7話 現庭師・元・王国騎士団長ベルトランおじいちゃん3
「ベルトラン。話がある」
「おお、ジュリオン様。本日は日光浴――――をおおおお!? セ、セレスティーヌ様ぁぁぁぁぁ!? も、申し訳ございませぬ、私めに何か不手際がぁぁぁぁ!? ために私めをわざわざお迎えに……それともこれが黄泉の国への……!? なんという素晴らしき最期なのだ……!!」
ステイステイ、おじいちゃんステイ。
庭に出た僕は――なお後ろにはうっきうきのエミリーちゃん、普段僕を世話してくれてる使用人たち、あとなぜかアメリアちゃんの使用人までがぞろぞろと着いてきている――ぱちんぱちんと木の剪定をしていた老人に声を掛けた。
そうしたら僕を見て手元を見て、んで僕をもっかい見て仰天してひっくり返った。
こ、腰とか大丈夫……?
ほら、ご老人は1回転んだだけで寝たきりとか……あ、大丈夫そう。
俊敏だね……ああ、そういやこの人は確か2年前までは――。
「……大丈夫か、ベルトラン」
「おお、もったいなきお言葉で――……む、ジュリオン様?」
「ああ、ジュリオンだ」
「そ、そのお召し物は一体……あと、髪も本日は後ろで……」
「あのねあのねベルトランおじいちゃん! ジュリオンさまは……」
尻もちをついていたのに、見た通りの庭師的な老人ではあり得ない速度で起き上がるベルトラン。
そこへ待ってましたと主観たっぷりに話し出すエミリーちゃんに任せる。
――ベルトラン。
元・王国騎士団長。
現・この屋敷の警護担当トップ兼庭師。
若いころは大活躍し、老齢に差し掛かりながらも騎士団長の座を長く勤め――セレスティーヌ死亡をきっかけに、責任を取って引退。
以後は急速に老けながらも、彼女の遺した子供のうち立派に育った兄はともかく、ぼんくらぼんぼんで言うこと聞かない癇癪坊やな僕を魔族の干渉から守るためにと、趣味の土いじりついでで庭師をしているご老人――だったはず。
魔王ルートでは「せめて私めがジュリオン様をお止めいたしまする!」って突撃して、動揺があったとはいえ魔王ジュリオン様に傷を負わせつつつも、返り討ちに遭う。
しかしそれで主人公陣営にとっての負けイベントまでな「ジュリオン様無敵モード」が解除されて、「あのジュリオンでもダメージが入るんだ……!」って人類サイドの士気が上がるっていう、イベントのためのキャラ。
つまりは土いじりな余生を過ごして10年経った未来でも、鍛え直せば主人公パーティーの助っ人――イベント的なものではあってもそうなれる実力がある人だ。
なら、母さんが死んでからたった2年しか経ってない、現段階なら?
――ゲーム内でのスポット出演でのレベルは、突出して40。
主人公たちの推奨レベルと遜色ない実力で――老齢のためって理由で一撃しか与えられなかったけども――今は、そのレベル40の実力の大半を保持しているはずだ。
これはメインキャラ以外では、破格のレベル。
だって主力パーティがレベル40あれば魔王ジュリオン様、撃破できるもん。
まぁ年取ってるからレベル通りの戦闘能力は衰えていくんだろうし、継戦能力も――こうして現実的には衰えているんだろうけども――つまりこの人に鍛えてもらえば、僕もレベル30、20程度までは届く……はず、だと良いなぁ。
ちなみに学園が始まって主人公たちにいちゃもんをつけて攻撃するジュリオン様のレベルが一桁レベルで、それでも周囲を圧倒していたところから、彼のレベルというか所持できるスキルの数は、正直異常。
下手するとレベル1の段階で所持してるあれこれで充分に強い疑惑。
まぁジュリオン様だし、レベル表記が主人公ほかのキャラと同じかすら疑問視されてたし。
怠けても有能な家庭教師とか指南役にそれらを教わって習得してただろうし、魔王ジュリオン様戦を思い出しながらそれらを優先して鍛えていけば、かなり心強くなれるはずだ。
しかし、40ねぇ……シナリオ的な都合なのか、それともこの人くらい強くないと辺境伯に従事していた王国騎士団長は務まらないほどに魔族と魔物の襲撃がきついのか。
この世界はゲームに酷似しながらも、すべての人が生きている。
ということは……人類圏を脅かす魔王軍は、やっぱり現実の脅威なんだろう。
………………………………。
……この世界の人たちの平均レベルとかも知っておかないとなぁ……。
「……成る程、そういうことでしたか」
え?
顔を上げると、なんだか普段の庭師から一転、眼光鋭く、一気に数歳若返ったような――ジュリオン様としてこの2年見ていたただの爺さんから壮年の騎士にまで戻ったような印象の彼が、僕を見てきている。
あれ?
……エミリーちゃんの「あのね」を連呼してた説明、聞いてなかったけど……君、どんな説明したの……?
「セレ――ジュリオン様。何をお望みで?」
「……ああ」
あ、でも、結果的には僕のお願いを理解して――
「今すぐにセレスティーヌ様を偲ぶ数百人を招集し、王城へ奇襲を掛けあの愚王――失礼、よりにもよってたかが貴族数名の面子のために、御身の元第一王女を犠牲にしたクソボケカス王の首を広場に飾られますかな? それとも愛を誓ったはずのあの御方を見捨てる判断をなされた男として蔑むしかない存在の現ご当主様方を屠り、ジュリオン様を当主としてデュクロワ家を独立し――――」
待って待ってステイステイストップストップ、それやばい話!?
あとなにその言葉のチョイス……もしかして王家とパパンに対して、めっちゃヘイト溜めてたりするぅ……?
「……そんなことは望んでいない。止めろ」
「成る程……今はまだ、雌伏の時と」
「そうではない」
お願い、聞いておじいちゃん。
「流石はセレスティーヌ様亡き後、態と道化を演じられてきたジュリオン様ですな。あの日よりあからさまに頭の働かない凡愚となっておられましたからな。私めは信じておりましたぞ」
おう、言われてますよジュリオン様。
「念には念を重ね、確実となるまでは尻尾を掴まれないようにと。このベルトラン、承知致しました」
「そうではない」
「はっ。『そうではない』――ということにしておきまする」
「………………………………」
あの、待ってベルトラン?
いや、ベルトランさん?
なんか盛大に勘違いしてない?
こんな子供相手に、どうやったら今すぐにデュクロワ領とか王国とかに対してクーデター起こそうとか言い出してるの?
あなた、そんなキャラでしたっけ?
……スポット出演しかなかったから細かい設定とかわかんないんだよなぁこの人のこと……。
「ベルトランおじいちゃん、つまりどういうことなんですかぁ?」
「はっ、エミリー様。ジュリオン様は……セレスティーヌ様の仇討ちのため、然るべき時間が過ぎるまで大人しくなされていた、ということです。2年間も恥辱に耐え……社交界でも態と披露され、後ろ指を指され……我々もどれだけ血の涙を流したことか……うぅ……」
おじいちゃん、泣かないで。
ほら、飴ちゃんとかあげるから。
「違うが」
「って言ってますけど?」
「ほっほ。『そういうこと』にしておくという思慮深さですじゃ」
「ほへー?」
ああエミリーちゃん、君はなんてエミリーちゃんなんだ……ほっとするね。
できればこのおじいさんたちにもその純真さを分けてあげてほしいな?
「……ともかく、ベルトラン。僕は、ダンジョンに潜るつもりだ」
「成る程。父君や王に不審がられることなくご自身を鍛えるのに、これ以上なく向いておりますからの」
「……そういうことだ」
「畏まりました。只今手筈を整えまする」
なんだかよく分からない勘違いのことは置いておき、僕が今からやろうとしていることと方向性は一致している。
……僕、ただ将来に主人公たちに負けて死ぬかメス堕ちするかって未来を回避するためにレベル上げしたいだけなんだけど……まぁいいや、どうせ勘違いってすぐ分かってくれるでしょ。
◇
【END/No.08: ベルトラン「全ては、セレスティーヌ様が亡くなられたあの瞬間より。このベルトランが――介錯致します、ジュリオン様」――回避】
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