10話 騎士団長との訓練は初日で卒業(未受講)1
「ジュリオン様。私めからお教えできることは、この程度です」
「いや、助かった。礼を言う」
魔法攻撃ぶっ放すのと軽い講義以外はなんにもしてないけど、こういうのは「気持ち」に対して言うものだって知識がある。
あれだ、「助けてくれようとしてありがとう」って感じでの感謝。
「なんと……なんと心優しき御方……!!」
「おじいちゃん、鼻水すごいですよぉ?」
「これは失礼。……チーンッ!」
「あ゛っ……私のお気にのハンカチ……あぅぅ……」
結局。
とりあえずあのエビルジャッジメント――必殺技は、生命の危険がある場合を除き、封印。
いろんな魔法攻撃を試して……最終的には普段エミリーちゃんがやらかすたびに最小出力でちくちくいじめてた、ジュリオン様のレパートリー豊富な魔法を普通に出せば、初級ダンジョンの低層なら戦闘力では問題ないという判定。
ボケたとはいえ元騎士団長お墨付きだ、「最低でも5年目の兵士並みの練度でございまする」とか言ってたから、ボケとよいしょ分をマイナスして「入隊後5ヶ月目の新兵程度」にはなってるはず。
そして当面は魔力が切れる心配はなし、ゆえにただただ習熟と経験だと。
で、役に立ったのは座学のほう――っていっても1時間も教わってないんだけども。
一般市民としてダンジョンに潜る際の冒険者登録とか、平民への紛れ方だとか――いわゆる冒険者としての一般常識こそが、最も知りたかった部分だ。
あとはダンジョンの基本構造とかトラップ――罠の種類とか見分け方とかを簡単に。
細かいところは……初心者同士でパーティーをなんとか組んだ先で実地で覚えるしかないな。
なにしろ痴呆の進んだじいさんの言うことだ、話半分、かつ半世紀前の常識って思っとかないとね。
ちなみに。
初心者ダンジョンで出現する罠の種類は、だいたいエミリーちゃんからのドジっ子スキル攻撃で全部経験していて、その対策も当然ながら知り尽くしているし、そもそも反射で対応できるようになっている。
唯一の回避不可能かつ死亡判定になった疑惑のある冷水くらいかな、気をつけるべきなの。
……エミリーちゃん……君、きっとダンジョン関係のお仕事したら――いやダメだ、ドジっ子スキル攻撃で数多の冒険者を屠りかねない。
エミリーちゃんが無自覚大量殺人鬼になってしまう。
それはいけない。
この子は癒やしであるべきなんだ。
やっば君は学園へ僕の付き人として入って主人公くんに見初められるまでステイしててね。
大丈夫大丈夫、主人公くんはこの世界でいちばん強くなれるから冷水トラップ程度じゃ死なないんだ、好きなだけドジっ子してくれたまえ。
まぁストーリー進むとドジっ子スキルの真の価値が出てくるし、緩和もできるようになってくるから我慢だよステイだよエミリーちゃん。
「町までの馬車は、途中までがよろしいでしょう」
「ああ、うちの馬車には紋章も刻まれているし、そもそも上質すぎて目立つからな」
「ああ……! 誰にも教わらなんだのにこの智力! 流石セレスティーヌ様の子で在らせられる! ……はっ! まさか、蔵書庫へ毎日のように通われていたのは、全てがこのために……!」
……僕の反応にいちいちのこれがなければなぁ……毎回泣いて鼻水出してるし……誰かケアマネージャーさん呼んだげて?
「ほへー、ジュリオンさまぁ、かしこかったんですねぇ」
うん、エミリーちゃん……君はかしこいエミリーちゃんのままで居てね。
「以後の道順や最寄りの町の案内は馬車内でさせますゆえ」
「ああ」
「あとは……本当にお一人でよろしいので?」
「うむ、片道数時間を毎日往復するより、泊まりの方が便利だからな」
ちなみにこの世界、僕みたいなちんちくりんでもお金さえ出せば普通に宿にも泊まれるし、冒険者登録もできるしお仕事も受けられるんだってね。
なにしろ孤児でさえ一攫千金を夢見て冒険者になる程度には魔王軍の侵攻がすさまじくって、人手が足りないから基本的に誰でもなれるんだとか。
人の命が軽い世界観だからね……魔王ジュリオン様に、さくっと町がいくつか蹂躙されるのとかあったし。
うん……ごめんね、僕、ミスったらその原因の魔王になっちゃう……なっちゃったら、せめて一瞬で葬ったげるから許して……?
というか、こんなにあっさりと外出どころか外泊許可が出るとは。
いや、楽だったけどさ……やっぱ留守任せるのまずくない?
え?
ゲーム開始の10年後までは屋敷も存在してるから大丈夫?
そりゃそうだけどさぁ……。
「セレスティーヌ様――ジュリオン様。数日分のお召し物や金銭をここに」
「まさか、1度も町へ降りたことがないのに屋台での買い物も心得があるだなんて……!」
「やっぱり、セレスティーヌ様が甦られて……!」
……うーん。
これ、完全に僕=やべー女だったママンって認識だわ……なまじさっきの必殺技でやべー出力見せつけちゃったせいで……。
ほんと、ジュリオン様ボディの素質ってばやばいね。
まぁ見た目が見た目だしなぁ……母親と息子は似るって言うし。
そんでやべー女がやべーことして不慮の事故で亡くなって発狂してたら息子が母親の服着るとか……ああうん、スイッチ入れちゃったの僕だわ。
「ジュリオン様。馬車が間もなく到着致します」
「御者、町の情報をお伝えする者は、いずれもセレスティーヌ様と共にこの家へ来た者のみ。どうかご安心を」
「ああ、感謝する」
「ジュリオン様……!」
あ、もらい泣きが数人に拡大してる……なにこれ怖い。
「じゃ、行きましょっかジュリオンさま!」
「は?」
「え?」
「ん?」
「………………………………」
「………………………………?」
こてんと首をかしげるエミリーちゃん……さすがはメインヒロインの一角、破壊力が高いな……とはいえ。
「お前は、留守番だぞ……?」
「………………………………」
体の傾きが深くなるエミリーちゃん。
「……? なんでですかぁ?」
あ、さりげなく荷物持ってる……まさか本当に数日がかりのはじめてのだんじょんに着いていくつもりだったの……?
◆◆◆
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