11話 我が主君――セレスティーヌ様(by ベルトラン)2
セレスティーヌ様。
人類圏の最大の国家――事実上、ほとんどが人類そのものと表現しても過言ではない、圧倒的優勢を誇る魔王軍との最前線で戦う勇敢な貴族階級――その頂点の、王族。
その姫として生を受けたあの御方は――幼き頃より既に、非凡すぎる才能を発揮されていました。
曰く、6歳までは朗らなるも聡明な乙女。
曰く、7歳の時点で全ての家庭教師から「この御方に教えるべきことなど存在しない」と告げられた神童。
曰く、この国から「女は児を産めばそれで宜しい」という風潮を、その存在だけで根絶した、天の才を持つ乙女。
曰く、冒険者の半分以上が女性で占められるようになり、ひいては都会から田舎までをことごとく平穏にせしめた、王族の中の傑物。
曰く、7歳にして初めて手にした獲物で、全ての王国騎士団員との一騎打ちで圧倒的な勝利を得た姫。
――正直なことを申します。
これで首を刎ねられたとて、後悔はございませぬ。
それらは全て、王族の姫に対する過剰なまでの神格化だと、心のどこかでそう思っておりました――その日に御身直々に見初められ、私めの秘められし才能が、御身があの日視察に選ばれた場が、あの会場でなければ。
そして――私めを取り立て、騎士団で切磋琢磨させ――御自ら私めを鍛えてくださり。
平民出身の兵士が、僅か数年で騎士団長へ。
王を始め騎士団員の満場一致、そして何よりもセレスティーヌ様から直接のご指名により、武人として――人類全ての国家の武人としての最高峰に昇る栄誉を賜り、実際にその甲冑に袖を通すまでは。
◇
以来私めは数十年の間、王国騎士団長としての責務を果たして参りました。
数度の魔族からの大攻勢を退け、数度の人類からの反転攻勢により百にも上る移民都市を実現させ。
「……ベルトラン、悪い。暫し、匿え。……ふふ、何、いつもの父上の癇癪だ。私の癇癪の大元故、大目に見ろ。どんなに優れた人物とは言え、欠点というものがなければ、それは人に非ず……と言うだろう?」
そう――年に数度は突如として私めの天幕へ訪れ、一兵卒としての地位を希望し、雑兵の兜で正体を隠し、魔王軍を蹂躙し、人類最大戦力の王国の姫としての役割への憤慨を――魔物と魔族の血を浴び尽くすことで満足し、兜を脱いで周囲の度肝を抜かせ――あの天女の笑顔を向けられてご帰還されるというお戯れを繰り返されました。
その笑顔で、一体何十何百万の兵士が魅了され――為に、王国及び人類の版図を最大にまで拡大せしめたか。
全く、あの御方は罪な御方です。
あの御方が一言命じさえすれば、我ら騎士団員、そして一兵卒――一市民に至るまで、その命を躊躇いなく捧げたでしょうに。
しかしあの御方は、殊更に人命を何よりも大切に成された。
曰く、人材は国家の礎。
曰く、新人の教育には多額の費用がかかるもの。
曰く、教育を疎かにする国家はすべからく滅びる。
曰く、全ての人間には必ず役目があり、それを見いだせないのは、引いては王家の失態。
曰く――「ともあれブラックキギョウは死滅させよダメゼッタイ」。
結局、御身が身罷るまで「ブラックキギョウ」なるものと「ダメゼッタイ」なる用語は終ぞ理解されなかったものの、民を大切にされるその姿勢に――当時汚職で塗れていた貴族の全てが改心し、その私財を国庫に捧げ隠遁したという逸話は真実であります。
お陰で今日に至るまで大規模な不正に汚職、魔族との内通などは存在できず、どんな孤児でさえも騎士団へは全幅の信頼を置いているまであると聞き及びます。
――誠に残念ながら、徐々に当時を知らぬ者が増え始めております。
そして、あの御方の遺されたこのデュクロワ領でも――いえ、今はよろしいでしょう。
また、平民の少年少女が短命にとなっていた原因の長時間労働を取り去ったために、健康な平民が俄に数を増やし――総じて王国、いえ、人類圏の経済活動を飛躍的に底上げした、とは、学者が口をそろえて申すことでございます。
――それほどまでの美姫セレスティーヌ様は、ある日、突如として。
とある辺境伯の御方――デュクロワ侯爵との婚姻を、父上たる王へのご相談も無しに宣言されました。
尚、その際にセレスティーヌ様の発案により実現しました最先端の経済活動――「カブ」が、一時的に紙くずになったほどでございます。
……余談になります。
当時、私めが光栄にも御身の――王国第一王女から辺境伯夫人になられる時期に直属の護衛を命じられた時期に、「気になることがあれば何でも言うが良い。貴様の活躍は私の誇りである」との……恥を忍んで申し上げるならば、どんな肉体的快楽もどんな精神的快楽も、およそ比較にならないお言葉を掛けていただきました。
故に、斬首覚悟、一族郎党晒し首を覚悟でお尋ね申し上げました。
――「何故に御身は、交流が数えるほどであられた辺境伯とご成婚を」――と。
正直に申します。
デュクロワ辺境伯――旦那様は、控えめに申しましても優れたお方「止まり」でございます。
しいて申せば美男子として、その幼少の頃より王都にまで歌が聞こえて参りましたが……全てを識るあの御方が、まさか顔だけで選ばれるわけもございますまい。
そのお返事は――余りにも衝撃的で正確に記憶できてはおりませぬ。
しかし、次のような天井のお言葉を、御身にあらせられましては余りにも恍惚としたお顔で口ずさまれていたのだけは、はっきりと存じております。
何しろ、余りに珍しく、けれども印象的だったゆえ。
――「私な? 本当はこの世界の外から来たのよ」
――「……ああ、そうよ、神々の世界と思ってもらっても良い。この世を俯瞰する上位の世界――嘘ではない」
――「そこで私は、この世界を見ていた。隅々まで観察しておった。輝くところも汚泥に塗れるところも含めて、憧れていた。――好きだった」
しかし――その後、お美しいお顔が、少しばかり曇り。
――「何故私は、『ゲンサクカイシマエ』に生まれてしまったのか」
そう……続けられました。
嗚呼、展開より来たりし女神よ、戦女神よ。
きっと、貴女にとってこの世界は――余りに戦い甲斐のない、退屈な戦場だったのでしょう。
◇
【END/No.-05:「転生世界が観測世界に至らないが故の人類絶滅」――回避】
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