僕の攻撃は」
「え? あ、ぴりぴりしましたけど……」
わたしは――魔法が直撃したはずの胸元をぺろんとめくってみました。
「……なんともない……」
「ふむ。こういうときのためにとお母様が教えてくださったエミリー用の折檻魔法……これは使えるな」
「……?」
「いいか、エミリー。これからは僕が、今みたいに折檻する。使用人たちにもそう伝える。これからお前が粗相をしたら、僕の前に連れて来られる。叩かれたりはせずにな」
ぱちくりとしながらも、必死に理解しようとするわたしを――ああ、そうです。
ジュリオンさまは、セレスティーヌさまと同じように――「わたしが理解し終えるまで、じっと待ってくれるんです」。
「ぼけっと座り込む私の真ん前に座り込んで、同じ目の高さにしてくれて」。
「何度でも何度でも、言ってくれるんです」。
「それでも分からなかったら、もっと簡単な言葉で言ってくれるんです」。
「そうしたら、いろんな魔法を投げつける。お前は、痛がれ。苦しんだフリをしろ。そして、他の人間が折檻しようとしたら、僕が折檻を楽しみにしていると言え」
「……は、い……?」
「……1度に全部を理解しようとしなくて良い。エミリー、お前は苦労するスキルのせいでそうなっていると、お母様がおっしゃっていた。僕はそれを信じている。だからお前が聞こうと努力――がんばる限り、僕は怒らず、何度でも同じことを話す。良いな?」
「……はいっ」
「良し、素直は良いこと……!?」
知らず――手元に温かい水滴がぽたぽたと垂れていたのを不思議に思い、下を見ました。
……それは、わたしの涙でした。
「お、おい、やはり痛かったか!? 威力は最小限に、僕自身の体で試したが……エミリーは魔力の素質が高いから大丈夫だろうとお母様はおっしゃっていたが、やはり僕と同い年の子供だし……」
それを見たジュリオンさまは――。
「……くすっ」
なんだか、とてもかわいらしくて。
「……そうだ。攻撃の後、毎回治癒魔法も掛ける。でないとどれだけひどい目に遭ったのかと、心の優しい使用人仲間がお前の治療をしようとし、気づいてしまうかもしれないからな」
「はい! よく分からないけど分かりました!」
「……ああ、それで良い。お前は、元気にしていろ。女は、笑顔が1番だと――亡くなったお母様が――いや、母上が言っていたからな」
わたしは――今なら、分かります。
わたしはあのときに、ジュリオンさまに――全部を捧げたいんだって、心の底で思うようになったんだって。
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